ゲームの発売日といえば、「木曜」を連想する人が多いはず。しかし、必ずしも決まっているわけではありません。かつての傾向や転換期などについて、ゲーム史を通して振り返ります。
ファミコンの代表格といえば『スーパーマリオブラザーズ』が外せない。本作の発売日は金曜日だった。 (C)1985 Nintendo
【画像】えっ、懐かし過ぎ! こちらがファミコン時代の「金曜日発売」の名作レトロゲームです(6枚)
「ファミコン」が発売されたのは何曜日?
「ゲームの発売日」と聞いて、木曜日を思い浮かべる人が多いことでしょう。その印象は的を射ており、先月もパッケージ&ダウンロード販売のゲームの多くが、木曜日に発売されました。
しかしゲームの発売日は、「必ず木曜日」と決まっているわけではありません。元々は何曜日に発売されていたのか。そして、いつ頃から木曜日に集中するようになったのか。気になる「ゲームの発売日」の歴史を振り返ってみましょう。
まずは、ファミコン時代に「金曜日発売」が定着する
家庭用向けゲームのプラットフォーマーといえば、現在はソニー・インタラクティブエンタテインメントとマイクロソフト、そして任天堂の3社が代表的です。そのなかでもゲーム事業の歴史が最も長いのは任天堂で、デジタルゲームに限っても1970年代にはいくつもの商品を手がけ、1980年には携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」を発売。そして、1983年に、「ファミリーコンピュータ」をリリースしました。
ファミコンが発売された1983年7月15日は、曜日でいえば金曜日にあたります。当然、同時発売された『ドンキーコング』や『ドンキーコングJR.』、『ポパイ』も同じく金曜日発売です。また、ファミコンブームの火付け役になった『スーパーマリオブラザーズ』(1985年9月13日)、周辺機器「ディスクシステム」第1弾の『ゼルダの伝説』(1986年2月21日)といった人気作の発売日も、全て金曜日でした。
こうした任天堂の展開に合わせ、各ソフトメーカーも金曜日にゲームソフトを販売するようになり、ごく一部のタイトルを除いて「ゲームの発売日は金曜日」という流れが通例化しました。この流れはファミコン時代をきっかけに起こり、スーパーファミコン以降も長く続きます。
ちなみに、「金曜日」が発売日に選ばれた理由は明示されていません。しかし、たっぷりゲームが遊べる「土日」の前日は、最も気分が高揚するタイミングです。自然と財布の紐も緩みやすくなるので、「金曜日発売」は実体験を振り返っても十分理に適っています。
『アーマード・コア』は、木曜日発売に対応したタイトルのなかでも、かなり早い方だった。 (C)1997 FromSoftware, Inc.
(広告の後にも続きます)
「ゲームの発売日」は、90年代に大きな転換期が訪れる
「木曜日発売」のターニングポイントは、1997年にあり
かつては金曜日が多かったゲームの発売日が、なぜ木曜日主体に移り変わったのか。その背景には、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の存在が大きいと言われています。
当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)は、「PlayStation」(以下、初代PS)を1994年12月3日に発売し、家庭用向けゲーム機のプラットフォーマーとして本格参入しました。
しかし、初代PSとローンチタイトルの発売日は、木曜日ではなく土曜日でした。また、同月に出た『ツインビー対戦ぱずるだま』(1994年12月9日)、『モータートゥーン・グランプリ』や『KING’S FIELD』(ともに同年12月16日)の発売日は、いずれも金曜日です。1994年12月22日(木曜日)に何本かゲームが発売されましたが、これは23日が祝日(天皇誕生日)だったため前倒したものと思われます。
初代PSの投入直後も、通例の「金曜日発売」はしばらく継続されましたが、1997年の中盤に変化の兆しが訪れます。一部の例外はあるものの、同年の6月までは大半のゲームが金曜日に発売されていました。初代PS向けに発売された『ファイナルファンタジータクティクス』(6月20日)や『QUIZなないろDREAMS 虹色町の奇跡』(6月27日)などがその例で、SCEが販売した『TOTAL NBA ’97』も6月27日の金曜日にリリースされています。
それが同年7月に入ると状況が一変し、『沙羅曼蛇 DELUXE PACK PLUS』(7月3日)、『アーマード・コア』(7月10日)、『モンスターファーム』(7月24日)など、初代PS向けゲームのほとんどが木曜日発売に切り替わったのです。ちなみに、同時期に活躍した任天堂のゲーム機「NINTENDO64」向けのゲームを見ると、『マルチレーシングチャンピオンシップ』や『スーパーマリオ64 振動パック対応バージョン』などが、7月18日の金曜日に発売されています。
初代PS向けゲームの多くが、この時期を境に木曜日発売へと切り替わる──それほどの影響を与える存在は、プラットフォーマーであるSCE以外に考えられません。もし流通全体の問題であれば、「NINTENDO64」のゲームも影響を受けるはずですし、各ソフトメーカーの独自判断であれば、あまりに急な切り替えといえます。ちなみにSCE自身も、同年7月10日に『QUEST FOR FAME』と、17日に『みんなのGOLF』と、いずれも木曜日にゲームを発売しました。
後に任天堂も動いた「ゲームの発売日」
なぜ、金曜日から木曜日の発売に切り替わったのかといえば、ゲームソフトの媒体が「カートリッジ」から「CD-ROM」に変わったことで再発注しやすくなったため、と言われています。木曜日発売なら、即売り切れてもすぐに再発注をかければその後の週末に間に合うから、といった見方が有力です。
このほかにも、「NINTENDO64」向けのゲームが金曜日発売だったため、それに先んじる狙いで前日である木曜日に移動させた説などもあります。
こうした施策がどれほど有効だったのかは分かりませんが、後に任天堂も木曜日にゲームを発売することが増えました。例えば「ニンテンドーゲームキューブ」の発売後を見ると、『ピクミン』は2001年10月26日の金曜日発売ですが、『動物番長』(2002年2月21日)や『巨人のドシン』(GC版 同年3月14日)はいずれも木曜日発売です。
当時のSCEの影響により、後に任天堂まで動いた「ゲームの発売日」。この時期を機に、全体の流れは木曜日発売が主流になりました。一時期は金曜日発売がほとんどなくなり、木曜日の次に多いのは土曜日、という年代もあったほどです。
しかしその流れも2010年代後半に再度変化が訪れ、金曜日に発売するゲームはやや増加傾向に転じました。主流は変わることなく木曜日ですが、特に任天堂は大半のタイトルを金曜日発売に再度切り替えていきました。
こうした流れはいまも受け継がれており、「ゲームの発売日」はいまも木曜日が最もポピュラーではあるものの、任天堂は金曜日の発売が多く、また他社も状況やタイトル次第で木曜日以外を選択する場合が少なからずあります。
いまのところ、「ゲームの発売日」は木曜日が主流です。しかし、いずれまた変革を迎える可能性はゼロではないでしょう。「ゲームの発売日が木曜だった時代もあったんだね」と言われる日が、いつかくるかもしれません。