何の映画を観るか悩んだとき、予告編やタイトル、ポスターの雰囲気を判断材料にする人は多いでしょう。しかしそれは、思わぬ映画との出会いを招くかもしれません。数ある作品のなかには、ほのぼのアニメの皮を被ったトラウマ映画が数多く存在します。
レイモンド・ブリッグズ氏による絵本を原作に、核戦争の恐怖を描いたアニメ映画の吹き替え版ポスター。『風が吹くとき』(C)Channel Four Television Corporation 2001
【画像】え…っ? こんなかわいい絵柄なのに! こちらが多くの人にトラウマを植え付けたアニメ映画です(7枚)
過激描写なしに戦争の恐怖を突きつけてくる歴史的名作
「トラウマアニメ映画」とひと口にいっても、その種類はじつにさまざまです。見るからに怖そうな作品もあれば、見るまでは怖い作品と分からないものもあり、特に後者に関しては予想していなかった分、その衝撃度は大きいのではないでしょうか。
たとえば1986年に英国で制作された映画『風が吹くとき』も、そのひとつといえそうです。同作はイギリスの作家でイラストレーターであるレイモンド・ブリッグズ氏の絵本を原作にした作品で、日本でも1987年に劇場公開されました。
ブリッグズ氏の繊細なタッチが忠実に再現された同作は、ポスタービジュアルだけを見るとそこまで恐ろしい印象は受けません。しかしポスターに爆撃機が描かれている通り、これは「核兵器」の恐ろしさを描いた戦争映画です。核戦争が勃発した世界を舞台に、平凡な老夫婦が放射能にむしばまれていく様子が淡々と描かれていきます。
作中に激しい戦闘描写こそ登場しないものの、「大丈夫、最後には国が助けてくれるさ」と信じながら朽ちてゆく老夫婦の姿は、一度観たら忘れられないでしょう。それまで穏やかに暮らしてきた普通の人びとが戦争に巻き込まれ、その穏やかな雰囲気を保ったまま惨たらしく死んでいく……。そのギャップが、戦争の悲惨さを強烈に叩きつけてくるのです。
ちなみに『風が吹くとき』は2024年8月2日(金)より、大島渚監督が監修し、森繁久彌さんと加藤治子さんが声を担当した、日本初公開時の吹替版のリバイバル上映が決定しています。広島、長崎への原爆投下から来年で80年となるいま、世界的なセンセーショナルを巻き起こした歴史的名作を改めて鑑賞してみるのもいいかもしれません。
そのほか、まるでジブリ作品のような雰囲気をまとったトラウマアニメ映画として知られているのが、2002年に公開された『パルムの樹』です。『風の谷のナウシカ』の原画や、『AKIRA』の作画監督を担当したことで有名ななかむらたかし氏が、監督および脚本と原作を担っています。
物語のあらすじはロボットの少年「パルム」が、母親のようにかわいがってくれた人間「シアン」の死をきっかけに旅に出るというものでした。その途中、地底世界「タマス」に行けば自分も人間に成れるという情報を知り、タマスへ向かうことになります。
パルムのかわいらしいロボットデザインや予告映像の雰囲気からは、多くの人がファミリー層向けの冒険ファンタジーのような印象を受けるでしょう。しかし実際に作品を見てみると、2時間強におよぶ物語のなかに「親に愛されたいと願っても叶わない」「なりたい自分に成れない」といった、残酷な現実が容赦なく詰め込まれています。
またアクションシーンに関してもなかむらたかし監督らしい激しさで、特に地底人の少年「シャタ」が繰り広げる殺陣はかなりの迫力です。それゆえ激しい破損描写や流血シーンが目白押しのため、実際に視聴した人の間では「これはヤバい! とんでもない怪作」「衝撃的な場面が多くて何度も目が覚めた」「なんですかこのジブリちっくなほのぼのファンタジーの皮を被ったハートフルボッコアニメは……」と、衝撃を受けた声が相次いでいました。
人を選ぶ作品であることは間違いありませんが、子供が見ても大人が見ても感動できる名作でもあるので、気になる人はぜひ鑑賞してみて下さい。
こんなにかわいいのにトラウマ? アニメ映画『河童のクゥと夏休み』ポスタービジュアル (C)2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
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少年と河童のほんわか物語かと思いきや?
2007年に公開された『河童のクゥと夏休み』もある意味、強烈なトラウマ映画のひとつといえるかもしれません。同作は木暮正夫先生の児童文学を、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』などを手がけた原恵一監督がアニメ化した作品で、現代に蘇った河童の「クゥ」と主人公一家のひと夏の交流を描いた物語です。
タイトルやあらすじだけを見ると、トラウマとはほど遠そうな作品に思えますが、実は冒頭からクゥの父親が片腕を切り落とされたり、クゥの力によってカラスが爆散したりと、なかなかショッキングな描写が登場します。
加えて人間の醜悪さや身勝手さ、愚かさなどがリアルに描かれており、人によっては破損描写よりもこちらのほうがキツいと感じるかもしれません。クゥとの交流をまっすぐに描くだけでなく、それによって起こるであろう問題にも真っ向から向き合った同作は、名作であることに間違いありませんが、ネット上では「想像以上にグロ&ハードな内容でいまもトラウマ」「軽い気持ちで見るもんじゃない」「人間がひたすらクズで胸が痛くてやばい」などと、語り草になっています。
そのほか、かの有名なサンリオが手がけた作品のなかにも、「トラウマ」とささやかれる作品がありました。それが1983年に公開された『ユニコ 魔法の島へ』です。
同作は手塚治虫先生のマンガをもとに作られた作品で、作中には「ユニコ」と呼ばれるかわいらしいユニコーンのキャラクターが登場します。サンリオ映画で、なおかつキュートなユニコーンが主人公とあれば、トラウマとはほど遠いメルヘンな物語を想像してしまいがちですが、ネット上で「ユニコ 魔法の島へ」と検索するとサジェストに「トラウマ」が出てくるほど、多くの人に衝撃を与えた作品でもありました。
何といっても、同作に登場する魔法使い「ククルック」が、とんでもなく恐ろしいのです。その不気味な見た目もさることながら、ククルックが使う魔法も「人間を『生き人形』に変えてしまう」という非常に恐ろしいものでした。先ほどまで生きていた人間が次々と生き人形に変えられ、城の一部にされていくシーンは、多くの人びとに強烈なインパクトを残したのではないでしょうか。
そのような恐ろしい敵を相手に、キュートなユニコはどのように立ち向かっていくのか。ちょっぴり切なくも、愛と勇気にあふれた物語の結末は必見です。
なお、同作は2024年5月開催の「新宿東口映画祭」で、ピックアップ上映されています。その際にも、ネット上では「こんなにメルヘンのふりをした、オモロ怖い作品とは思わなかった」「これがサンリオなの信じられん」といった声があがっていました。