「ガンダム」シリーズの舞台となる宇宙世紀に、どう見ても「バルキリー」と思しき航空機が飛んでいました。とはいってもあの「バルキリー」ではありません。なにを言っているのかわからないかもしれませんが、事実です。
国立アメリカ空軍博物館所蔵のXB-70「バルキリー」。尾翼の番号が『Z』劇中にてハヤトの乗った航空機そのまま (画像:アメリカ空軍)
【機能美】こちらがXB-70の「コックピットの眺め」! ほか機体を前から後ろから(9枚)
宇宙世紀に飛んだ「骨董品」
「ガンダム」シリーズの、いわゆる「宇宙世紀モノ」と呼ばれるシリーズで使用される暦であるところの「宇宙世紀」が、はたして西暦何年を起点とするのかについては諸説あるものの、現代よりも遥か未来であることは間違いありません。
それゆえにその作品群において現実世界の兵器が登場することは稀ですが、興味深い例外としてXB-70「バルキリー」戦略爆撃機とおぼしき航空機が『機動戦士Zガンダム』第13話「シャトル発進」などに登場します。
劇中、XB-70(とおぼしき航空機。以下略)は「カミーユ」たちの乗る超巨大輸送機「アウドムラ」を「ケネディ空港」へ誘導する役割を担いました。この「ケネディ空港」とは、現在のニューヨークJFK国際空港ではなく、フロリダ州ケープ・カナベラルにあるケネディ宇宙センターであると推測されます。
同機の操縦者は、かつてのホワイトベース乗組員「ハヤト・コバヤシ」であり、彼はケネディの戦争博物館(第13話の「SPACE MUSEUM」が該当するか否かは不明)の館長としてXB-70を所有、展示していたようです。
現実世界のXB-70は、1960年代に開発されたアメリカ空軍の戦略爆撃機です。圧倒的な速度性能を実現するためにユニークな形状を持つ機体でしたが、予算超過や開発遅延により計画はキャンセルされます。その後、大型超音速機のテスト機として2機をアメリカ空軍が購入、2号機は墜落事故で失われたものの、初号機は研究プログラムの飛行を1969年まで重ね、2024年現在その初号機が国立アメリカ空軍博物館に静態展示されています。
劇中のXB-70は、動態展示用にレストアした初号機である可能性が高いと考えられるものです。その根拠としては、機体固有のシリアルナンバーが「20001」で同一であることがあげられます。
さすがにXB-70が戦闘シーンに登場することはありませんでしたが、その革新的で美しいフォルムは、モビルスーツと並ぶ存在感を放っていました。アウドムラ誘導後も何度か背景でグランドハンドリングされるシーンがあり、これらも印象的で、宇宙世紀に見劣りしない20世紀の技術力が生んだ美意識を体現しているといえます。
リアリティ重視の観点からは、20世紀の航空機を動態展示機に改修することは、倫理的に問題があるといえるでしょう。20世紀の貴重な航空機を未来の技術で改修し飛行可能な状態に戻したのですから、いくつかの部品や機体の一部はオリジナルが失われたことを意味します。そしてこれは文化遺産の破壊行為であると言い換えることも可能です。
「飛行機は飛んでこそ飛行機である」という考え方もある一方「貴重な資料は後世に残さなくてはならない」という考え方もあり、こうした議論は現実においても度々議論されるテーマとなっています。
ただ、ハヤトの博物館のXB-70は、初号機を模した新造のレプリカであるという解釈も可能であり、レプリカならばこうした問題はクリアでき、またアメリカ空軍博物館の所有機をハヤトの博物館が所有していたという理由の問題にも説明がつきます(一方で、ハヤトの博物館の前身がアメリカ空軍博物館である可能性もあります)。
XB-70の登場は、宇宙世紀という科学技術が進歩した時代が現代と地続きであることを象徴するものとしても機能しています。かつて人類が夢見た超音速飛行を体現するXB-70は、未来の人々にとっても魅力的な過去の技術へのオマージュであり、同時に宇宙世紀の人々も、我々と同じように希望と可能性を夢見ているのだと実感させる存在といえるでしょう。