「物知りじゃないおっさん」の方が評価が高い
――先ほど「7割が相談系で、3割が作業系」とおっしゃっていましたが、作業系の依頼とはどういったものになりますか?
本当にバラバラですよ!カメラマンとしてInstagramに載せるための写真を撮ることもあれば、「自宅のドアにカマキリがいて怖いから捕まえてほしい」という依頼まで(笑)。「演劇のチケットが余ったので一緒に行ってほしい」という問い合わせが、公演の前日に来ることもあります。
あとは転売行為に加担しない前提で、コミケに買い子として駆り出されることもあります。依頼者本人が行けない代わりに地下アイドルのライブへ行って、物販に並ぶこともあるし……僕、池袋の『アニメイト』は10回以上行きました。
――西本さんご自身は、アニメやアイドルといったカルチャーがお好きなんですか?
いえ、依頼者に誘われて初めて触れるものばかりです。「なんでおっさんがここにいるの?」と変な目で見られることはありますが(笑)、結果的に楽しんでいることが多いですよ。
――西本さんのように自分の知らないもの・ことを楽しめる人ばかりではないですよね。
実際、おっさんから「話題についていけない」と、悩み相談を受けることはあります。そういうときは「楽しめ、ニコニコしとけ、寝るな」と伝えます。初めて触れるカルチャーだったとしても、それを態度で否定することは誘った相手にも失礼ですからね。
とはいえ、別に無理して詳しくなる必要はないと思っています。むしろ世のおっさんが陥りがちな「まずは取説から!」という行動は避けたほうがいい。SNSを始める前に「Twitter攻略」みたいな本を買って挫折するおっさん、結構周りにいるんです。
――なぜおっさんは「取説」に走るんだと思いますか?
人の要望に100%応え、評価されたい気持ちが強いんです。彼らはとにかく失敗したくない。無知な自分を人に見せたくないんでしょうね。
準備をする大切さもわかりますが、人とのコミュニケーションを「仕事」と捉え、評価を求める気持ちが見え隠れすると、相手も心を開けません。それよりかは、分からないことを積極的に聞く「物知りではないおっさん」の方が好かれると思うんです。
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「人の応援をしたい」おっさんは良いおっさんになれる
――西本さんは「おっさんレンタル」を副業で運営されているそうですが、普段はどういったお仕事をされているんですか?
個人のお客さんに対し、洋服からインテリア、旅行などをコーディネイトする仕事を、フリーランスで15年続けています。その前は百貨店に勤め、ディスプレイのスタイリングなどを行なっていました。
「おっさんレンタル」自体は「おっさんが人の役に立つ」というコンセプトのもと、2012年に始めました。面白半分で始めたものの、気づけば今年で10周年を迎えます。
――「おっさんレンタル」を始めた当初から、西本さんの中で「理想のおっさん」像に変化はありますか?
最初のころは、仕事もプライベートもバリバリこなすような存在こそが「求められるおっさん」だと思い込んでいました。若者と肩組んで、笑っているような感じです(笑)。でも「マウントを取って変に馴れ馴れしいおっさんは嫌われる」と気づいてから、もっと純粋に「人の役に立つおっさん」にフォーカスを当てるようになりました。
実際、表情が暗くてコミュニケーションが苦手なおっさんでも、上から目線じゃなく淡々と話ができる人は好かれるんですよ。面接で「人の応援ができたら」というワードが出てきたら「お、この人いい仕事しそうだな」とも思います。
――最後に、「嫌なおっさん」化しないために心がけておくべきことを教えてください。
「ああいう嫌な奴にはならないぞ」って意識し始めると、気づけばその道を進んでしまうそうですよ。嫌な言動をする人を見かけたら「かわいそう」って思うのがちょうど良いかもしれませんね。
そしてこれは僕個人の主観ですが、定年退職して余暇を過ごすよりも、早期退職してセカンドキャリアを歩み始めた方が「嫌なおっさん」にはならなさそうです。「自分の実績や経験にすがりつかないこと」を意識すれば良いのかな、と思います。
ちなみにスーツと名刺を奪われてしまったおっさんは気力を失い、徐々に捻くれていきがちです。だから「ほけんの窓口」のように、おっさんの将来に向けて相談に乗る「おっさんの窓口」をつくりたいな、とは思っています。世のおっさんがグレる前に、気力を与え直すビジネスはしたいですね。
(文:高木望 写真:鈴木渉)