散々ツッコまれている「おっぱいミサイル」は、巨大ロボットに人間ドラマを持ち込む画期的な発明でした。その後も女性的なボディを持つ巨大ロボは、ロボットアニメの進化に寄り添うものだったのです。
アフロダイAは、武装もおっぱいミサイル(光子力ミサイル)という徹底ぶり。主役ロボとのロマンス要素もあった。画像は「超合金魂 GX-08R アフロダイA vs GX-09R ミネルバX」(BANDAI SPIRITS) (C)ダイナミック企画・東映アニメーション
【画像】こちらが世界的工業デザイナーによる性的特徴(?)を備えた巨大ロボです
『マジンガーZ』のおっぱいミサイルは天才の発想
かつて巨大ロボットアニメで強烈な印象を残し、ある時期からフッツリと見かけなくなったものは、ズバリ「おっぱいロボット」でしょう。鋼鉄ないし超合金のボディに機能性の粋を集めたメカニズムのはずの巨大ロボに、なぜか付いていたふたつの丸い膨らみは、否応なく記憶と網膜に焼き付きました。
なお、この記事で扱う「おっぱいロボ」は巨大ロボットに限らせていただきます。等身大ロボットや人と同じ目線のアンドロイドであれば、女性型である意味は「意思疎通のしやすさ」や「日常への溶け込みやすさ」など色々とありますが、「巨大かつ女性型」は合理性を超えたオーパーツ色が濃いためです。
巨大おっぱいロボの元祖は、スーパーロボットアニメの原点『マジンガーZ』に登場した「アフロダイA」でしょう。ただの飾りでもショックアブソーバーでもなく、発射もできる「おっぱいミサイル」です。正式名称は「光子力ミサイル」でありますが、自然に心から湧き上がる通称に従うことにします。
なぜおっぱいを備えていたかといえば、「巨大ロボットで人間ドラマをやるため」でしょう。主役ロボの「マジンガーZ」が敵発見で即出撃となれば1話30分の尺が持たないため、まずサポートロボであるアフロダイAが出撃して時間稼ぎをします。
パイロットが人間のヒロイン「弓さやか」でもあり、主人公の「兜甲児」を支えつつ、機械獣の足止めをしながらも力が及ばずマジンガーZに助けてもらう……人間パートのラブコメを、巨大ロボットのアクション部分で再現する役割もあったのです。
今の目で見れば「ヒーローたる男性に女性ヒロインが助けてもらう」という昔ながらの感性をモロに引きずっています。とはいえ本作は、「人間が乗り込むスーパーロボット」という革新的なコンセプトを打ち立てた存在であり、それ以上の新しいものを持ち込めば視聴者が付いてこられなかったのでしょう。
アフロダイAのおっぱいミサイルは、観測ロケットに差し替えて打ち出し、それにつかまったマジンガーZが大空を飛ぶ(第32話)ということで、「ジェットスクランダー」の伏線にもなっています。荒唐無稽なロボおっぱいを、主役ロボの弱点克服、パワーアップに結び付けた発想は天才的といえるでしょう。
おっぱいミサイルは、続編『グレートマジンガー』の「ビューナスA」にも継承されています。ところが、それ以降は「おっぱいロボ」込みでパッタリと途絶えました。ビューナスAはアフロダイAよりも強くなっていましたが、基本的に主役ロボの前座であり、やられ役であることに変わりありません。
さらなる続編『UFOロボ グレンダイザー』では、ついに女性型ロボットは消えた代わりに、ヒロイン的な女性キャラが増えていました。視聴者からの「女性ロボよりも女性そのものがいい」という淘汰圧が働いたのかもしれません。
そうして1970年代から1980年代にかけては、わずかにOVAのみでおっぱいロボが生き延びることになりました。1985年発売開始の『戦え!! イクサー1』も1989年発売開始の『ARIEL』も、美少女パイロットが乗り込む美少女型ロボットであり、女性型ロボというより『くりいむレモン』など美少女アニメの延長上にあった趣があります。
ノーベルガンダムは、ガンダム史上初にして唯一の「セーラー服を着たガンダム」。女性型のボディは、しなやかな新体操風のアクションを繰り広げるうえで必然性があった。画像は「HG 1/144 ノーベルガンダム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
