マンガの実写化作品は、予算や時間の都合、コンプライアンスの観点からストーリーやキャラクター設定を完全に再現することは困難です。なかには主人公の設定すらも原作とは異なる実写ドラマもありますが、意外にも功を奏して人気となるケースもありました。
ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』キービジュアル (C)カンテレ
【画像】え…っ? 「三瓶先生そっくり」「ミヤビ先生雰囲気違う」 こちらが「主人公逆」の『アンメット』原作とドラマの比較です
主人公が原作通りでなくても支持される?
2024年春に放送され好評を集めたドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』は、同名のマンガ(原作:子鹿ゆずる/作画:大槻閑人)から主人公を変えるという大幅な改変がされていたことが、大きな話題となりました。
アメリカの大学病院から赴任してきた脳外科医「三瓶友治(演:若葉竜也)」が主人公だった原作とは異なり、記憶障害である女性医師「川内ミヤビ(演:杉咲花)」が主人公となった実写ドラマは、苦悩しながらも患者と向き合うミヤビの姿が印象的に描かれており、多くの人から高い評価を集めています。
原作者である子鹿先生は関西テレビの米田孝プロデューサーとの対談で、「ドラマ化のオファーは数社あったが、ミヤビを主人公にと提案してくれたのはカンテレさんだけ」「それは面白そうだとワクワクしましたし、主人公ともなれば、僕が描きたかったミヤビをしっかり描いてもらえるのではないかと思いました」と述べており、原作者も「改変」を積極的に受け入れていたようです。子鹿先生は「作中でいちばんの人格者」と語るミヤビを、性別の違いもあって思うように描けなかったという思いがあり、このオファーを快諾したことを語っています。
このほかにも、原作では主人公ではなかったキャラクターが主人公となっているほか、主人公の設定が大きく異なるものの、多くの人から支持されている作品は定期的に作られてきました。
『ショムニ』
1998年に放送の実写ドラマが高視聴率を獲得、スペシャル版や続編も放送された『ショムニ』は、「女子社員の墓場」「会社の掃き溜め」と呼ばれる総務部庶務二課(通称:ショムニ)所属のOLたちの活躍を描いた作品です。
ドラマ版では、ショムニのリーダーである「坪井千夏(演:江角マキコ)」が主人公ですが、原作マンガ(著:安田弘之)ではショムニのなかでもパシリのようなポジションである「塚原佐和子(演:京野ことみ)」が主人公です。真面目ではあるものの、要領が悪い佐和子が破天荒な先輩社員、千夏との出会いを通じて成長していく様子がコミカルに描かれました。
一方で、実写ドラマでは好き勝手に振る舞う千夏を含めたショムニの面々が結果として会社を救うことにつながる痛快な作品となっており、原作を読んでいた人からは「ドラマは全然別物だけど、千夏を主人公にしたのは正解だと思う」「原作以上にカラッとしていて破天荒な千夏はそれはそれでアリ」と、別物ながら支持されるドラマとなっているようです。
『DEATH NOTE』
2004年から2006年にかけて「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載されたマンガ『DEATH NOTE』(原作:大場つぐみ/作画:小畑健)は、映画やミュージカルなどさまざまな形で実写化作品が制作されています。
実写映画も一部のキャラクター設定や結末が原作とは大きく異なりますが、2015年に日本テレビ系で放送された実写ドラマでは、主人公「夜神月(演:窪田正孝)」がごく普通の大学生でアイドルオタクという、大きな変更が加えられました。原作では卓越した頭脳を持ち、ライバルである探偵「L(演:山崎賢人)」と繰り広げる数々の頭脳戦が見どころだったこともあり、「凡人がLと頭脳戦できるの?」「月がアイドルの海砂のファンだと関係性も変わるからほぼ別物になる気がする」と、否定的な意見も少なくありませんでした。
しかし、衝動的にノートを使ってしまったことに罪悪感を抱いて自殺を考えるも、「お前が使わないなら凶悪犯に渡すかもな」という死神「リューク(CV:福島潤)」の言葉をきっかけに自暴自棄となり、やがて犯罪者を対象にノートを使っていくドラマ版の月について「平凡な大学生がノートによってゆがんでいく様子がリアルで良かった」「放送前の不安を窪田さんの演技が全部塗り替えた感じ」といった感想も多く、前評判を大きく変える結果となりました。
『カバチタレ!』
1999年から2021年にかけて雑誌「モーニング」で連載されていたマンガ『カバチタレ!』(原作:田島隆/作画:東風孝広)は、理不尽な理由から懲戒解雇されるも、窮地を救ってくれた行政書士に興味を持って補助者となった主人公「田村」と先輩で教育係となる「栄田」が、法律知識で依頼人を助けていくストーリーです。
原作では、田村と栄田は冴えない青年と中年のおじさんという男性コンビでしたが、実写ドラマは田村は常盤貴子さん、栄田は深津絵里さんが演じ、快活な若い女性コンビになるという大幅な改変が行われました。さらに舞台が広島から東京に変わったことから、登場人物の大半が広島弁で話す設定もなくなっています。
ドラマを観た後に原作を読んだ人からは「原作は広島弁中心のセリフでおじさんがたくさん出てくるから全く別物に思った」「ドラマはドラマで女性バディだったからこそ面白かったと思う」と、原作とのギャップの大きさに驚きの声も珍しくないようです。
※山崎賢人さんの「崎」は正式には「たつさき」