1972年~73年の土曜日の夜8時台は、石ノ森章太郎原作の特撮ドラマ『人造人間キカイダー』、永井豪原作のTVアニメ『デビルマン』が続けて放映されました。どちらも原作マンガは、TV版と違って超シリアスな結末でした。今回はマンガ版『キカイダー』の衝撃的だったエンディングを振り返ります。
マンガ版最終話、キカイダーが下した驚愕の決断
プロフェッサー・ギルが率いた悪の組織「ダーク」を壊滅させたキカイダーは、新たなる敵「シャドウ」と戦うことになります。キカイダー01も参戦。ギルの脳を移植したハカイダーがからみ、「シャドウ」から放たれたビジンダーも巻き込んだ戦いとなります。
さらにジローが作った零(レイ)ことキカイダー00(ダブルオー)がマンガ版では新しく仲間に加わり、ここからマンガ版は独自の展開となっていきます。
勧善懲悪に徹した特撮ドラマ版に対し、マンガ版『キカイダー』の最終話は史上まれにみるバッドエンディングでした。「シャドウ」を倒すために、キカイダー、01、00、ビジンダー、ハカイダーは共闘します。「シャドウ」打倒に成功しますが、共闘のどさくさに乗じて、ハカイダーはキカイダーたちに「服従回路」を取り付けてしまうのです。
それまでずっと不完全な「良心回路」に苦しんできたキカイダーでしたが、ハカイダーから手術を受けたことで、「完全形」となるのです。ハカイダーだけでなく、ビジンダー、01、00まで、キカイダーは皆殺しにしてしまいます。
キカイダーは正気でした。ハカイダーが注入した「悪の心」が、キカイダーをより強くしたのです。ジローの姿に戻ったキカイダーは、最後にこう言います。
「…おれはこれで…人間と同じになった…!! だが それとひきかえに おれは…」
「これから永久に“悪”と“良心”の心のたたかいに苦しめられるだろう…」
人間になることをずっと願っていた人造人間のキカイダーが、「悪の心」を身につけることで「人間」になるという、苦すぎる「ジ・エンド」でした。
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「創造主」に抗う「創造物」たち
石ノ森マンガの最終回といえば、『サイボーグ009』の「地下帝国ヨミ編」の最終話「地上より永遠に」が有名です。ジョーとジェットが夜空を流れる「ながれ星」になるという哀しくも美しいエンディングでした。それに比べ、『キカイダー』の終わり方はあまりにも悲惨です。
しかし、キカイダーが自分の不完全さに悩み続けるというテーマ性は、石ノ森作品全体に通じるものです。石ノ森氏はその後も『ロボット刑事』『がんばれロボコン』など、不完全なロボットたちを描き続けます。また、『サイボーグ009』のジョーたちも、人間でもロボットでもない自分たちの身体のことを悩み続けました。
ジョーたちが不完全な存在であることを真正面から突き付けられたのは、『サイボーグ009』の「天使編」です。天使の姿をした「造物主」たちが現れ、できの悪い人類を「ハジメカラヤリナオス」ことをジョーたちに告げます。サイボーグ戦士でも、万能の「神」には勝てそうにありません。それでも、ジョーたちは不完全な人類を守るために神と戦うことを決意します。
結局、石ノ森氏は「天使編」を完結させることなく、『サイボーグ009』は未完のまま終わっています。おそらく、石ノ森氏は『サイボーグ009』の連載を中断した後も、悩み続けたのではないでしょうか。『キカイダー』を執筆しながら、創造主と創造物との関係性を模索していたように思います。
人間とは、善と悪とのはざまで揺れ動く、不完全な存在に過ぎない。それが『人造人間キカイダー』を連載していた当時の、石ノ森氏が導き出した回答だったのかもしれません。不完全な存在であることを受け入れ、それゆえに強くなろうとした石ノ森作品の主人公たちが、大人になった今ではいっそう愛おしく思えてきます。