作家・アルテイシアさんと考えるジェンダー表現「言葉は文化をつくるが、呪いにもなる」|新聞労連公開シンポジウムイベントレポート#1

“女医” “弁当男子”……言葉は呪いにもなる

言葉は文化をつくる一方で、呪いにもなります。例えば「女医、リケジョ、女社長、女流棋士」。どれも男性には言わない言葉ですよね。逆に「イクメン、弁当男子」は女性には言いません。その裏には「女性なのに」「男性なのに」という意識があるわけです。

「女性でも運転しやすい車」というフレーズがあったとしたら、その裏には「女性は運転が苦手なはず」という思い込みがあります。これは女性差別なうえ、運転が苦手な男性をも「男のくせに運転が下手なんて」と苦しめてしまう。「女性ならではの気遣い」という表現も、女性は気遣いできて当然で、男性はできなくてもしょうがないという偏見に基づいています。男性だって、上司や取引先にはすごく気を遣っていますよね。

男性を苦しめる偏見でいえば「男は強くあるべき」という型もありますね。男の子は「男なんだから泣くな」と言われて育つと、感情を出すのを怖がるようになります。女々しいと言われていた「恥ずかしい、怖い」という感情に蓋をして、男らしいとされる「怒り」や暴力に変えてしまうようになるんです。自分の感情を言葉にする力がないと、他人への想像力が身につかないし、誰かと繋がりを築くことも難しくなります。社会の治安のためにも、「男は強くあるべき」という呪いや抑圧を取っ払ってほしいです。

男性の中には、ジェンダーの話をすると自分の権利を奪われると感じる人もいます。が、そうではありません。ジェンダーを学べば、男性も幸せになれます。性別役割分業や偏見に満ちた型から解放されたいのは、男性も同じですよね。長時間労働で会社に使い古される人生をやめて、家族や友人と過ごす幸せを味わって、趣味を楽しんで、自分の心身をケアする権利を取り戻してほしいと思います。

デンマークとスウェーデンでは、同性婚が合法化した後に、同性婚カップルの自殺率が46%減ったという研究があります。興味深いのは、異性カップルの自殺率も28%減っていること。セクシュアルマイノリティへの差別がない国は、ほかの属性への差別もないわけで、みんなが生きやすい社会です。一方で日本は、子どもの精神的幸福度が38カ国中37位。下の世代のために、みんなが共生できる社会をつくっていくことが、われわれ中高年の義務だと思います。