「ガンダム」シリーズには劇中、「木星帰り」のふたつ名で呼ばれる人物が登場します。「木星から帰還したこと」そのもので一目置かれている様子がうかがえるわけですが……「木星帰り」に込められた尊敬と畏怖を読み解きます。
不遜な振る舞いをする木星帰りのシロッコ、ジャマイカンにビンタされたことも。「機動戦士Zガンダム Volume.13〈最終巻〉」(バンダイナムコフィルムワークス)
【画像】こちら「木星帰り」のシロッコが開発に関わったひと味違うMS/MAです(8枚)
「木星帰り」が意味するものとは?
「ガンダム」シリーズには、「木星帰り」と呼ばれる人物が登場します。本編で登場した人物としては「シャリア・ブル」(『機動戦士ガンダム』)や「パプテマス・シロッコ」(『機動戦士Zガンダム』)がそう呼ばれ、そして一目置かれる存在として描かれていました。
この「木星帰り」とはどういうもので、そして木星には何があるのでしょうか。
木星にはいったい何があるのか? 派遣する組織は?
「ガンダム」シリーズの世界観において、宇宙船やモビルスーツなどを動かす「熱核反応炉」には「ヘリウム3」などが必要です。もともとは月面で採掘されていたものの十分な量を得ることができず、そこで目をつけたのが、地球から約9億km先にあり大気中に多くのヘリウム3が含まれている木星でした。
これを採掘するために組織されたのが、半官半民の「木星開発事業団」です。この組織は、連邦政府の管轄下ではあるものの関係は薄く、政治的には中立です。そしてその職員は必ずしも連邦政府から派遣されているわけではなく、なかにはジオン公国からの人員も含まれていました。
「木星帰り」が一目置かれる理由
先にも述べたとおり、地球圏から約9億km離れている木星への航行は、往復で4、5年かかるといわれています。そして、その採掘船における職員たちの生活は過酷なものだったようです。
長期間にわたる閉鎖空間での生活に、心理的重圧をおぼえる者や、錯乱してしまう者も少なくなかったようで、この採掘船団のキャプテンには、優れた統率力や判断力を有する人物が選出されました。
つまり、キャプテンを務めたシャリア・ブルやパプテマス・シロッコは、そもそも素養に富んだ人物だったと推察できます。
また、厳しい環境を乗り越え地球圏に帰還した「木星帰り」のなかには、ニュータイプ能力を発現させる者がいました。これは長期間、特異な環境に身を置いていたため能力を目覚めさせるきっかけになったのではないか、と(物語世界において)いわれています。
このように「木星帰り」という呼称は、そもそもキャプテンに選ばれる高い能力や、宇宙開発などに必要不可欠なヘリウム3を過酷な環境のなか持ち帰ってきた功績に対する敬意の払われたものであり、そしてそのような人物であるからこそ一目置かれるのでしょう。
木星帰りのニュータイプ、シャリア・ブルに与えられたモビルアーマー。「1/550 ブラウ・ブロ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
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たった1話で戦死したシャリア・ブルとトップに上りつめたシロッコ
木星から帰還早々パイロットとして期待されてしまったシャリア・ブル
かつて、木星開発事業団の職員は連邦の構成員やジオン公国民など、垣根なく木星に送り込まれていました。
しかし連邦は、ジオン側への経済制裁の一環として、軍事利用されるヘリウム3を禁輸とします。そこで、ジオン側は独自に木星船団を組織し派遣するようになり、そのキャプテンのひとりがシャリア・ブル大尉でした。
一年戦争末期、シャリア・ブルは木星からジオン公国に帰還すると、「ギレン・ザビ」総帥と謁見します。ギレンは彼のニュータイプの素養を認め、「キシリア・ザビ」の下でモビルアーマー(MA)を用意したので戦ってほしいと命じました。
またキシリアは「木星帰りの男か、ララァよりニュータイプとしては期待がもてるかもしれない」と、MA「エルメス」を託すことも視野に入れるほどの展望をもっていました。
人員が枯渇してきた時期だったとはいえ、ギレンやキシリアは「木星帰り」のキャプテンに大きな期待を寄せていたことがうかがえます。
船団キャプテンからティターンズを乗っ取った男 パプテマス・シロッコ
一年戦争後、戦略物資としてヘリウム3を重要視した連邦軍は、船団に連邦軍所属の船を加え、キャプテンには連邦軍人を起用するようになりました。そのキャプテンのひとりがシロッコです。
『Zガンダム』での初登場時には、着艦した巡洋艦「ハリオ」の艦長をタメ口で言い負かし、これに対して艦長は「なんであんな木星帰りの男を大佐(バスク・オム)は……」と苦々しくこぼしています。巡洋艦の艦長ですから、相応の敬意を払われてよい立場のはずであり、やはりこれは木星帰りという実績に対する、敬意や畏怖の表れといえるでしょう。
それほどまでに「木星帰り」の肩書は強力で、結果としてシロッコはティターンズの創設者、ジャミトフ・ハイマンを謀殺し、実質的指導者にまで上りつめました。
ちなみに、シロッコが艦長を務めた「ジュピトリス」はヘリウム輸送艦で、全長2kmもあり、「ホワイトベース」の262m(異説250m)、「ドロス」の495mと比較しても圧倒的に巨大艦です。船体中央にある円柱状の20基のタンクでヘリウム3を運搬します。
ここまで、「木星帰り」の活躍を見てきましたが、『機動戦士ガンダムZZ』では、物語で戦果をあげた主人公の「ジュドー・アーシタ」と「ルー・ルカ」が、最終回で木星へ旅立ちます。
この事例を見るかぎり、木星へ派遣される人物は、相当な実力と強メンタルをもった優秀な人物でないと務まらないようです。