現代ほど作品数がなかった昭和には、手塚治虫氏や石ノ森章太郎氏といった巨匠が手がけたマンガが人気作として広まりました。また、最後は主人公が死亡するという、衝撃的な展開が多いのも特徴なのではないでしょうか。今回は、昭和の名作マンガのなかから、ラストで主人公が死亡してしまう作品を振り返ります。



石ノ森章太郎『サイボーグ009(サンデー・コミックス)』第3巻(秋田書店)

【画像】え、見た目の変化スゴっ! これがサイボーグの紅一点「003」時代ごとのキュートな姿です(6枚)

「009」も「アトム」も死亡して完結?

 現代ほど作品数が多くなかった、昭和中期ごろのマンガといえば、手塚治虫氏や石ノ森章太郎氏、永井豪氏といった巨匠たちの作品が大衆の人気を得ていました。さらに、物語の最終話で後味の悪い展開となる「バッドエンド」が多いのも特徴のひとつといえるのではないでしょうか。今回は、昭和の名作マンガのなかから、ラストで主人公が死亡してしまう作品を振り返ります。

『サイボーグ009』

 石ノ森章太郎氏(発表当時は石森章太郎)の代表作のひとつである『サイボーグ009』は、「主人公死亡」展開が描かれた作品として有名です。主人公の「島村ジョー(009)」を筆頭に、9人が改造人間にされ、悪の組織である「ブラックゴースト」に立ち向かうというSFアクションマンガです。

 もともとは1964年から1965年まで、少年画報社「週刊少年キング」で連載されていたものの、打ち切りという不本意な形で終わってしまいました。しかし、別の出版社からも執筆依頼があり、1966年から講談社「週刊少年マガジン」での連載が始まります。「マガジン」では「地下帝国ヨミ編」が描かれました。

「地下帝国ヨミ編」のラストでは、009がバトルの末に宇宙空間に放り出されてしまいます。009を助けるため、「ジェット・リンク(002)」がやってきたものの、ふたりは大気圏に突入し、燃え尽きてしまいます。

 主人公の死亡という結末に対し、SNS上では「石ノ森作品は悲しいラストが多いけど、例にもれず『009』もそうで、ファンとしてショックな最終話だった」などの声があがっています。連載当時も、「ジョーの死」を受け入れられなかったファンが多かったようで、「マガジン」編集部に抗議の連絡が殺到したといいます。それがきっかけになったのか、009と002が生存していたという設定で、1967年より秋田書店「冒険王」で続編の連載が始まりました。

『鉄腕アトム』

 手塚治虫氏の代表作であるマンガ『鉄腕アトム』も、主人公である少年型ロボット「アトム」の死が描かれました。1952年から1968年に光文社「少年」で連載された同作は、21世紀の未来を舞台に、10万馬力のアトムが活躍するSFヒーローマンガです。

 もともとは1951年から「少年」で連載された『アトム大使』にアトムが初めて登場し、そのアトムを主人公にして新たに連載が始まったのが『鉄腕アトム』でした。しかし、さまざまな媒体で多くの短編が発表されていることもあり、マンガの最終話は複数あるといわれています。

 そのなかのひとつである『アトムの最後』は、講談社「別冊少年マガジン」に掲載された作品で、アトムが活躍した21世紀からさらに幾年か経ったあとの地球が舞台です。アトムはロボット博物館で保管されて眠っており、それを「丈夫」という若い男性が起動させます。主人公はこの丈夫で、あくまでもアトムは脇役として描かれています。

『アトムの最後』の世界ではロボットが人間を支配しており、ロボットから逃げていた丈夫はアトムに助けを求めます。事情を把握したアトムは、追っ手のロボットと衝突します。しかし、ひとコマでアトムが爆破されたらしき描写がされます。アトムがあまりにもあっけなく破壊され、丈夫も殺されてしまうため、とても後味が悪く感じた人が多いであろう終わり方でした。



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立ったままで絶命した野球マンガの主人公

『侍ジャイアンツ』

 野球マンガとして人気を博した『侍ジャイアンツ』(作画:井上コオ、原作:梶原一騎)は野球を描いた作品なのにもかかわらず、ラストで主人公が壮絶な死を迎えます。

 1971年から1974年まで集英社「週刊少年ジャンプ」で連載された同作は、巨人軍に入団した主人公の「番場蛮」が、さまざまな魔球を駆使しながらエースを目指す様子が描かれました。

 優勝がかかった中日戦が描かれたクライマックスで、番場が登坂します。あとひとり打ち取れば勝ちとなるシチュエーションで、番場の最大のライバルである「大砲万作」に打席が回ってきます。疲労困憊(こんぱい)の番場は最後の最後で、体に負担がかかる「分身魔球」を投げて、見事に万作を打ち取りました。

 巨人ナインが歓喜するなか、番場のもとに駆け寄った捕手の「八幡太郎平」が、「死んでる 番場は死んでる!!」と泣きながら叫びます。体を追い込みすぎた番場は、心臓麻痺を起こし、立ったままの状態で絶命していたのです。

 まさかのラストに驚いた読者は多く、SNS上でも「仁王立ちで死ぬって無理がありすぎる」「ラストひとコマで、空から番場が笑顔でピースしている姿に『強引に終わらせた』感を強く感じてしまった」など、思い出を語る声があがっていました。ちなみにアニメ版では番場は死なず、ハッピーエンドを迎えています。