「活動自体が犯罪」「こんな娘に育って親がかわいそう」SNSで強烈なバッシングを受けながらも、医大生が実名顔出しでHPVワクチンの情報発信をする理由

子宮頸がんを予防するHPVワクチン接種について、仲間と啓発活動を続けている医大生の中島花音さん。医学を学ぶまで、HPVワクチンについて何も知らなかったことに衝撃を受けたという。以来、同世代の仲間と学生団体Vcanを立ち上げ、SNSでの情報発信や、中高生やその保護者を対象にした出張授業を行なっている。実名を出し啓発に取り組む中で心ない言葉を投げかけられたことも。中島さんに、活動の原点となった出来事や活動に込める想いについて聞いた。

「がんは自分には関係ない病気」と接種を先延ばしにしてしまった

産婦人科医を志し、関西の大学の医学部に通う“医学生カノン”こと中島花音さん。現在は5年生になり、病院実習で忙しい日々を送っている。

「実習では子宮頸がんの末期という30歳の女性の例を目にしました。また昨年は、大学の先輩にあたる女性医師が子宮頸がんで闘病の末に亡くなったのです。お二人とも幼いお子さんがいる母親です。今は予防のためのワクチンがある、ということを広く伝えなければと思います」

3年前から中島さんが力を入れているのが、接種当事者である若者に向けたHPVワクチンの啓発活動だ。きっかけは、彼女の原体験にあった。

実は中島さん自身が、子宮頸がんを予防するHPVワクチンの「キャッチアップ世代(※1)」にあたる。定期接種の対象年齢である小学6年生から高校1年生のときに、国による積極的な呼びかけが控えられ、子宮頸がんを予防するHPVワクチン接種を逃した世代のことだ。
現在、期限付きで無料接種の対象となっている。
姉は中学1年生で接種していたが、中島さんが対象年齢になったときにはちょうど副反応の報道があり、自治体からの接種のお知らせがこなくなっていた。

その後、HPVワクチン接種による有効性(HPV感染を防ぐこと)が副反応のリスクを明らかに上回ることが認められたため、令和4年4月から積極的勧奨が再開された。

「当時の私は、がんは自分とは関係ない病気だと思っていて自分の健康にも今ほど関心がありませんでした。母は副反応のことを心配していたようですが、結局、我が家では親子でじっくり話し合うことがないまま、接種を控えることにしました」

しかし、中島さんが大学生になるとき、先に医大生になっていた姉からあるエピソードを知らされる。
「産婦人科の医師は『自分の子どもには絶対HPVワクチンを打たせる』と言っている先生ばかりだよと言うんです。それに衝撃を受け、それ以来自分でも調べるようになりました」

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 性に奔放な人が子宮頸がんになるという誤解

医学を学んで初めて知ったHPVワクチンのこと。リスクもベネフィットも学び、HPVワクチンと検診で子宮頸がんが防げるというデータが国内外から集まっていることも知った。「あのとき知識があったら接種していたかも…」という思いで打とうと決め、5万円の費用を出して接種した。

同時に「自分の命を守る大切な情報なのに、誰も教えてくれなかったのはなぜ?」という疑問が湧いた。

「私は姉や大学から情報を得られましたが、同世代の友人はどうなるんだろう、と。これから結婚したり、キャリアに邁進したり、さまざまなライフプランがある中で、5年後10年後に、知らなかったせいで子宮頸がんになってしまったら…と想像すると、放っておけないと思ったのです」

中島さんにはもう1つ、忘れられないエピソードがある。ワクチンを接種すると告げたとき、母から『子宮頸がんになるのは性に奔放な人だから、あなたにはそういう子になってほしくない、そうなるつもりはないでしょう?』と言われたことだ。
当時、なんとなくモヤモヤした気持ちを持ちながらも反論できなかった。「自分にも誤解していた部分があったから」と中島さんは言う。

子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)は、性交渉で男性にも女性にも感染するウイルスだ。「性交渉の回数が多い人が感染するというのは誤解で、一度でも性交渉があれば感染することはあり得ます。ワクチンを接種するのに、性に奔放かどうかは関係ありません。それにそもそも性に奔放かそうでないか、家族に伝える必要もないことですよね」

当事者なのに正しい情報を知らず、デマに惑わされてしまう状況こそが問題――。大学には、同じ課題感を持つ仲間がいた。最初は周りの人を助けたいという気持ちだったが、しだいにやるなら全国へ広げたいという想いが強くなった。
「知らないまま、後悔してほしくない」「これは自分たちの課題。当事者だからこそ伝えられることがある」という想いが、学生団体Vcanの設立につながった。