「才能が宿るのは肉体なのか?魂なのか?」という深遠なテーマをベースに、その高い音楽性と重層的な作劇で“人間モーツァルト”の35年の生涯に迫る、ミュージカル「モーツァルト!」が、8月19日から帝国劇場にて上演される。2002年の日本初演以来、日本のミュージカルファンを魅了し続けてきた本作。約3年ぶりとなる今回の上演では、古川雄大と京本大我が、タイトルロールのヴォルフガング・モーツァルトをWキャストで務め、モーツァルトの妻となるコンスタンツェを真彩希帆が務める。真彩に公演への意気込みや役作りについて、さらには宝塚歌劇団在団当時から現在までの“演じること”への思いを聞いた。
- 出演が決まったときの心境を教えてください。
2002年の日本初演を拝見して以来、大好きな作品だったので、お話をいただけてとてもうれしかったです。初演では、井上芳雄さんと中川晃教さんがヴォルフガングを演じていらしたのですが、音楽とともに縦横無尽に舞台を駆け回る姿に感動しました。
-今回、演じるコンスタンツェという役柄について、今どのようにとらえていますか。
(取材当時)まだ稽古が始まっていないので、漠然としたものになってしまいますが、やはり(初演で見た)松たか子さんのイメージが大きいですね。当時は、私はまだ子どもだったので“大人の女性”という印象を強く感じました。ただ、今、自分が演じるとなると、必ずしもそれだけではなくて。上の世代の方から見たら、コンスタンツェはまっすぐで不器用に映るかもしれませんし、逆に下の世代から見ると大人っぽいと思うのかもしれない。そうしたいろいろな表情を稽古を通して見つけていきたいと思っています。
-台本を読んでどんなことを感じていますか。
実はまだ、サラッと読んだだけで、読み込んでいないんです。というのも、読み込んでしまうと自分の中のイメージが固定されてしまうように思うので。なので、役柄についてはあまり固めずに、今は漠然と読んで、古川さんや京本くんがどんなお芝居をするのかで変化させていきたいと思っています。
-なるほど。あえて漠然と役をとらえている、と。
この作品だけでなく、いつもそうするようにしています。やはり稽古が始まって初めてそのカンパニーの空気感や演出家の方が求めていらっしゃる空気感が分かりますし、それによってキャラクターも大きく変わるものだと思います。今回も、本読みや歌稽古で合わせたときに見える景色を楽しみにしています。
-古川さんと京本さんの印象は?
芸事にとても真っすぐなお二人だなと思います。そして、見に来てくださるお客さまのことをとても大事に考えていらっしゃることを感じます。古川さんとはミュージカル・ピカレスク「LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~」でご一緒させていただきましたが、真摯(しんし)な姿勢で臨まれていて、役柄についてやお芝居についてのお話をたくさんさせていただきました。稽古が終わった後に一緒に自主稽古をさせていただくこともありました。
京本くんとは、オリジナルミュージカル「流星の音色」という作品でご一緒させていただきましたが、稽古が夏で、毎日暑くて。稽古場にアイスが売っていたので、京本くんが私と後輩の子たちにアイスを買ってくれたことがありました(笑)。稽古では、どうやっていくかを時間も惜しまずに話してくださり、とてもありがたかったです。
「LUPIN」も「流星の音色」も新作だったということもあり、考えれば考えるほど、どうしたら良いのだろうということが出てくるので、たくさんお話をさせていただき、良いものを作ろうと同じところに向かっていけたという思い出があります。
-今回の共演ではどんなことを楽しみにしていますか。
お二人とも、ご一緒した作品ではデュエットが少なかったので、ハモるということがなかったんですよ。なので、今回、デュエットできることが1番の楽しみです。
-では、真彩さんのこれまでの歩みも聞かせてください。2012年に宝塚歌劇団に入団し、雪組ではトップ娘役を務めました。その後、21年に退団し、現在は俳優として活動されています。まず、宝塚をめざしたきっかけを教えてください。
子どもの頃から東宝ミュージカルを見て育ち、「いつか私も出てみたい」と思っていたのですが、宝塚に男役というものがあることを知り、男役に憧れてめざしました。一度目はリーゼントで宝塚音楽学校受験をしましたが周りを見ても身長の低い男役候補がいなく男役は難しいと感じ、「娘役だとしても、宝塚に入りたい」と思い、再び受験して入学したという経緯があります。
-そうして入学し、娘役の魅力はどのように感じていましたか。
娘役として入学した後に、音楽学校の資料室でDVDを見て研究したり、「宝塚GRAPH」という雑誌を見て、ドレスや髪飾りの紹介を切り抜いてスクラップしたりして、娘役の魅力を探っていくうちに、娘役の美しさや楽しさに気づいていったように思います。身のこなしやドレスの使い方、さばき方などに憧れ、また元々声が低かったので優しく高い声の出し方も常に研究していました。
-特に印象に残っている、在団当時の思い出は?
最近になって、公演と公演の間が詰まっていたので、あまり考え込む時間がなかったからこそ、自分の力以上のものが出せていたのかなと思うようになりました。休みがあるといろいろなことを考えてしまいます。ですが、ただひたすら稽古をして公演をしてという日々を送っていると、火事場の馬鹿力がずっと続いているような状態で(笑)。音楽学校から数えると12年間、それが続いていたんだなと思うと、自分でもすごい経験をしたなと思います。
-退団して大きな変化は感じましたか。
退団してすぐの頃から、いろいろな作品にコンスタントに出演させていただいたのであまり感じませんでしたが、それでも自分の時間が増えました。稽古が終わって家に帰ってきて、夜ご飯をしっかり作って食べる時間があって、テレビを見る時間もあって。役のことを考える時間はもちろん、自分のことを見つめる時間も増えたように感じます。ただ、舞台に対しての向き合い方はあまり変わっていません。見に来てくださった方に、チケット代以上のものをお届けする。仕草ひとつ、せりふひとつでもいいので、心に響くことがあって、「この作品を見に来て良かった」と感じていただきたいです。それから、私が子どもの頃に感じたように、舞台を見て「ミュージカルをやりたい」と思ってくれる子どもが増えることが私の目標なので、それは今も変わらずに大事にしていることです。
-ところで、本作のナンバーに「僕こそ音楽」という有名な楽曲がありますが、真彩さんにとって「音楽」とはどんな存在ですか。
なんでしょうね…。もし、私が口下手な人間だったら、話すことよりも歌うことの方が説得力があると言うのでしょうが、私は話すことも好きなので(笑)。ただ、昔から、歌うことは自分自身を癒す効果もあるとは感じています。そう考えると、私にとっての音楽は、お薬かな。自分や聞いてくださる皆さんに処方された薬だと思って、いろいろな音楽を取り入れたり、出したりしています。
-改めて公演への意気込みと読者にメッセージをお願いします。
すばらしいキャストの皆さんの中で、吸収できることを吸収し、より良い形でお客さまにお届けできたらと思っています。今回は、地方公演もあり、各地でご覧いただけます。たくさんのお客さまにお会いできることを本当に楽しみにしております。
(取材・文・写真/嶋田真己)
ミュージカル「モーツァルト!」は、8月19日~9月29日に都内・帝国劇場、10月8日~27日に大阪・梅田芸術劇場メインホール、11月4日~30日に福岡・博多座で上演。