金星の素顔は?

地球から望遠鏡で金星を見てもその地表の様子をうかがい知ることはできません。厚い雲のベールで覆われているからです。

そのため金星の地表を観測する際にはレーダー観測が威力を発揮します。

レーダーとは、電波を用いて目標を探知し距離を測定する技術のことです。電波は可視光線に比べると格段に波長が長く、雲に反射されたり吸収されたりすることがなく透過できるため、金星の軌道上から地表の様子を見ることができるのです。

1990年代に行われたマゼラン探査機の地形走査レーダーやレーダー高度計によって、金星表面の地形がいくぶん明らかになりました。

溶岩に覆われた大地

厚い雲に阻まれて見ることができなかった女神の素顔は、多くの火山や噴き出た溶岩に覆われた灼熱の世界でした。


Credit:NASA/JPL

金星表面の地形を分類すると、平原が60%、高地が24%、山脈と火山が16%です。平原は凹凸が少なく高低差1000m以下です。

なめらかな平原はレーダーを散乱しにくいので画像には暗くうつります。レーダー画像の解析によると平原のほとんどが溶岩流で覆われていることが分かりました。これは大規模なマグマの活動があったことを示しています。

高地とは、金星の平均半径に対して数千mの高さに盛り上がった台地のことです。ただそれは地球の台地と異なり非常に巨大で、それぞれオーストラリア大陸ぐらいの大きさがあります。

山脈と火山は、地球と比べて大きさ、標高共に大型のものが多くなっています。これは金星には地球のようなプレートテクトニクスが存在しないことと関係があると考えられます。上の画像は金星のグラ山の画像です。グラ山は高さ約3000mの火山です。

地球では地核上部は多くのプレートに分かれており、このプレートが互いに動くことで大陸移動が起こります。これがプレートテクトニクスです。一方、金星の地核は動かない1つのプレートに覆われていると考えられています。

火山を形成する原因となるのは、プリュームと呼ばれるマントルの対流によるマグマの上昇流です。

プレートの動きがある地球では、プリュームに対してプレートが少しずつ動いています。そのため、プレートの動きに沿って、いくつもの小型の火山ができます。例えば太平洋プレートに乗っているハワイ火山(ハワイ諸島)は多くの小さな火山に分かれています。

それに対して、金星ではプレートの動きがなくマグマの供給は一か所に集中するので、一個の大型の火山が形成されやすいと推測されます。

パンケーキドーム


Venus pancake / Credit:NASA/JPL

金星には、上で述べた大型火山以外にも特徴的な地形が見られます。例えばパンケーキドームやコロナといった円形の火山地形が見つかっています。

パンケーキドームは、上の画像のように円形のドーム状に盛り上がった地形です。地球の楯状火山に似ていますが、その10倍から100倍の大きさがあります。高さは1km以下で、山頂部が広く平らになっているのが特徴です。粘性の高い溶岩がマントルから押し上げられてできたと考えられています。

コロナはリング状に連なった山脈で、主に平原に存在しています。コロナは他の惑星には見当たらない金星特有の地形で、半径100~1000kmの地殻の盛り上がりとそのすぐ外側にある円環状の溝によって特徴づけられます。

コロナは通常の火山と同じようにプリュームのマグマが地殻を突き抜けて噴き出したものと考えられていますが、その形成プロセスの詳細はよくわかっていません。

金星に引っ越したら

金星は地球のご近所の惑星ですが、実際に行ってみたらどうなるでしょうか? 金星に人は住めるでしょうか?

金星の地表面は約460℃、気圧は約90気圧、さらに大気は硫酸という地獄のような世界なので、とても人間が生存できる環境ではありません。

金星に着陸するのはとても大変です。金星の軌道は火星よりも地球に近いですが、長い間地表の調査は行われませんでした。それは金星の環境があまりにも過酷だったからです。

ソビエト連邦の金星探査計画において、ベネラ5号とベネラ6号は大気圏観測用の探査機として金星に降下しましたが、地表に到達する前に大気圧によって破壊されました。5号と6号は破壊されるまでの間、それぞれ53分と51分の間データを送信し続けました。

その後、1981年に金星に着陸したベネラ13号は、金星の地表で127分間活動をつづけました。これが金星表面での探査活動の最長記録です。このことから金星がどれだけ過酷な環境かということが分かるかと思います。

そんな金星でも、地表から高度50kmの雲の中なら住める可能性があります。そこでの気圧は地球の地表と同じちょうど1気圧。気温も30℃から50℃となっているので生命にとって快適です。

実際に、NASAは高高度金星運用コンセプト( HAVOC ) として金星への有人探査計画を発表しています。この計画では、最初にロボットを乗せた飛行船による探査の後、宇宙飛行士が飛行船に入り30日間試験的に生活を行ってデータを集めます。最終的には金星の上空に多数の宇宙ステーションを浮かべて本格的な移住を行うというものです。

ただし、この計画にはいくつかの課題があります。

まず、人間が生存するのに必要な酸素が金星にはほとんどありません。また、金星の雲の中では硫酸の雨が降っています。硫酸に触れると皮膚が侵されるので非常に危険です。

これらの課題については、以下の方法で対応可能です。

酸素については、酸素ボンベを用意することで解決できます。また、宇宙ステーションの中で植物を栽培することで作り出せるようになるかもしれません。硫酸雨に対しては、耐酸性の宇宙服で対抗できます。

地球から見るととても美しく輝いている金星ですが、その厚い雲の下はすさまじい世界のようです。

それでも人類は金星の謎の解明のために探査を続けるでしょう。将来的には金星の有人探査も可能になっているかもしれません。金星に人類が移住するのは高いハードルがあると思いますが、50km上空の空中都市というのはなんとも魅力的ですね。

参考文献

惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496

惑星科学入門
https://www.amazon.co.jp/dp/406159222X

シリーズ現代の天文学[第2版] 太陽系と惑星
https://www.amazon.co.jp/dp/B09FSPG3BY

ライター

浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。