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『機動武闘伝Gガンダム』と『ガン×ソード』の女性型ロボ革命
その後、TVアニメにおけるおっぱいロボの登場は1991年に放送がスタートした『ゲッターロボ號』の「ゲッター翔」まで待つことになります。
これまでは主役ロボに対するサポートロボの位置づけでしたが、本作では「3機のマシンが3形態のロボットに変形・合体」するうちの1形態ということで、れっきとした主役ロボです。旧「ゲッター2」からドリルを引き継ぎつつ(アニメ版は旧『ゲッターロボ』と物語的な関係はナシ)空中戦に強く、頼もしい戦力となっています。
パイロットの「橘翔」は女性であり、ロボットの「性別」も合わせた格好です。しかし、劇中では翔の兄「信一」が戦死していなければ信一が操縦していたはずとの描写もあり、それはそれで観たかった気がします。
続く女性型巨大ロボは、1994年より放送された『機動武闘伝Gガンダム』の「ノーベルガンダム」でしょう。世界各国の「ガンダム」が大量に出てきたなか、ネオスウェーデン代表の「アレンビー・ビアズリー」が操縦する機体です。史上初の「セーラー服を着た(模した)ガンダム」として、視聴者は「セーラーガンダム」と呼ぶこともありました。
主役でこそないものの、2代目主役ロボの「ゴッドガンダム」と互角の戦いを繰り広げ、しかも隠し球で国際条約違反の「バーサーカーシステム」を搭載し、一時は圧倒する場面もあったほどの強さです。
ノーベルガンダムが女性型であることは、ビームリボンやビームフラフープを駆使するなど、新体操の女性選手のようなしなやかな動きをすることに必然性がありました。セーラー服の視覚的なインパクトと、巨大ロボットのアクションに新たな要素を持ち込むという、画期的な発明となったのです。
その数年後、『ガン×ソード』に登場した「ブラウニー」に、ノーベルガンダムを重ね合わせた人たちも少なくないでしょう。ネコミミを生やした女性型フォルムを持ち、肘についたスパイクや尻尾の先端にある機関銃などの武装で、アクロバティックな動きで敵を翻弄します。
ノーベルガンダムもブラウニーも女性パイロットであり、ぴっちりしたレオタード風のスーツを装着し、その動きの通りにロボットが操縦できるトレース型でした。「強いヒロインとロボットを同時に魅せる」という意味で、女性型ロボットが到達した究極の形のひとつなのです。
そして両ロボとも、胸部の膨らみは控えめになっており、もはや「おっぱいロボ」とは呼びにくくなっています。女性型ロボットが性的な表現に頼らずに済むというか、「人機一体」的に人間ヒロインのアクションと同時に描けるようになった結果なのでしょう。
『勇気爆発バーンブレイバーン』は性的巨大ロボの究極形
この時期の女性型巨大ロボは、『勇者王ガオガイガーFINAL』(OVA版は2000年から2003年発売。後にTVシリーズ『勇者王ガオガイガーFINAL GRAND GLORIOUS GATHERING』に再編集)の「光竜」と「闇竜」あたりが、おそらくひとつの節目となります。
2体とも胸の自己主張が強めであり、合体した「天竜神」も豪勢に盛り上がっています。「ガオガイガー」本編に出ていた「氷竜」「炎竜」の準同型ロボであり、基本設計は同じのため、ビジュアル的に差別化を図ったのでしょう。
その後は巨大ロボットから性的な要素はほぼ消滅し、「おっぱいロボ」もとんと見かけなくなりました。このままセクシャルな巨大ロボは消えていくのか……と思いきや(特撮では『烈車戦隊トッキュウジャー』の「トッキュウオー」が股間に列車をそそり立たせたこともありましたが)、今年の『勇気爆発バーンブレイバーン』では違う方向で性的なアツさがさく裂しました。
何しろ巨大ロボ自らが男性パイロットを全裸にひんむいたり「イサミを受け入れるということは、全てを受け入れるということ。イサミが操縦桿を上下に動かす度、私も上下する」など思わせぶりどころではないセリフを連発したのです。ロボットのデザインに性的な要素はひとつもないのに、性的なロボットはここまで進化したと感動もひとしおでした。