走り高跳び決勝当日に腎臓の疝痛発作と吐血…それでも強行出場した伊タンベリは11位「出場自体が奇跡。彼の涙は我々の心を打つ」と伊紙感涙【パリ五輪コラム】

 男子走り高跳び決勝当日(8月10日)の朝、腎臓の疝痛発作に襲われて出場が危ぶまれたのが、東京五輪金メダリストのジャンマルコ・タンベリだ。病院で処置を受けて19時からの競技に強行出場したタンベリは、本調子とは程遠いパフォーマンスで11位に終わった。

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 試合当日の朝10時に自身のインスタグラムで発作を公表した後も症状は収まらず、15時には、新たなポストを通じて、二度吐血して救急車で緊急搬送されたことを伝え、「10時間経ったが痛みはまだ収まらない。しかしこの痛みは今心の中で感じているそれとは比較にもならない。今日のためにあらゆることを夢見てきた。こんな悪夢を生きることを除いては……」と真情を吐露した。
 
 しかしその2時間後には、競技会場のスタッド・ド・フランスに向かうシャトルバス内でのジャージ姿の自撮りに「I will be there」というコメントを添えたポストを更新し、強行出場することを明らかにした。
 
 イタリア陸上競技連盟も「本日午後にパリの病院で検査した結果、決勝への出場を絶対的に妨げる要因は見当たらないことが確認された」というニュースリリースを発表している。

 しかし19時からスタートした決勝本番でのパフォーマンスは、予想された通りタンベリ本来のそれにはまったく及ばないものだった。最初の試技でスタートラインにあたる2.17メートルはクリアしたものの、次の2.22メートルは3度目でクリアするのが精一杯。続く2.27メートルを3回とも失敗し、12人中11位という成績で競技を終えて涙を流した。
 
 決勝では、最終的にニュージーランドのハミシュ・カーが2.36メートルをクリアして優勝し、タンベリのチームメイトであるステーファノ・ソッティーレが2.34メートルで4位、日本の赤松諒一が2.31メートルで5位に入っている。
  競技終了後、イタリア国営放送『RAI』のインタビューに応えたタンベリは、4分以上にわたって率直に心境を語った。
 
「死にたいくらい残念だ。きょう起こったことすべてを踏まえても、何とかなると思っていたから。いまはとにかく心を落ち着けたい。こんなことは到底受け容れられないから。率直に言って、ぼくがこんな目に遭う理由はどこにもない。日曜に起こった最初の発作も、今日の再発も……」

「僕はスポーツに全てを捧げてきた。過去の栄光に満足したことは一度もない。今日も持てる力をすべて出し切った。この結果を受け容れたくはない。これは僕にとって最後の試合だと感じてきた。人生のすべてを賭けて戦うべき試合だ。そのためにジャンプ以外のすべてを遠ざけ、これだけに100パーセント集中してきた。いま振り返ればそれは間違いだったのかもしれない。その結果が今日のこれだというのなら、犠牲にしてきたものはあまりにも大きいから。3年前にぼくたちが持とうと思った家庭も含めて……」

「きょうはイタリアの人々からの大きな愛情と励ましを受け取って試合に臨み、持てる全てを出し切ったけど、及ばなかった。応援には心から感謝している。それに応えられなくて本当に残念だ」

 イタリア最大のスポーツ紙『Gazzetta dello Sport』は、毎日出しているオリンピックの採点で、「舞い上がることはできなかったが、直前の24時間に起こったことを考えればフィールドに立ったこと自体が奇跡。彼の涙は我々の心を打つ」というコメントとともに、10点満点の9点をつけている。

文●片野道郎

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