Credit: en.wiktionary

紙で指をスパッと切ってしまった経験は誰にもあると思います。

その切り傷はジンジンとした嫌な痛みが長く続くので、なんとか避けたいケガの一つでもあります。

最近、そのヒントととなる研究報告がなされたようです。

デンマーク工科大学(DTU)はこのほど、最も指を切りやすい紙の厚さを調査した結果、厚さ65μm(0.065mm)の紙が最も指を切りやすいことを発見しました。

また指を切りやすくする紙の角度も明らかになっています。

研究の詳細は2024年6月19日付で科学雑誌『Physical Review E』に掲載されました。

目次

なぜ紙で指を切ると痛いのか?最も指を切りやすい「紙の厚さ」は?

なぜ紙で指を切ると痛いのか?

紙で指を切るとかなり強い痛みが続くことは、誰もがうなずくところでしょう。

ほんの小さな切り傷がなぜこんなにも痛いのか、疑問に感じるかもしれません。

これにはれっきとした科学的な理由があります。

まず「指」という箇所はスマホをいじったり、パソコンのキーボードを叩いたり、料理をしたりと、日常の中で最もよく使っている場所です。

このように普段よく使う部位というのは、例えばお尻や背中といった部位よりも常に意識が向けられる場所であります。

意識が向けられると切り傷の痛みも気にかかりやすいので、痛みも感じやすくなるのです。


指先には細かな神経が詰まっている / Credit: en.wikipedia

加えて、指先はそもそも細かな神経が密に詰まった場所でもあるので、痛みを感じやすくなっています。

指の最も外側を覆う表皮には、物の質感や圧力、温度などを敏感に感じ分けるための知覚センサー(神経の束)があります。

これが紙で傷付けられることで、痛みが神経を通して脳に伝えられます。

それから「紙」の材質にも原因があります。

ナイフやハサミのような刃物であれば、断面が滑らかなため、切り口が比較的綺麗に切れます。

しかし紙の断面は刃物に比べてギザギザしているため、切り口が粗くなり、余計に痛みが強く現れやすいのです。

さらに紙には目に見えないレベルの小さな化学物質を傷口の中に残すことがあります。

それらが表皮の奥の真皮層を刺激して、痛みを強くすることがあるのです。

研究チームは今回、このような指の切り傷を引き起こしやすい「紙の厚さ」を調べてみました。

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最も指を切りやすい「紙の厚さ」は?

この研究では、本や雑誌のページ、オフィス用紙、ティッシュペーパー、名刺、写真プリントなど、様々な種類と厚みの紙を対象としました。

実験方法としては、人間の皮膚を正確に模倣できるゼラチンを使った「人工指」を作製。

そこに小型ロボットを用いて、あらゆる角度で紙媒体に切り傷をつけるよう押し当てます。

そして一連の実験の結果、最も指を切りやすい紙の厚さは65μm(0.065mm)であることが判明しました。

この厚みが皮膚を切りやすい理由はその物理的な特性にあります。

65μm(0.065mm)の厚みの紙は皮膚に接触したときに、ぐにゃりと曲がってしまうほど薄くはなく、それでいて圧力が紙全体に分散されてしまうほど厚くもありません。

このバランスが紙の切れ味を最大化させていると考えられるのです。


厚み65μmの紙が最も危険? / Credit: canva

また紙の切れ味には角度も重要であることがわかりました。

実験によると、最も指を切りやすくする紙の角度は人工指の皮膚面に対して15度で当たった場合でした。

研究者の説明によりますと、紙が15度の角度で皮膚に接触すると、適度な厚さ(65μm)であれば、曲がりが最小限に抑えられ、皮膚を切る力が効率的に集中するといいます。

そして紙を曲げずに切れ味を最大化することができたのです。

結論としてまとめると、最も指を切りやすいのは65μm(0.065mm)の厚みの紙が15度で当たったときと考えられます。

紙の厚みは同じ物でもメーカーや製品によって少し違いますが、一般的には、新聞紙が約50µm、トレーシングペーパーが約50〜60µm、雑誌のページが約70〜90µm、コピー用紙が約70〜100µmなので、この辺りの紙は皮膚に対して切れ味が高い可能性があります。

反対に、パラフィン紙(約30〜40µm)や写真用紙(約200〜250µm)などは薄すぎたり厚すぎるので、指に対する切れ味は低いでしょう。

紙でナイフを作ってみた

チームは今回の研究結果を応用して、紙を使ったナイフを試作しました。

その名も「ペーパーマチェーテ(Papermachete)」です。

(※ マチェーテとは、中南米の現地人が使う山刀のスペイン語の呼び名です)


マチェーテ / Credit: ja.wikipedia

今回の研究に基づいて65μmの厚さの紙で作られたペーパーマチェーテの刃は、実験してみた結果キュウリやピーマン、リンゴ、鶏肉まで着ることができたといいます。

ペーパーマチェーテは廃紙を利用したリサイクル可能なナイフとして商品化も期待できるかもしれません。

その一方で、包丁やナイフと違って水にとても弱かったそうなので、使い捨て用ナイフとして商品化するか、刃に防水機能を持たせる必要がありそうです。

参考文献

Scientists uncover the physics behind paper cuts. Here are the types of paper most likely to cut you
https://www.zmescience.com/science/news-science/scientists-uncover-the-physics-behind-paper-cuts-here-are-the-types-of-paper-most-likely-to-cut-you/

Paper cut physics pinpoints the most hazardous types of paper
https://www.sciencenews.org/article/paper-cut-physics?

元論文

Competition between slicing and buckling underlies the erratic nature of paper cuts
https://journals.aps.org/pre/accepted/aa072Kc5A071ae0708c39799a466b7d26e3ac2a0e

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部