血が飛び散ったり内臓が出たりする、直接的な残酷描写を持ってして戦争の凄惨を伝える映画は数多くある一方、子供も観られるけれど戦争のグロテスクさがこの上なく伝わるアニメ映画もあります。



アニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』ポスタービジュアル (C)黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

【画像】え…っ? こんなかわいい絵柄で? こちらが「トラウマ」と言われるアニメ映画です(7枚)

「描かれない」ことこそがむしろ怖い

 2024年も8月となり、まもなく終戦記念日を迎えます。この機会に、戦争を描いたアニメ映画を観てみるのはいかがでしょうか。たとえば、2016年の『この世界の片隅に』もグロテスクな描写はほとんどなく、子供も観られる名作でした。

 また、他にも「血が飛び散ったり内臓が出たりする、戦争の直接的な残酷描写はほとんどない」「そうであるのに戦争の恐ろしさが伝わる」アニメ映画がありました。いずれも、主人公の視点からは「描かれないこと」を想像できるからこそ、怖い部分もあるのです。

『窓ぎわのトットちゃん』

『窓ぎわのトットちゃん』は黒柳徹子さんによる自伝的小説を原作とした、「困った子」といわれていた女の子が、自由な校風の学校に転校してのびのびと過ごす姿をつづった物語です。黒柳さんはこれまで同作の映像化を断ってきたものの、今回のアニメ映画は「世界情勢が変わってきた」ことに加えて、「今の若い人に観てもらえるなら」と許可をしたそうです。

 予告編では魅力を感じなかったという意見が多かったものの、2023年末の公開直後から絶賛の声が相次ぎました。「近年のアニメ映画の最重要作」「戦争映画の大傑作」「高畑勲監督作を思わせるアニメのクオリティーも最高」「ラストはずっと涙が止まらなかった」「あまりに素晴らしくて呆然とした」などの言葉が並んだのです。

 木登りをしたりみんなでプールに入ったりと子供も楽しく観られる場面も多いのですが、戦慄するのは戦争が「侵食」してくるさまです。

 第二次世界大戦が始まり、駅の改札員が男性から女性になっていたり(男性は兵隊として戦場に行った)、ラジオの天気予報が戦況の放送に変わったり(だから傘をさせずに雨で濡れる)、両親が「パパ」「ママ」という外来語を使うことを「トットちゃん」にやめさせたり、十分に食事を取れず痩せこていたり……周りが画一的な考えで統一される「全体主義」に変わっていく異常さは、他のどの戦争映画よりもグロテスクで恐ろしく感じました。

 さらに、トットちゃんがとあるショッキングな事実を知ってからの一連のシーンは圧巻です。これまでの学校と家という狭い世界で、それでも自分らしくいられる場所で生きてきたトットちゃんが、この光景を「見てしまう」ことがとてつもなく残酷で、だからこそ、戦争がどれほど間違ったことなのかを知ることもできます。

 その後の、さらなる事態を経てからの「戦争にも奪わせなかったこと」を示すトットちゃんの行動と言葉に、目から涙があふれて止まりませんでした。戦争を起こしてはいけない理由は何か、その理由の一端を、子供の目線でこれ以上なく示すことに成功した、歴史的な大傑作と断言します。現在はU-NEXTでレンタル鑑賞ができますので、さらに多くの人に観てほしいです。

『風が吹くとき』

『風が吹くとき』は同じくアニメ化もされた『スノーマン』も有名な、イギリスの作家レイモンド・ブリッグズ氏による同名の絵本が原作です。劇中のほとんどが「老夫婦の住む一軒家の中」だけで展開する、「核爆弾が降って来る」と聞いてからの日常的な会話が続く内容となっています。

 何が恐ろしいかといえば、「不確定なはずの情報に頼り切っている」ことでしょう。おじいさんは政府のパンフレットや新聞で政治について学んでいて、しかも自信を持って語る「博識」タイプにも見えます。しかし、実際は「政府に従うのは我々の義務なんだ」などと発言し、十分に検証せずに、しかも肝心の知識やエビデンスがあやふやなまま盲目的に従っているような危うさがあるのです。

 そのなかでも、核戦争に備えた「政府推薦の屋内シェルター」が「3枚のドアを並べて立てかけただけのもの」だったのは、悪い冗談のようでした。おじいさんは、いちおうは「ドアの角度は60度にしろと書いているけど、考えてみれば角度が何度でも変わらないな」「こんなのは一時しのぎだ」と冷静な視点も持っているのですが、それでも「そうするしかない」となっていることも怖いのです。

 そして、真の恐怖は本当に核爆弾が落とされ、凄まじい風が吹きあれ、あたりが瓦礫ばかりになった後、ここまでの事態になってもおじいさんが楽観的でい続けること、日本に原爆が落とされたことは知っていても肝心の「放射能」に関わる認識があやふやであることも、また戦慄する場面でした。

 同作では博識のようで重要な知識が欠けているおじいさんと、とにかく家事を優先し続けて危機感がないおばあさんの姿が中心で、外部の出来事がほとんど描かれないからこそ、このふたりのように「戦争の現実味が欠けていて何となく日常を続けていく」ことは「あり得る」と思えます。そのさまから、「戦争の歴史(今起こっていること)を知る意義」もこれ以上なく感じられることでしょう。

 ただ、『風が吹くとき』は会話劇がずっと続く、基本的には大人向けの内容です。その淡々としたなかにある恐ろしさを、かわいらしい絵柄から相対的に受け取れるのであれば、子供も退屈することはないでしょう。

 そして、森繁久彌さんと加藤治子さんが老夫婦の声を担当し、『戦場のメリークリスマス』の大島渚監督が演出を担当した日本語吹替版が、2024年8月2日よりリバイバル上映中です。劇場の「逃れられない」環境で観てこそ、より劇中の出来事をリアルに感じられるでしょう。