人気絶頂時に公開された劇場版『マジンガーZ対暗黒大将軍』は、当時の子供たちを大興奮させた稀代の名作です。その影響力はすさまじく、後にいくつものオマージュを生んだことで知られます。
1974年公開『マジンガーZ対暗黒大将軍』 (C)ダイナミック企画・東映アニメーション
【画像】こちらがその「暗黒大将軍」と衝撃的なほどにボロボロな「マジンガーZ」です(12枚)
人気最高潮だった『マジンガーZ』が迎えた最大の危機
本日7月25日は、1974年に「東映まんがまつり」の1作として『マジンガーZ対暗黒大将軍』が公開された日です。今年2024年で半世紀の時が経ちました。公開当時、子供たちに大きな衝撃を与え、後の作品群にも大きな影響を与えた作品となります。
この時の「東映まんがまつり」は、当時の人気アイドルグループだったフィンガー5の出演映画『フィンガー5の大冒険』がメインに据えられていました。このほか『五人ライダー対キングダーク』をはじめ、『ゲッターロボ』(第6話のブローアップ版)や『イナズマンF』(第12話のブローアップ版)、そして『魔女っ子メグちゃん』(第1話のブローアップ版)といったラインナップです。
もっとも、上映時間を比べるとわかりますが、メインである『フィンガー5』は28分、『五人ライダー』も28分と、ブローアップ版とほぼ変わらないのに比べて、『マジンガーZ』は43分と最長でした。つまり「東映まんがまつり」としての看板は『フィンガー5』でしたが、実質的なメインは『マジンガーZ』だったといえるかもしれません。
この当時、『マジンガーZ』の人気は最高潮ともいえる状態で、TV放送も7クールに突入するほどの勢いのある作品でした。オイルショックの影響もあって特撮ヒーロー番組が低迷してきたなか、当時の「マジンガーZ」は子供たちの大好きなヒーローの頂点だったといっても過言ではないでしょう。実際、当時の子供だった筆者の体感もそうでした。
そのマジンガーZ最大のピンチを描いたのが、この劇場版映画『マジンガーZ対暗黒大将軍』です。というのも、TV版で戦っていた敵「Dr.ヘル」以上の強敵である「ミケーネ帝国」が新たなる敵として現れたからでした。指揮を執るのは、タイトルにもうたわれた「暗黒大将軍」です。
もともとミケーネ帝国の設定は、『マジンガーZ』の根幹をなす存在でした。古代ミケーネ人が残した巨大ロボを改造して、Dr.ヘルは「機械獣軍団」を生み出しています。この機械獣を超える存在として劇場版に登場したのが、純正なミケーネ帝国の「戦闘獣」でした。それが7つの軍団、合計13体も出てくるわけです。
前年に劇場公開して子供たちの心を鷲掴みにした『マジンガーZ対デビルマン』以上に、当時の子供には話題の映画でした。そして、この映画でニューヒーローが出てくることになるわけです。それが「グレートマジンガー」でした。
『対暗黒大将軍』と、伝説の『対デビルマン』を収録。「マジンガー the MOVIE (1)」(東映ビデオ)
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実は映画の前にお披露目されていた「グレートマジンガー」
グレートマジンガーのデザインは映画に先駆けて発表されており、このことは当時の子供にはよく知られた事実です。なぜなら子供向け雑誌「テレビマガジン」(講談社)1974年4月号から始まった読者企画「マジンガーズクラブ」の会員証に、グレートマジンガーの顔がデザインされていたからでした。
もっとも、この時にグレートマジンガーであるという発表はなく、筆者たち当時の子供は「マジンガーをデザインしたマーク」程度に思っていたわけです。この見慣れたマークが数か月後にニューヒーローとして現れました。この感動は当時を知る人ならばわかってくれると思います。
ちなみにグレートマジンガー発表後の「テレビマガジン」には、以下のような記述がありました。「カードのデザインは兜十蔵博士の残した資料にあったもの(中略)それがグレートマジンガーの設計図でした」……この記述に子供たちは大いに興奮したものです。
どうしてこんなことができたかといえば、『グレートマジンガー』の企画自体はずいぶん前から決まっていたからでした。実は『マジンガーZ』の人気が高すぎたため、後番組と切り替えるタイミングを何回か逃したからだそうです。
なおこの『グレートマジンガー』、当初は『ゴッドマジンガー』というタイトルでした。このタイトルが変更になった理由は、同時期に放送されていた特撮ヒーロー番組『仮面ライダーX』の敵組織が「GOD」だったからです。これは同時期だから外しただけであり、後に別番組として内容を一新した『ゴッドマジンガー』が企画されています。
このグレートマジンガーのお披露目が、『対暗黒大将軍』編のサプライズというわけです。苦戦するマジンガーZを、ニューヒーローのグレートマジンガーが助けます。劇場版は新旧主役の交代劇としての意味合いが強いわけです。
しかし、だからといってマジンガーZがただの引き立て役で終わるわけではありません。あくまでも主役はマジンガーZで、主人公は「兜甲児」です。この甲児が何度も窮地を乗り越えるさまが劇場版の見どころといってもいいでしょう。
その感動が多くの人の心をとらえ、現在まで半世紀以上の間、語られることになるわけです。それは多くの作品にも影響を与え、いくつかのオマージュ作品や、オマージュシーンを生むことになりました。
そして、マジンガーシリーズの人気は不動のものとなり、これ以降は「東映まんがまつり」のたびに新作劇場版が制作されることになります。逆にそれまで劇場用新作を製作してきた「仮面ライダー」シリーズは一時休止となりました。
人によって、本作を劇場版ロボットアニメの最高傑作と呼ぶ人も少なくありません。後の世代にも観てもらいたい、名作映画のひとつだと筆者は思っています。