水星に水はある?

水星は「水の星」と書きますが、その名の通り水がある星なのでしょうか?

水星には大気がほとんどない

水星の見た目はクレータが多く、月に似ています。地球のような海は見当たらず、明らかに液体の水はなさそうです。

水星には大気がほとんどないので、対流によって熱の伝搬がなく表面温度の差が極端です。そのため前述したように太陽の光が直接当たる昼間は400℃以上になるのに対して、夜には-200℃まで冷え込みます。かなり厳しい環境です。

でも、氷はあるかもしれない

にもかかわらず、水星には水の氷があるのではないかと言われていました。

水星は公転面に対して自転軸がほぼ垂直になっているので、北極や南極のクレータのくぼみには、永久に太陽光が当たらないところがあると考えられるのです。これは永久影と呼ばれずっと-200℃の夜の世界です。だとするとそこに氷の水があってもおかしくありません。

実際に、探査機メッセンジャーによって、水星のクレータの永久影が確認されました。さらにその場所を詳しく調査したところ、H2Oの氷の存在を示す数々の証拠が得られたのです。具体的には、赤外レーザーの反射率が高い場所があり、その場所に水素が存在すること、常に-170℃以下になっていることなどから氷があることが分かりました。

それでは、その水はどこから来たのでしょうか?

1つの説として、彗星などの氷を含む天体が水星に衝突したときに水がもたらされたと考えることができます。また、水星に吹き付ける太陽風の水素原子と水星の岩石由来の酸素原子が反応して水ができたのかもしれないと考えられています。

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意外とヘビーメタルな水星

ヘビーメタルは日本語でいうと「重金属」です。一般に重金属とは鉄より重い(原子番号が大きい)金属元素のことをいいます。

太陽系の惑星はガス惑星と岩石惑星に分類することができ、水星は岩石惑星に分類されます。しかしながら、水星については、岩石惑星というよりも金属惑星と表現する方が的確かもしれません。

水星は何からできている?

水星はその体積の61%以上が鉄とニッケルなどの金属元素でできていると推測されています。


Credit:BepiColombo Study Report

なぜそんなことがわかるのでしょうか?

惑星の内部構造を調べる手がかりとなるのは、その惑星の密度です。密度は質量と体積から計算できます。

水星の質量はその近くを通った探査機の軌道変動や金星の軌道が水星によって乱される度合いを計測することで推定することができます。そのようにして求めた水星の質量は3.301 ×1023kgです。これは地球の質量の6%に相当します。

水星の半径はマリナー10号の計測で2439kmと求められています。したがって、水星の平均密度は5.43 g/cm³と計算できます。地球の平均密度は5.51 g/cm³なので、平均密度は地球とほぼ同じです。

しかし、地球の場合は質量が水星の20倍近くあるので、中心での圧力は360万気圧にもなり物質は通常の状態ではなく押しつぶされた状態になっています。それに対して水星中心部の圧力は25万気圧から40万気圧で物質はほとんど圧縮されていません。

地球の物質の圧縮を解いて全てを1気圧下の状態に換算すると密度は4.1 g/cm³程度になります。水星について同様に換算しても5.3 g/cm³と補正前とほとんど変わりません。

下記のグラフは地球型惑星の半径と密度の関係です。この図からも水星が高密度であることが分かります。


Credit:BepiColombo Study Report

以上のことから、水星は地球よりも重い物質でできていることは明らかです。しかし、水星の表面は月のような岩石質の物質でおおわれているので、内部に重い物質があると考えられます。

宇宙にたくさんある金属といえば、鉄やニッケルが挙げられます。実際に地球の核も鉄やニッケルが主成分です。したがって、水星の内部の大部分が鉄やニッケルでできていると予想されます。

水星の成り立ち

他の岩石惑星(地球型惑星)と比べると突出して金属成分が多い水星はどのようにできたのでしょうか?

これを説明するのに、2つの原始惑星が衝突したというシナリオが提唱されています。2つの惑星はいずれも鉄・ニッケルの核と岩石のマントルを持っていてその割合は地球と同程度でした。

それぞれの金属部分は粘り強い性質があるため衝突によって合体し、一方で岩石部分は粉々に吹き飛んでしまいました。その結果金属が大部分を占める水星ができたと考えられます。


Birth of Mercury / Credit:Left: NASA/JPL/Caltech; Right: Reprinted by permission from Macmillan Publishers Ltd: Nature [473(7348):460-461, ©2011]これ以外の仮説としては、水星が形成された時点では太陽活動が不安定で高温の太陽風によって水星の岩石部分が融けて蒸発したという蒸発説などがあります。

水星の磁場

水星にも磁場があります。

地球の中心にあるコアは、個体の内核と液状の外核に分かれていて、この液状の外核の流れが地球磁場を作っていると考えられています。

そしてこれは水星にも当てはまると考えられます。

水星の内部には液体の鉄でできた外核があると推測されていて、液体の鉄が対流することによって電流が生じその結果として磁場が発生すると予想されているのです。


水星の磁場 / Credit:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington

しかし、水星はサイズが小さいため、すぐに冷えてしまいます。外核の液体の鉄が冷えて固体になると磁場は作られなくなります。

それにもかかわらず、1975年にマリナー10号の観測で水星の磁場が観測されました。そして地上からの電波エコーの観測によって中心の核が液状であることが確かめられています。

なぜ、水星の核の鉄は完全に固まっていないのでしょうか?

それは、硫黄などの不純物が融点を下げる働きをしているからだと考えられています。それでも大部分は固体の鉄が占めていると推測されるため、冷えやすい水星の薄い外核の層がどのようなメカニズムで磁場を作り出しているのかという点は謎となっています。

これらの謎を解くべく、メッセンジャーによる観測やベピ・コロンボ ミッションが推進されています。