パリ五輪の男子サッカーで、スペインは決勝に駒を進め、金メダルをかけて現地時間8月9日に地元フランスと対戦する。しかし、スペイン紙『AS』の前編集長、アルフレド・レラーニョ氏が、「私を納得させるには至っていない」と述べるように、現地ではその戦いぶりについて不満の声も上がっている。
準々決勝の日本戦は、スコア上は3-0とスペインの完勝に終わった。しかしアナリストとして、サッカー専門誌『パネンカ』などに寄稿しながら、サッカーを専門としたビッグデータの分析を行なう『Driblab』所属のアレハンドロ・アロージョ氏は、「内容的にそこまでの差は感じなかった」と振り返る。
「むしろ、後半15分ぐらいまでは、日本のシナリオ通りに試合は進んでいた。確かにボール支配率ではスペインが上回っていたし、先制点も奪ったが、日本の選手は明確な戦術的意図を持って相手ゴールに迫ることができていた。左右両サイドのスペースで、ウイング、インサイドハーフ、SBの選手がトライアングルを形成しながら流動的にパスを回して崩し、クロスを供給していた。また、その際の出し手と受け手の距離感、パスの強弱、立ち位置、身体の向きといったものの意識づけもできていた」
アロージョ氏は、スペイン相手に攻撃のイニシアチブを握ろうとした日本チームの姿勢に着目する。
「例えば、2022年のカタールW杯でスペインを下したチームと比べても、今大会の日本は攻撃姿勢がより鮮明だった。サイドからの崩しでスペインを苦しめることができたのは、攻撃の連動性の高さの賜物だ。とりわけ斉藤光毅は、一つひとつのプレーにセンスの高さを感じさせた。そして忘れてならないのは、CFの細谷真大の働きだ。ポストプレーをしたり、サイドに流れてスペースを作ったり、ゴール前に走り込んだりと、局面に応じて巧みにポジションを変え、チームのために動くことで相手DFを引きつけ、サイドでのボールの循環を助けた」
ただそれでも、日本は得点を奪えなかった。アロージョ氏は、勝敗を分けたポイントは「ゴール前での攻防における個々のクオリティーの差」にあると分析する。
「もちろん、細谷の同点ゴールがVARで取り消されるという不運はあったし、バーやポストに嫌われたシーンもあった。しかし一番の原因は、サイドを崩すことはできても、よりプレッシャーのかかるゴール前で同じことができなかった点にある。すぐにシュート態勢に入れる位置にボールを止める、適切な身体の向きで視野を確保するといった、ここぞという場面でのプレー精度が驚くほどに低く、せっかくいい崩しができても、フィニッシュに持ち込めない場面が目についた。フリーになった一瞬の隙を見逃さず、2度ゴールネットを揺らしたスペインのフェルミン・ロペスとは対照的だった。両国の差は端的に言うと、個々のクオリティーの差だ。スペインがチャンスを確実にゴールに結びつけた一方で、日本は、個々のクオリティーで劣る分、ボリューム(運動量)でカバーするしかなく、時間が経つにつれて得点を奪えないことがストレスになっていった」
さらに、結果的に大差がついた要因として、そのストレスから派生した日本の疲労とスペインの試合巧者ぶりの2点を挙げた。
「スペインの2点目と3点目に関しては、日本選手の疲労も大いに関係していた。逆に後半スペインは、フレッシュなベンチメンバーを投入しながら、徐々に試合の流れを引き寄せていった。スペインの選手たちは勝負どころの見極めを知っている。さすがの試合巧者ぶりだった」
東京五輪、カタールW杯、そしてパリ五輪と、カテゴリーは違えど、3大会連続で対戦した日本とスペイン。今回、日本が見せた攻撃的な姿勢には、スペイン人アナリストも驚きを覚えたようだ。
「必死の守備で耐え凌ぎ、少ないチャンスをモノにするというのが、日本が実力上位チームに挑む際の常套手段という認識だったが、パリ五輪で対戦した日本は、攻撃でイニシアチブを握ろうとしていた。残念ながら今回、その戦い方は実を結ばなかったが、今後さらに個々のクオリティーの差が縮まれば、スペインにとって簡単ではない相手になるだろう」
文●下村正幸
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