特撮の二大ヒーローといえば『ウルトラマン』と『仮面ライダー』を思い浮かべる人が多いでしょう。実は、両者は過去に『ウルトラマンVS仮面ライダー』という作品で夢の共演を果たしています。どのような経緯で、二大ヒーローの共闘が描かれることになったのでしょうか。



二大ヒーローの共演が実現した、『ウルトラマンVS仮面ライダー』Blu-ray(バンダイビジュアル)

【画像】「ライダーが小さ…くない!」これが、4大ヒーローが結集した奇跡のコラボです(3枚)

「ウルトラマンがあってこその仮面ライダー」だった

 日本の特撮史において、『ウルトラマン』と『仮面ライダー』の二大ヒーローは欠かせない存在でしょう。宇宙からやってきた怪獣を倒す『ウルトラマン』は1966年からの放送、世界征服を企むショッカーと戦う『仮面ライダー』は1971年から放送が始まりました。それぞれお茶の間を賑わせ、国民的ヒーローとして人気を博し、今もなお続いている大人気シリーズです。

 そんなウルトラマンと仮面ライダーは、過去に共演を果たした作品があります。それは1993年に発売された特撮オリジナルビデオ『スーパーバトル ウルトラマンVS仮面ライダー』です。同作のタイトルは「ウルトラマンVS仮面ライダー」となっていますが、二大ヒーローが対決するのではなく、ふたりが共闘して敵を倒すという夢の共演が描かれました。ウルトラマンと仮面ライダー。ふたりは変身後のサイズ感が大きく異なるヒーローですが、どのような経緯があって同一作品での共演が実現したのでしょうか。

 実は、以前放送されたバラエティ番組『トリビアの泉』で、この『ウルトラマンVS仮面ライダー』が取り上げられ、制作の経緯が明かされています。そこでは「円谷プロと東映の上層部による密談で約束され『超法規的決断』で動いた作品」と説明されています。また制作が始まったタイミングで、初めて現場スタッフに企画の全貌が伝えられたそうです。

 番組内では、タイトルに「VS」をつけた理由は「インパクトがあった」、作中で仮面ライダーが巨大化した理由は「奇跡」と、やや強引な回答もみられましたが、ファンが気になる部分についてもフォーカスしていました。

 また『ウルトラマンVS仮面ライダー』は二大ヒーローの戦いに注目されがちですが、特筆すべきは、仮面ライダーの生みの親である石ノ森章太郎先生と「円谷プロ」3代目社長の円谷皐さんの対談が収録されていることです。

 対談のなかで、石ノ森先生は、マンガでヒーローを描くことに限界を感じていた時期に、東映から「新しいヒーローの番組を作ってくれ」と依頼された時のことを語りました。先に放送されていた『ウルトラマン』の存在を思い出し、ウルトラマンとは全く反対のものをやってやろうと決意し、そこから特撮の『仮面ライダー』誕生につながっていくというわけです。石ノ森先生は「ウルトラマンがあって初めてぼくは仮面ライダーというのはね、誕生したんじゃないかなって自分では思ってますけどね」と振り返っていました。



捨て身でのアクションシーンが多かった初代『仮面ライダー』 画像は『仮面ライダー』DVD第1巻(東映)

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二大ヒーローは演じ方に「大きな違い」が?

 2011年には『ウルトラマンVS仮面ライダー』がDVD、Blu-ray化され、それをきっかけに『ウルトラマン』の「ハヤタ隊員」を演じた黒部進さんと、『仮面ライダー』の「本郷猛」役の藤岡弘、さんによる記者会見、スペシャル対談が実現されました。

 そのなかで浮き彫りになったのは、ウルトラマンと仮面ライダーの「演じ方の違い」です。ウルトラマンは巨大な怪獣と戦うという、規模の大きな世界観ですが、仮面ライダーは等身大のヒーローとして怪人たちと対峙します。また、黒部さんの場合、ウルトラマンに変身した後のアクションは担当していません。一方で藤岡さんは変身しているかどうかに関わらず、激しいスタントに挑んでいました。

 対談のなかで、黒部さんは当時の藤岡さんについて「スピーディーなアクションでしたよね。なかなか素晴らしい動きだなという記憶があるんですよ」と振り返っていました(黒部さんは、『ウルトラマン』を支えた大きな存在としてスーツアクターの古谷敏さんの名を挙げています)。

 一方、藤岡さんは『ウルトラマン』を見て、「爆発シーンやビルをどんどん倒していく……いやあ、一回失敗したら大変だろうな」「失敗したら二度と同じことができない」「大変なプレッシャーだろうな」と感じていたことを記者会見で明かしています。

 確かに、主に屋外での戦闘が多い『仮面ライダー』は、爆発シーン以外では撮り直しも可能でした。美術が作ったセットのなかで撮影する『ウルトラマン』は、一発勝負の芝居でもあったのです。

 世界観や設定が大きく異なる『ウルトラマン』と『仮面ライダー』のそれぞれでヒーローを演じた黒部さんと藤岡さんは、試行錯誤を繰り返しながら「シリーズ1作目」を演じきっていました。改めて、ふたりの功績は大きなものだったといえるでしょう。