漫画家・井上雄彦氏の大ブレイク作といえば、高校バスケットボールの世界を描いた『SLAM DUNK』です。主人公である桜木花道の成長ぶりと同時に、井上氏の画力も目覚ましい進化を遂げていきました。その一方、消えていったのがギャグ要素です。バスケの常識にとらわれない、桜木の破天荒さが笑いを呼んだ旧劇場版四部作を振り返ります。
「あきらめたら…」と並ぶ、もうひとつの名言
TVアニメシリーズのスピンオフ的な位置づけとなっている旧劇場版『スラムダンク』ですが、第2弾となった『スラムダンク 全国制覇だ!桜木花道』はインターハイ予選となる古豪・津布武高校との熱戦がじっくりと描かれ、見応えがあります。
それまで反則続きで途中退場を繰り返していた桜木花道は、この一戦で「リバウンド王」としての才能がついに開花。なんと、神奈川県大会のリバウンドの個人新記録に迫ります。観客たちも桜木の奮闘ぶりを認めるという、感動的な展開となっています。
安西先生の「あきらめたら そこで試合終了ですよ」は『スラムダンク』の名言として知られていますが、『全国制覇だ!桜木花道』では「リバウンドを制する者は、ゲームを制す」という格言が語られるシーンがあります。キャプテン・赤木剛憲が桜木の潜在能力を引き出したこのセリフも、ぜひチェックしてみてください。
桜木の驚異的な身体能力が可能にした初期の必殺技に、「ふんふんディフェンス」があります。第1作『スラムダンク』に続いて第2作『全国制覇だ!桜木花道』でも、桜木の「ふんふんディフェンス」が披露されます。ギャグマンガっぽい「ふんふんディフェンス」も、リアリティを徹底追求していくようになった原作コミック『SLAM DUNK』から消えていった表現でしょう。
【見出し】バスケの競技人口を増やした『スラムダンク』の功績
原作者の井上雄彦氏が監督した『THE FIRST SLAM DUNK』は、実際のプレーをモーションキャプチャしたCGアニメとして、大変な迫力がありました。伝説の一戦「湘北対山王」を現実に会場で観戦しているような没入感が味わえました。
対するTVアニメ版や旧劇場版は、原作にはないオリジナル要素もかなり含まれ、バスケットを始めたばかりの桜木花道を中心にしたライトな青春ドラマとしての楽しさがあったように思います。ギャグ表現やラブコメ要素がふんだんに盛り込まれたことで、若いファン層をより広げることになったのではないでしょうか。
コミック&アニメ版『スラムダンク』の人気によって、日本のバスケ熱は大いに高まりました。バスケの競技人口は確実に増え、2016年には国内のプロバスケットリーグ「Bリーグ」が始まっています。そして、『スラムダンク』の連載終了後に生まれた八村選手らが、今回のパリ五輪日本代表チームの中心となっています。
男子バレーボールの日本代表である石川祐希選手、髙橋藍選手らはバレーボールマンガ『ハイキュー!!』を愛読していることが知られています。マンガやアニメは、スポーツ文化にも多大な影響を与えていることは間違いないでしょう。