6月11日。2026年W杯アジア2次予選、日本対シリアの一戦は、広島市内にある「エディオンピースウイング広島」で行われている。
今シーズン、お披露目になったスタジアムは極上のホスピタリティだった。まず、町中に紛れていて交通の便が良い。アクセスのストレスがなく、高揚感が自然と出る。屋根が特徴的で、天守閣のように象徴的な形状も悪くない。
何より、建築構造が出色だった。地震大国だけに基準ギリギリだが、観客席の傾斜を作ることで、どこからもサッカーを親しめた。また、スタジアム内の音が内側で響く作りになっていた。
「拍手や声援が良く聞こえてきました」
選手たちは口をそろえていたが、気分良くプレーできていたのだろう。舞台が整うことで、選手は最大限のパフォーマンスを発揮し、観客は熱狂、スペクタクルも生まれるのだ。
何が良いスタジアムか? その答えは明確である。
〈選手がプレーに集中し、観客が楽しめるか〉
それのみである。
昨今、為政者やゼネコン業者のせいで、その議論がぼやけてしまった。スタジアムという箱そのものに価値を見出そうとすることで、選手やファンは置き去りで、張りぼて化。市内から遠く離れたスタジアムは、それだけで気持ちを萎えさせる。どれだけ立派に見える箱を郊外に立てても、「文化」など生まないだろう。
外側からどう見えるか、それは全く関係ないとは言えない。本来、議論すべきは、その箱の中の選手とファンがどれだけスポーツを楽しめるか。外側は、あくまで副次的なものだ。
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新国立競技場のごたごたは最たるものだろう。
不可能に近いデザインを採用し、バタバタと変更。その後も、外側が木製かどうか、など競技には関係ない。中身だけで言えば、可もなく不可もなし。にもかかわらず、1600億円という総工費をかけ、維持費も年間20~30億円と他のスタジアムの比ではない。旧国立競技場の方がどこからでも競技を見られる構造になっていただけに、(新スタジアム建築の約半額で)改修補強して受け継いだらレガシーになっていたかもしれない。
競技そのものがスペクタクルを、伝説を、物語を作る。
箱を作る人間は、それを決して忘れてはならない。選手がいなければ、競技は始まらないし、それを盛り上げるのはスタジアムに足を運んだファンである。だからこそ、アクセス、見やすさ、気軽さが大事なのだ。
エディオンピースウイング広島、2万7000人近い超満員の観客の熱気は見事だった。試合後は、町中だけに人々は四方八方に捌けていた。帰宅の途につく人々の表情は幸せそうだった。「平和の翼」の名前に値するスタジアムは、総工費約280億円だという。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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