長期連載されたマンガの実写化は、原作からどうしても削らないといけない部分が出てきます。一方で、2巻以内で完結した短いマンガを実写化し、高い再現度で評価された映画もありました。
ゆるやかな雰囲気を原作どおりに再現した映画『森山中教習所』ポスタービジュアル (C)2016 真造圭伍・小学館/「森山中教習所」制作委員会
【画像】え…っ? 「ポスターだけで原作再現率高い」 これが短いマンガとセットで観たい実写版映画です(8枚)
ほのぼのとした雰囲気も原作どおり
長編マンガ作品の実写版は、映画化はもちろんドラマ化でも上映時間、放送枠の都合で重要な場面がカットされることもあります。一方で、2巻以内で完結した短いマンガを丁寧に再現した作品もありました。そうした、好評だった「短いマンガ」の実写映画を振り返ります。
『森山中教習所』(原作:真造圭伍)
映画『森山中教習所』は、田舎を舞台に無認可の教習所へ通う大学生とヤクザの組員とのひと夏を描いた1巻完結の同題マンガを、2016年に実写化したものです。能天気な大学生の「清高」(演:野村周平)と、クールなヤクザの「轟木」(演:賀来賢人)という、高校の同級生で正反対なふたりを中心に、ゆるやかな人間ドラマが描かれます。
普段の生活では交わることのないふたりが、教習所で「免許を取る」という共通の目的をもち、友情を深めていく姿が本作品の見どころです。また、清高が教官の「サキ」(演:麻生久美子)に恋心を抱くなどの恋愛要素もあり、キャストの細やかな表情や動きの変化とともに物語が淡々と流れます。ロケ地である栃木県の、のどかな情景も相まって、ほのぼのとした原作の世界観がしっかり表現されていました。
免許を取ったら再び会うことのない人たちとの一期一会の出会いや、そこにしか生まれないドラマが丁寧に描かれ、「もう二度と帰ってこない時間を思い出す切ない作品」「ただのゆるい話と思いきや、想像以上にストーリーが出来上がっていた」と、好評の声が多く挙がりました。
『ミスミソウ』(原作:押切蓮介)
2018年に公開された映画『ミスミソウ』は、転校先でクラスメイトから壮絶ないじめにあった挙句、家族を殺害されてしまった「野咲春花」(演:山田杏奈)が、己の命をかけて凄惨な復讐劇を繰り広げるという物語です。同題の原作マンガは2巻完結で、殺戮に身を投じていく春花やクラスメイトの心の闇、壮絶なクライマックスまでが、トラウマ級の描写の数々とともに描かれています。
目を釘で刺されたり、鼻を潰されたりと容赦ないスプラッターなシーンが再現されており、映画初主演の山田杏奈さんの名演も相まって、原作に負けない迫力を生み出しています。また、春花の唯一の心の支えであった「相場晄(みつる)」を演じる清水尋也さんも、暴力的な本性をもつ二面性のあるキャラクターを実在感たっぷりに演じていました。
さらに、雪景色の「白」と、血や春花が着用するマフラーやコートの「赤」のコントラストが原作の世界観をより引き立てている点も、映画ならではの見どころです。物語が進むごとに春花の衣装に赤いアイテムが増えていくのは内藤瑛亮監督の演出によるもので、それにより彼女の内面の変化を表していました。ネット上では「救いようがなくて胸糞な感じが原作に忠実」「グロすぎて見ていられなかった」という声も挙がっています。
また、あるキャラの顛末が原作と違っており、「最後にさわやかな感動があった」「ある種原作より残酷」とさまざまな反応を呼びました。
宮﨑あおい、高良健吾らが演じた若者の葛藤が感動を呼んだ『ソラニン』 (C)2010 浅野いにお・小学館/「ソラニン」製作委員会
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原作より過激だが「愛」を感じる作品
『翔んで埼玉』(原作:魔夜峰央)
原作『翔んで埼玉』は、東京都民から迫害を受ける埼玉県民と、近県を巻き込んだ東京都民との壮絶なバトルが繰り広げられる、架空の日本が舞台のギャグマンガです。1980年代に全1巻で未完になっていた作品に、武内英樹監督が独自の解釈を加え、2019年に実写映画化されています。
踏み絵代わりに埼玉の名物「草加せんべい」を踏ませるなど、全編に散りばめられた「埼玉ディス」は、原作よりも過激になりました。オリジナルの瓶に詰められた東京の空気を嗅いでどの地域のものか当てる競技「東京テイスティング」の場面や、武内監督の出身地である千葉県へのいじりなどギャグ要素をより高めています。
また、差別をなくして埼玉の地位を向上させるために奮闘する「埼玉解放戦線」の指導者「麻実麗」役をGACKTさんが務め、彼に恋する生徒会長「壇ノ浦百美」を二階堂ふみさんが男装して熱演しました。華やかな衣装と濃いメイク、各キャストの大真面目な演技も相まって、原作マンガから醸し出す独特の雰囲気を見事に再現しており、興行収入約38億円を記録するヒット作品となります。
実は日本各地に埼玉の影響が及んでいることが分かるオリジナルのラストも話題を呼び、「埼玉のこと全く知らない地方民だけど爆笑した」「ディスり方に愛がある」「ラストのはなわの歌(埼玉県のうた)も爆笑」と、高い評価を受けています。
『ソラニン』(原作:浅野いにお)
映画『ソラニン』は2巻完結の同題マンガを原作とする作品で、音楽での成功を夢見る「種田」(演:高良健吾)と同棲する彼女の「芽衣子」(演:宮崎あおい)を中心に、若者たちの苦悩がリアルに描かれています。2010年に公開された本作は、登場人物が日常のマンネリから生じるモヤモヤや、生きる道への迷いに葛藤する姿が、原作どおりの穏やかな世界観とともに描かれ高い評価を受けました。
展開や演出は原作マンガに忠実で、そこへ実写化ならではの要素として、出演者が実際に演奏したライブシーンが加わり、見どころのひとつとなっています。芽衣子役の宮崎さんは本作で歌とギターに初挑戦し、原作マンガにあった浅野先生による歌詞にASIAN KUNG-FU GENERATIONが曲をつけた楽曲「ソラニン」を歌って、感動のクライマックスを飾りました。
宮崎さんの演技や、ライブシーンには「思わず涙が出そうになった」「芽衣子の透明感と内に秘めた強さがぴったり」「ちょっと下手なのも込みで感動」「演技じゃなくて原作の芽衣子が実在すると思わされた」「もともと映画っぽいマンガだったけど、ここまで的確に映像化するとは」など、原作ファンからも絶賛されています。
※宮崎あおいさんの「崎」は、正しくは「たつさき」