「活動自体が犯罪」「こんな娘に育って親がかわいそう」SNSで強烈なバッシングを受けながらも、医大生が実名顔出しでHPVワクチンの情報発信をする理由

誤解やデマで大事なことを決めてほしくない

女子・男子学生が半々というメンバー構成でスタートしたVcan。団体名 には「preVentable CANcer:予防できるがん」という意味が込められている。

活動の主軸は、まず若者へSNSやオンラインセミナーなどで子宮頸がんとHPVワクチンの正しい情報を伝えること。もう一つは「Vcan全国中高ツアー」と題した出張授業。中高生を対象に子宮頸がん・HPVワクチンをテーマにした講義やワークショップを行なっている。

「先生でもなくお医者さんでもない、ちょっと年上のお兄さん、お姉さんという立場で、親しみやすい授業を目指しています。HPVワクチンの名前すら聞いたことのない子も半分ぐらいはいるので、いい意味で先入観なく話を聞いてもらえますね」

Vcanはこれまでにのべ2000人の中高生と800人の専門学校生・大学生に出張授業を行なってきた。それにSNSのアクセス数も合わせると、およそ38万人に情報を届けてきたことになる。

今年の1月には、山形県南陽市で市内3つの中学校と1つの高校で授業を行なった。すると直後の1月〜4月のHPVワクチンの接種者数が、前年同月比のおよそ3倍になったと報告を受けた。

Vcanが目指すのは、若者自身が医学的に正しい情報を得た上で、自分の健康について意思決定ができる社会だ。

「大事なことを決めるのに、子どもたちが出会う情報が誤解やデマであってはいけない。私は知りたかったし、自分で決めたかった」

自分が経験したからこそ、中島さんには「よくわからないからとか周りに流されて、接種の機会を逃してほしくない」という強い思いがある。

ワクチンを勧めるのではなく、あくまでも知る機会を提供することにこだわるのはなぜか、と聞くと、中島さんは次のように語った。

「ワクチン接種後の体調不良は不安材料の1つだと思いますが、その要因の一つに、なんだかわからないまま痛い注射を無理やり打たれたという経験をすると、その痛みが契機となって体調不良が起こることがあげられているんです。
一方、HPVワクチンの積極的勧奨が控えられていた時期に自分で費用を出してでも9価ワクチン(※2)を接種した人たちがいました。その人たちの中で体調不良者はゼロだったという報告が出ているのです」

つまり正しい情報を得て、病気の予防手段を取りたいと本人が望んでいるかどうかが重要なのだ。「まず知る、自分で考えて決める、その後に親と話し合うというフローがすごく大事なのです。そしてどんな選択をしても本人の意思が尊重されるようになってほしいですね」

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「活動自体が犯罪だ」SNSで受けた強烈なバッシング

精力的に活動を続けている中島さんだが、中にはワクチンに関して否定的な人もいる。昨年はSNSで初めて強烈なバッシングを受けた。

「Xに、“将来の夢は子宮頸がんを撲滅することです”と投稿したら『活動自体が犯罪だ』とか『責任を取れるのか』『こんな娘に育って親がかわいそう』といったDMが次々届いたのです。親の育て方まで批判されるのはショックで傷つきました」

立ち直れたのは、仲間の支えがあったから。

「先輩から『傷ついたことはあなたの財産だよ。その繊細さは人に寄り添うことができる強みだと思うから、その繊細さを忘れずに活動してほしい』と言われて、すごく腑に落ちたんです。こんなに弱くていいのかなと自信を失いかけていたのに、それをポジティブに捉えてみることもできるのだと。前向きになれました」

Vcanの活動が知られるようになり、同じ医大生から相談されることも増えている。

「中学の同級生からHPVワクチンを接種したいと相談を受けた、どう返答していいか迷うので教えてほしいと。そもそも打つべきなの、とか、3種類あるワクチンのどれがオススメなの、とか、接種後の副反応について聞かれることも多いです。医学生でも答えに慎重になるのだから、一般の方への情報はまだまだ不足していると痛感します」と中島さんはいう。

キャッチアップ世代や保護者世代は、過去の報道などから病院や関係機関をたらい回しにされるんじゃないかという不安を抱く人も少なくない。
「ちゃんと話を聞いてくれる医療機関はあるのか」「安心感があれば接種するのに」という声も届くという。

「1つ言えるのは、ワクチンを取り巻く環境は以前よりずっとよくなってきているということです。接種後の体調不良(ワクチンとの因果関係の有無によらず)が起きたときに、医師がどう対応すべきかに関して診療の手引き(※3)があり研修会も行われています。

また、各都道府県ごとに接種後の体調不良を専門で診る医療機関がリストアップされており、かかりつけ医で対応が困難な場合には専門的な医療機関へ相談・紹介してもらえます。こうした最新の情報は安心材料の1つになるはずです」