【甲子園熱戦レポート│3日目】「ここからやり直さなきゃいけない」初出場の新潟産大付に逆転負けを喫した花咲徳栄・岩井監督の新たな誓い<SLUGGER>

 出直しの1敗――2017年に全国制覇を果たした花咲徳栄が初戦で敗退した。5年ぶりの甲子園の舞台だったが、1対2で初出場の新潟産大付に逆転負け。地区大会で強豪校を破って初出場を果たした相手の術中にハマっての敗戦だった。

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「甲子園に出て負けて、甲子園に出て負けてを繰り返して、甲子園での勝ち方を熟知して優勝した学校だったんで、5年も空いちゃった。甲子園で勝つために必要なことを説いてきたつもりでしたけど、またやり直しです」
 
 花咲徳栄の岩井隆監督はそう敗戦を受け止めた。

 2回にドラフト上位候補と評判の石塚裕惺の出塁から1点を先制。だが、そのまま突き放せずにいると、やがて相手にペースを握られた。2人の投手の巧みな配球にタイミングをずらされて打線は分断。6回に同点、7回に勝ち越されてしまったのだった。

「相手は複数点ではなくて1点を取るチームだったんで、2点、3点を取りに行こうと臨んだんですけど、ずれちゃって打球が上がってしまったのが残念ですね」(岩井監督)

 試合前から花咲徳栄が警戒していたのは新潟産大付の足だった。先頭打者の戸嶋翔人は新潟大会6盗塁をマークした俊足打者で、さらに三塁コーチがリード位置などを指示するなど徹底してバッテリー揺さぶりをかけてきた。 足攻を仕掛けるチームは僅差勝負になると神経戦になる。バッテリーはもちろんこと、守備陣全体が大きな警戒心を持たなければならなくなる。一方、大差をつけてしまえば、足攻めは気になることはない。岩井監督が「1点を取ってくるチーム」と相手チームを表現したのはそのためだ。だから、一気呵成に攻める必要があった。

 しかし、粘られた。

「少しタイミングがずれていた。走塁死もあったし、焦っちゃったのかな」と岩井監督は唇を噛んだ。

 7回に勝ち越され、この夏、初のビハインドを背負った花咲徳栄ナインは余計に焦った。石塚はこう証言する。

「(6、7回に)連続で失点してしまったのが大きかった。同点で終盤になればまた違ったとは思う。自分たちは県大会で接戦を経験してきたんで大丈夫だと言い聞かせてきたんですけど、県大会は乱打戦の接戦でした。投手戦の接戦は初めての経験で、リードされて難しいところはありました。先制してから得点を重ねていって相手の戦意をなくすのが理想だったんですけど、粘り強いチームでそうさせてくれなかったですね」 一方、新潟産大付からしてみればロースコアの接戦をモノにするのは専売特許のようなものだろう。県大会では新潟明訓、日本文理、中越、帝京長岡など強豪校を次々に撃破してきた。その戦いを甲子園でも遺憾なく披露した。新潟産大付の吉野公浩監督は強豪校に勝つ秘訣をこう話す。

「選手たちにはボクシングで例えるんですけど、最初はガードを固めて、ジャブとボディブローで相手の出足を止めて。そこから最後にストレートで勝ちきるぞみたいな。(走塁面では)戸嶋が塁に出ると牽制をしてくれて、それ以外の選手にも気を遣ってくれていたので、いいプレッシャーをかけられたと思う」

 そうして花咲徳栄は相手の思うようにやられた。力を出し切ることなく敗れた試合だった。
  ただ、岩井監督は「一からのやり直し」とこの敗戦を前向きに受け止めている。

「相手にしつこくられて何かね、流れが一気に行っちゃうっていう。甲子園は怖いですよね。これまでもうちは経験したけど、甲子園出場が5年も空いてしまうと初出場のような感じ。『甲子園はこういうところだよ、こういう野球をしないといけないところ』と僕が分かっても、選手はなかなかイメージできなかったんだと思う。負けをずっとを繰り返して優勝したので、甲子園の勝ち方をチームが知るためには、ここから一からやり直さなきゃいけない」

 15年、優勝した東海大相模に1点差の悔しい敗戦を経験し、16年は今井達也を擁してやはり頂点に立った作新学院に苦杯を舐めた。敗戦から甲子園を知り尽くし、頂点に立ったのが17年だった。出直しの一敗はジャイアントキリングを喰らう悔しいものになったが、花咲徳栄がもう一度立ち上がるためには必要な経験となるはずだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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