火星の大接近
大接近とはいっても、火星が地球に衝突するほど近づくわけではありません。火星が地球に接近するというのは、具体的にどういう現象なのでしょうか?
太陽系の惑星は、それぞれ違う軌道や周期で太陽の周りを公転しています。このため、地球や火星などの位置関係は絶えず変化しています。
火星は地球よりも外側の軌道を公転していて、その公転周期は687日、地球の公転周期は365日です。地球が火星よりも公転速度が速いため、約780日(約2年2ヶ月)ごとに地球は火星に追いつき、追い越します。この時、火星と地球の距離が最も近くなります。この現象を「最接近」と呼びます。
2016年から2035年までの火星最接近 / Credit:国立天文台
しかし、火星の最接近は、いつも同じ距離で起こるわけではありません。地球の軌道は円に近い形をしていますが、火星の軌道は楕円形です。
そのため、地球と火星の軌道の幅は一定ではありません。また、火星の最接近の周期は2年ちょうどではなく、約2年2ヶ月です。このため、最接近のときの地球と火星の位置は毎回ずれていきます。そして、最接近の距離も毎回異なるのです。
地球と火星の軌道が最も近い最接近のこと「大接近」といいます。一方、地球と火星の軌道が最も遠く離れている状態の最接近のことを「小接近」といいます。
大接近のときの地球と火星の距離は約5600万km、小接近のときは約1億kmとおおよそ2倍の差があります。
火星最接近のときは、地球から火星が普段より明るく大きく観測できるため、ニュースなどでもよく話題にされます。
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火星に住んでみる
火星は荒涼とした大地が広がる星です。水はなく、大気も薄いため、人間の住める場所とは程遠い環境です。ただし、最近の調査では、水の流れた跡や水によって形成された物質が発見され、大昔には水が存在した可能性が示唆されています。さらに、現在では地下に氷として水が残っている可能性も浮上しています。
人類は文明を発展させていく過程で、周囲の環境を自らの生存に有利なように作り変えてきました。例えば、森林を伐採して農地を拡大したり、沼地や浅瀬を埋め立てて都市を建設したりしてきました。これを惑星全体のスケールで行うのが「テラフォーミング」です。
「テラフォーミング」とは、一般に、生命が存在しない惑星を地球のように人類が居住可能な環境に変えることです。現在の段階では、太陽系内で最も地球に似た条件を持つ惑星である火星が、その可能性が高く、テラフォーミングの第一候補とされています。
火星のテラフォーミングの第一段階は、地球と同じような気温に引き上げることです。
現在の火星の気温は-63℃であり、これを上げる必要があります。そのためには、太陽の光を反射させるために宇宙空間に巨大な鏡を設置するというアイディアや、火星の表面を光を吸収しやすい黒い物質で覆うことで火星を温める方法などが考案されています。
また、火星を暖めることで極冠にあるドライアイス(固体二酸化炭素)が融けて二酸化炭素の大気が生まれるという効果も期待されています。これにより温室効果が生まれ、火星全体が徐々に暖かくなる可能性があります。
次に、人間が呼吸するために酸素が必要です。酸素を生産する手段の一つとして、シアノバクテリアの光合成を利用することが考えられます。シアノバクテリアは地球から火星に持ち込むことになります。
さらに、人が居住するためには水や食糧も欠かせません。人間は水分を摂取しないと3日も生きられません。また、飲料水の他にもコンクリートを使って建物を建設しようとすると大量の水が必要です。
そこで、関心を集めているのが火星の地下に氷の状態で保存されている可能性がある水の存在です。
現地で水が手に入れば、生活用水や産業用水として利用できます。また、食料生産も重要な問題です。現在、火星や宇宙空間での植物栽培に関する研究が進行中であり、火星の土壌に近い環境で農作物を育てる研究をしている研究者もいるようです。
NASAは2030年代に宇宙飛行士を火星に送り込む計画を発表しています。そのためには地球と月の間に宇宙基地を建設し、そこから火星への探査を行う予定です。
Humans to mars / Credit:NASA/The Humans to Mars Summit
このような挑戦的な計画には、いろいろな技術的な課題がありますが、火星への移住は徐々に実現に近づいてきているようです。現在、小学校に通っている子供が成人して社会で活躍するころには月周辺の基地も完成して、「さあ、火星へ出発」という時代が到来しているかもしれません。
参考文献
惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496
惑星科学入門
https://www.amazon.co.jp/dp/406159222X
シリーズ現代の天文学[第2版] 太陽系と惑星
https://www.amazon.co.jp/dp/B09FSPG3BY
ライター
浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。