先日逝去された小原乃梨子さんの代表作のひとつといえば、『ドラえもん』ののび太役です。大山のぶ代さん、小原さんらの最終作『ドラえもんに休日を?!』を振り返ります。
「ドラえもんに休日を?!」が収録されている『とっておきドラえもん いつも心に ともだち編』(小学館)
【画像】え…っ? 覚えてる? こちらが消えた『ドラえもん』のキャラクターたちです(5枚)
声優20人が大集合! 異色の演出が続出!
藤子・F・不二雄先生のコミック『ドラえもん』は、1979年にテレビ朝日とシンエイ動画によってアニメ化されて人気が爆発しました。
アニメ『ドラえもん』の人気を支えたのが、メインキャラクターを演じた声優陣です。「ドラえもん」役の大山のぶ代さん、「のび太」役の小原乃梨子さん、「しずか」役の野村道子さん、「ジャイアン」役のたてかべ和也さん、「スネ夫」役の肝付兼太さんは、個性的な演技と見事なコンビネーションを聞かせてくれました。
おなじみのフレーズとなったドラえもんの「こんにちは、ぼくドラえもんです」、のび太の「ドラえもん、大変だよ!」、しずかの「のび太さんのエッチ!」などのセリフは、いずれも原作には存在しておらず、いずれも声優陣のアドリブによって生み出されたものと言われています。
視聴者に認知度が高く、とても親しまれていた声優陣の交代を含めたリニューアルが行われたのは、放送26年目の2005年のことでした。メインキャラクターの声優5人と準レギュラーの声優12人、合計17人が交代することになったのです。
大山さん、小原さんらが声を務める最終作となったのが、特番『ドラえもん オールキャラ 夢の大集合スペシャル!!』内で放送された「ドラえもんに休日を?!」でした。原作の「ドラえもんに休日を!!」はコミック35巻に収録されており、1985年には「ドラえもんに休日を」のタイトルで一度アニメ化されています(2008年にもアニメ化されました)。交代するキャストが総出演した「ドラえもんに休日を?!」がどんな内容だったのか、あらためて振り返ってみましょう。
のび太は、いつものようにジャイアンとスネ夫に理不尽な理由で追いかけられていました。ドラえもんは「本人呼び出しビデオ」でジャイアンの母ちゃん(CV:青木和代さん)と、スネ夫のママ(CV:横尾まりさん)を呼び出して、のび太を救出します。スネ夫のママは、スネ夫を抱っこして叱っていました。
ネコの「ミーちゃん」とのデートを邪魔されたドラえもんが怒るのを見て、のび太はドラえもんに休日を作ることを提案します。翌日、ドラえもんはのび太に自分を呼び出すための「よびつけブザー」を渡して、ミーちゃんとデートに出かけました。
のび太は空き地で「よびつけブザー」をしずか、ジャイアン、スネ夫、「出木杉(CV:白川澄子さん)」、「ジャイ子(CV:青木和代さん)」、「安雄」、「はる夫」の前で披露します。ドラえもんを呼ばない決心をしたのび太を見て、ベレー帽姿でスケッチブックを抱えたジャイ子は「のび太さん、素敵」と目を輝かせていました。
なんとかブザーを押させたいジャイアンはのび太に殴りかかりますが、買い物帰りの「先生(CV:田中亮一さん)」が通りかかってピンチを免れます。のび太が先生に「先生とも長い付き合いですねぇ」と話しかけると、先生が「もう何年になるかなぁ」と返すというしみじみとしたシーンが描かれていました。
続いてスネ夫がワナをしかけますが、のび太は自力で脱出します。ここからはふたりがかりで襲いかかったジャイアンとスネ夫が衝突して粉々になったり、先生がランニング姿で再登場したり、のび太とジャイアンとスネ夫がでこぼこした地形で追いかけっこするなど、普段の『ドラえもん』では見られない珍しい演出が続出します。
「ドラえもんに休日を」が収録されたDVD『ドラえもん みんなが選んだ心に残るお話30~「台風のフー子」編』(ワーナー・ホーム・ビデオ)
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準レギュラーキャラまで全員登場
スネ夫のいとこの「スネ吉(CV:二又一成さん)」がスーパーカーで登場して追いかけますが、のび太はしぶとく逃げ続け、自宅に逃げ帰ることに成功しました。
しかし、背後から現れたママ「玉子(CV:千々松幸子さん)」の恐ろしい形相に、のび太はついブザーを押してしまいます。急遽(きゅうきょ)、ドラえもんが駆けつけますが、ママはのび太に買い物を頼んだだけでした。ミーちゃんに嫌われたドラえもんはのび太に激怒しますが、のび太も反論して、ドラえもんは泣きながらタイムマシンで22世紀へ帰ってしまいます。
そのままドラえもんは戻ってこず、のび太は学校から帰ってもひとりでたたずんでいました。ママが読んでいた『宇宙霧』という本は、実際に千々松幸子さんが刊行した詩集です。のび太はしずかの家へ行き、しずかのママ(CV:松原雅子さん)に挨拶しますが、出木杉が来ていると知ると走り去ってしまいました。
夜、のび太のパパ「のび助(CV:中庸助さん)」がドラえもんの消息を尋ねて、「ケンカしたって、また仲良くなれるさ」と声をかけます。一方、22世紀では「ドラミ(CV:よこざわけい子さん)」と「セワシ(CV:太田淑子さん)」と「ミニドラ(CV:佐久間レイさん)」が、意地を張っているドラえもんを心配していました。
どうしてもブザーを押させてドラえもんを呼びたいジャイアンとスネ夫は、今度は「神成さん(CV:渡部猛さん)」の家の塀に落書きをしてのび太をワナにかけますが、のび太は自力でなんとか脱出します。
やがて、のび太にガラの悪い少年ふたり組がからんできました。ブザーを踏み壊して覚悟を決めるのび太でしたが、ジャイアンとスネ夫が助けに来てくれます。しかし、そこへガラの悪い少年の兄が登場してふたりを投げ飛ばしてしまいました。偶然目撃したしずかがドラえもんを呼ぼうとしますが、ドラミによって再び20世紀に送り出されたドラえもんがガラの悪い少年たちを吹き飛ばします。
バツの悪い思いをするのび太とドラえもんですが、ジャイアンとスネ夫がふたりをくっつけようとします。ジャイアンは「お前らが一緒じゃないと、俺たちも調子狂っちゃうんだよな、なぁスネ夫!」と、声をかけて去っていきました。のび太とドラえもんは、「帰ろう」と微笑み合って家に帰ります。その後、いつものような朝がまたやってきて、お話は終わりました。
シンプルにまとまっていた原作や一度目のアニメ化に比べると、演出面でもストーリー面でもかなり余分な要素が付け加えられており、放送時はファンから賛否両論あったそうですが、すべては交代するキャストに出番を与えたかった制作側の気持ちの表れでしょう。放送当日のニュース番組は、20人以上の声優が集まったアフレコ風景に密着し、14人の声優からのメッセージを放送しました。
「ドラえもんに休日を?!」のアフレコの翌週、おそらく映画の予告編のため、大山のぶ代さんと小原乃梨子さんはふたりだけで最後の収録を行います。終わった瞬間、マイクの前で思わず小原さんが大山さんに抱きついた姿が印象的でした。