危険な暑さが続く日本。最優先で環境整備に着手すべきは育成年代。大人たちはサッカー少年に夏休みを返す時が来ている

 危険な暑さが続いている。昨年の東京を例にとれば、年間で4割近くが夏日(最高気温25度以上)で、そのうち8割が真夏日(最高30度以上)か猛暑日(同35度以上)だったそうだ。
 
 ところが日本サッカー界は、依然としてその猛暑の時期にイベントを詰め込んでいる。さすがにJリーグは2026年から秋春制へのシーズン移行を発表したが、夏休みには小学生から高校生までの大会が目白押しだ。

 真夏の日中に世界にも例を見ない過酷な連戦を強いる全国高校総体(インターハイ)は、今年から開催地をJヴィレッジのある福島県に固定した。だがもはや福島の夏も決して涼しくはない。福島農林水産部が、昨年の夏を総括している。

「7月中旬以降は猛暑日になることが多く、16日に広野(Jヴィレッジ所在地)は37.3度を記録。8月もほぼすべての観測地点で史上1位の高温記録を更新した」
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 今年のインターハイの決勝戦は正午キックオフで31.4度。準決勝も9時開始の第1試合が31.3度で、第2試合が始まる12時には32.4度に上昇した。かつてこの大会は、決勝まで中1日で6連戦を強いる日程を組んでいた。

 その点、現行は全5試合で連戦は2日間まで。5戦をこなす間には2度の休みが設けられたので多少は緩和された。ただし、真夏のピーク時に炎天下での試合が続くので、連戦後の選手たちがげっそりとして、動きにキレを失うケースも少なくない。率直に、いつ健康を害したり、無理をして故障をする選手が生まれたりしても不思議はない。
 
 また、中学生の全国大会の実状も看過し難い。

 昨年の全国中学大会は、四国で8月19日に開幕。頂点に辿り着くには5連戦の強行日程で、10時キックオフの決勝戦は35度の猛暑に見舞われた。一方で同じUー15のクラブチームの日本一を決める大会も、2011年から帯広開催に移行しているが、酷暑は北海道も例外ではない。昨年の決勝戦は11時開始で35.4度を記録している。

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 ちなみにワールドカップで炎天下での試合が続き、最も不評を買ったのが、1994年米国大会だった。欧州の放送時間を優先して現地では日中開催になったため、ダラスでグループリーグを戦ったドイツの選手たちなどはダウン寸前。自分の横を通過するボールに足を出すのも辛そうな選手が目立った。
 
 サッカー界は欧州を軸に回っている。だから必然的に、欧州シーズンの気候に合わせて戦術も練られトレンドも生まれていく。逆に高温多湿状況が3か月以上も続くJリーグが、トレンドから乖離していくのも当然だ。

 今まで日本は技術では劣らないというのが定説だったわけだが、来日した欧州のクラブと比べてしまうと、厳しいプレスを回避してボールを繋ぐ技術は明らかに見劣りした。結局酷暑の中では、プレスの強度にも限界があるので、ビルドアップの対応力も比例してしまうわけだ。

 それでも国内でJリーグは真っ先に秋春制に踏み切り、辛うじてプロ選手だけが最も暑い時期にオフを確保した。しかし本来、最優先で環境整備に着手するべきなのは、大人よりも育成年代である。夏に大会を詰め込めば、部活もクラブもそこに合わせてトレーニングを組み込む。つまり世界中がバカンスに入る過酷な夏に、日本の子どもたちだけは炎天下で身体を擦り減らし続ける。その結果、「夏休みを取る選手と取らない選手では、身体の成長度合いがまるで違う」という声も出ている。
 
 パリ五輪で日本の選手たちからは「厳しい練習に耐えてきた自分を信じて」という言葉が溢れた。確かにそれが不可欠の競技もあるだろう。だがそもそも子どもたちは、なぜサッカーを選ぶのだろうか。楽しくて気がつけばつい限界を超えて走ってしまう。そんな麻薬的な吸引力こそがサッカーの魅力だ。
 
 もちろん、いつかプロなどハイレベルに到達すれば、楽しいだけでは乗り越えられない壁にもぶつかるかもしれない。しかし育成段階の選手たちにとって「過酷な鍛錬」や「理不尽との葛藤」が、「夢中」に勝ることはない。夢中になれる選手たちこそが、創意工夫を凝らし自ら羽ばたいていく。そしてオンシーズンに再び夢中を取り戻すには、夏に心身をリフレッシュさせることが重要なカギになる。
 
 温暖化は加速している。一方で中学高校年代には既に、高円宮杯という全国大会が用意されている。そろそろ大人たちには、日本のサッカー少年に夏休みを返してあげる英断を下すべき時が来ている。

文●加部究(スポーツライター)

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