『となりのトトロ』は、子供たちの明るい生命力と想像力の素晴らしさを謳った名作アニメです。昭和30年代の田園風景が美しく描かれています。2002年には続編となる『めいとこねこバス』も制作されています。しかし、2000年代後半くらいから不思議なうわさが広まっていきました。なぜ『となりのトトロ』は都市伝説化したのかを考察します。
実在の事件をモチーフにした名作アニメ
実在の事件がモチーフとなっていることで有名なのは、宮沢賢治のファンタジー小説『銀河鉄道の夜』です。杉井ギサブロー監督による劇場アニメ『銀河鉄道の夜』(1985年)は、細野晴臣さんが幻想的な音楽を手掛け、名作アニメとして高い評価を受けています。
宮沢賢治は37歳の若さで亡くなり、その後、1934年に『銀河鉄道の夜』は出版されました。1912年に起きた「タイタニック号沈没事故」や妹・トシの死に宮沢賢治は触発され、『銀河鉄道の夜』を書いたといわれています。ジョバンニとカムパネルラが銀河鉄道に乗って、宇宙を旅するという夢のある物語ですが、生と死が隣り合わせになったせつなさも感じさせます。
宮沢賢治が書き残した『銀河鉄道の夜』は、人気アニメ『銀河鉄道999』など多くの作品に影響を与えています。作家としてはほぼ無名のまま亡くなった宮沢賢治ですが、『銀河鉄道の夜』が不朽の名作になったことで、その名はいつまでも語り継がれるでしょう。
開拓期の北海道を舞台にした『ゴールデンカムイ』も、実在の事件がモチーフのひとつとなっています。日露戦争の帰還兵である杉元佐一は北海道に渡り、アイヌが秘蔵する金塊を探すことになります。その杉元の前に立ちはだかるのが、凶暴なヒグマです。
原作者の野田サトル氏は、『ゴールデンカムイ』を執筆するにあたり、1915年(大正4年)に起きた「三毛別羆事件」について調べています。これは巨大なエゾヒグマが開拓集落にいた妊婦や子供らを襲い、7人の犠牲者を出した日本最悪の獣害事件です。人間の女性の肉の味を覚えたヒグマが、執拗(しつよう)に女性を狙ったという恐ろしさが知られています。
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亡くなった人たちを鎮魂する物語
吾峠呼世晴氏の人気コミックを原作にしたアニメシリーズ『鬼滅の刃』は、「無限城編」が三部作として劇場公開されることが発表されました。炭治郎たちが戦う鬼たちの正体は、さまざまな考察がされています。
もともと鬼は、目に見えないモノ=隠(おん)として表現されてきた歴史があります。自然災害や疫病などは、鬼の仕業だと考えられてきたわけです。
炭治郎たちがいた大正時代の日本を襲ったのが、1918年(大正7年)から1921年(大正10年)にかけて大流行した「スペイン風邪」です。日本だけで39万人もの人が亡くなっています。そんな恐ろしい疫病が、鬼の正体ではないかともいわれています。新型コロナウィルスが猛威をふるうなかで、『鬼滅の刃』が大ヒットしたことは因縁めいたものを感じさせます。
物語には、私たちが娯楽として楽しむだけでなく、亡くなった人たちを弔い、鎮魂するという役割があるとされています。新海誠監督は東日本大震災に触発され、劇場アニメ『君の名は。』(2016年)をつくっています。また、藤本タツキ氏のコミックを原作にした劇場アニメ『ルックバック』が好評公開中ですが、実在の事件を連想させることでも話題となっています。
亡くなった人を現実世界に生き返らせることはできません。ならば、せめて物語というフィクションの世界に、彼ら彼女らが生きて、輝いていた姿を残しておいてあげたい。そして、そんな物語を分かち合うことで、生きている人の心も癒し、元気づけたい。観る人の心に残る人気アニメには、製作者たちのそんな祈りが込められているのかもしれません。