『となりのトトロ』は、子供たちの明るい生命力と想像力の素晴らしさを謳った名作アニメです。昭和30年代の田園風景が美しく描かれています。2002年には続編となる『めいとこねこバス』も制作されています。しかし、2000年代後半くらいから不思議なうわさが広まっていきました。なぜ『となりのトトロ』は都市伝説化したのかを考察します。
明るいシーンから一変、「暗」のシーンにゾクっとしてしまう (C)1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli
【画像】え…っ? 誰だ君は!? こちらが『トトロ』公開時ポスターの「サツキとメイ混ざった」女の子です
スタジオジブリが否定した「死亡説」
子供の頃に夢中になった人気アニメでも、大人になって見返すと巧妙な演出や設定に、驚くことはありませんか? 以前は気付かなかった奥深いテーマ性に、ぞくっとしてしまうこともあります。
なかでも有名なのが、宮崎駿監督の代表作となっている『となりのトトロ』(1988年)です。森に住む不思議な生き物「トトロ」と、田舎に引っ越してきたサツキとメイの姉妹が交流する物語は、観る者を童心に返らせる魅力があふれています。
たびたびTV放映された『となりのトトロ』が大人気となる一方、「トトロは死神」「メイとサツキは死んでいる」といううわさが広まり、都市伝説となっていきました。2007年5月にはスタジオジブリが公式サイトでうわさを否定するほどの騒ぎになっています。
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池に浮かぶ赤いサンダル
なぜ、このような都市伝説が生まれたのでしょうか? 宮崎監督のオリジナルストーリーである『となりのトトロ』は、子供が持つ明るい生命力と想像力の物語です。父親が「おばけ屋敷」と呼ぶボロボロの洋館に引っ越してきたサツキとメイは、好奇心いっぱいな少女です。そんな姉妹が、トトロやネコバスといった子供の目にしか見えないクリーチャーたちと遭遇する様子が、とてもファンタジックに描かれています。
サツキとメイがトトロにしがみついて夜空を飛翔するシーンは、宮崎アニメらしい躍動感に満ちています。純真な子供たちの想像力が、トトロの不思議な力と一体化して、どこまでも飛んでいけそうです。明るいイマジネーションたっぷりなシーンの後、入院中の母親の体調がすぐれないことを姉妹は知らされます。お母さんが死んじゃったら、どうしよう。そんな不安に姉妹はおびえます。
こうした明と暗の対比が、宮崎監督は見事です。サツキとメイが明るく輝くほど、母親に死の影が伸びている恐怖を感じさせます。また、迷子になったメイを懸命に探す姉のサツキは、池にサンダルが落ちていたと聞いて、「もしかしてメイが……」と戦慄します。池に赤いサンダルが浮かぶカットが一瞬映るだけですが、日常生活に忍び寄る死の影に、誰もがゾッとしたはずです。
宮崎監督が暮らしている所沢市が、物語の舞台となっています。時代設定は昭和30年代前半ですが、それから少し後の1963年(昭和38年)5月に、所沢市に隣接する狭山市では悲しい事件が起きています。16歳の少女が誘拐され、遺体となって発見された「狭山事件」です。事件が起きた1963年は、宮崎監督が東映動画(現:東映アニメーション)に入社した年でもありました。
関係者が次々と亡くなった「狭山事件」が、『となりのトトロ』のモチーフになっているといううわさも、都市伝説の一部としてささやかれています。宮崎監督自身は事件との関連性については何も語っていませんが、サツキとメイの放つ明るさが、悲しい事件の記憶と結びつき、都市伝説化していったようです。
実際に起きた事件を想起させる『ルックバック』 (C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会