元世界1位の女子プロが「82」を叩き号泣!どん底から復活優勝へと導いたのは…?

2024年パリ五輪で金メダルに輝いたのは、リディア・コーだった。そして、2024年の米LPGA開幕戦「ヒルトングランドバケーションズTOC」を制したのも彼女。

2022年の最終戦に勝利して世界No.1の座に返り咲いた際には、女王として当然の立ち位置のように思えたが、年末には結婚もし、2023年は最高の年を迎えるもとの誰もが思っていたのとは裏腹に、CMEランキング100位と大きく低迷したシーズンとなってしまった。

そんなコーが、開幕戦で早々に優勝する姿を見て、多くの人は安堵したのではないだろうか。

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プロになって以来、試合で80台のスコアを叩いたことはなかった

2023年8月、カナダ・バンクーバーで開かれた「CPKC女子オープン」3日目、リディアは「82」を叩いてしまった。そして、ラウンド後、選手駐車場の端で夫チョン・ジュン氏に抱かれながら、泣いていた。こんなショッキングな現場に遭遇するとこちらも絶望的な気持ちになり、カメラマンとしてはその様子を背後から1枚、シャッターを切るのが精一杯だった。当時のことをリディアはこう振り返った。

「プロになって以来、試合で80台のスコアを叩いたことはなかったんです。何が起こったかもわからず、ただショックで泣いてしまったんです。夫からは、『ゴルフが全てじゃない。いつも完璧じゃなくっていいんだ』と励まされました。すぐには理解できませんでしたが、周りにいるチームのメンバーや家族、そして夫のことを考えているうちに、夫の言葉を消化できるようになりました」

その後、男女ペアで出場する12月の非公式戦「グラント・ソーントン招待」では、ジェイソン・デイと組んで優勝する。ペアでプレーするTVイベントとあって、心からの復活とは言い難かったものの、リディアの心は落ちつきを取り戻し、同時にゴルフの調子も戻ってきた。その結果が先の優勝につながっている。

ところで、優勝トロフィーをもつリディアの左薬指には、大きな石のついた婚約指輪が見える。翌週の練習日にもその指輪をつけてコースに現れたので、思わず尋ねてみた。

Q.通常、女性プロゴルファーはプレー中、婚約指輪は外してプレーすると思うのですが、先週の試合でもつけていたんですか?

「この指輪は、結婚してからもずっとつけていいて、外したことはないんです。いつも夫が一緒にいるような気分になるので」

試合の写真を見返してみると、確かにグローブをした左薬指の甲の部分は、少し盛り上がっている。試合中も外していなかった証拠だ。

また、リディアのウェッジの1本のバックフェースには「MRS CHUNG」と刻まれている。ここにも夫の存在があった。

多くの人からたくさんの慰めの言葉をかけられたはずだが、それをしっかりと納得するには時間とプラスアルファーが必要。そのプラスアルファーとは、まさに夫の存在なのだろうと感じられた取材になった。

フォトグラファー 田辺安啓(通称JJ)
●たなべ・やすひろ/1972年生まれ、福井県出身。ニューヨーク在住。ウェストバージニア大学卒業後、ゴルフコース、テレビ局勤務を経験し、ゴルフを専門とするフォトグラファーに転身。ツアーのみならず、コースやゴルフ業界全般に関わる取材も行なっている。

取材・写真=田辺安啓 
TEXT & PHOTO Yasuhiro JJ TANABE