NASAのJuno探査機が撮影した木星の帯とゾーン / credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS
木星は夜空の中でも目立って明るい星です。太陽系最大の惑星だけあって、夜空のなかでも王者の風格を持って輝いています。
天体観測の対象としても木星は人気があり、小さな望遠鏡でもその特徴的な縞模様(しまもよう)や4つのガリレオ衛星を確認することができます。
筆者も初めて望遠鏡で木星を見た時に「ほんとに縞模様になってる!」と喜んだ記憶があります。
この記事では、巨大な惑星がどのようにしてできたのか、木星の縞模様の正体やその内部はどうなっているかなど、木星の謎について解説します。
巨大な木星の謎めいた素顔やその生い立ちに迫ることで、私たちは夜空に輝くこの興味深い惑星をより深く理解できるでしょう。
目次
木星は巨大なガス惑星木星の縞模様の正体は?木星に着陸することは可能なのか?木星の衛星
木星は巨大なガス惑星
木星は太陽系の惑星の中で最大 / Credit:canva
木星は太陽系で最も大きな惑星で、質量も太陽系を構成する惑星の中で最大です。
木星の赤道半径は約7万1000キロメートルで、地球の約11倍です。
地球の直径を1センチメートルの「ビー玉」程度とした場合、木星の直径は11センチメートル、陸上競技で使われる「砲丸」と同じくらいのサイズになります。
質量も地球の約318倍あります。体積では1300倍です。そのため、木星表面の重力は、地球上の重力の約2.5倍になります。
このように巨大な木星ですが、内部の密度はそんなに大きくありません。質量が地球の約318倍に対して体積では1300倍なので、密度は地球の約4分の1です。
木星は主に水素やヘリウムなどのガスで構成されたガス惑星のため、密度が低いのです。
木星の目を引く点は、大きさの他に特徴的な縞模様が挙げられます。
木星を望遠鏡で見ると、うっすらとしたいくつかの縞模様が確認できます。写真に撮影すると赤茶色と白色の縞模様がはっきりと写ります。
また、木星表面には縞模様の他にも渦状の構造があり、目玉のような赤い模様「大赤斑(だいせきはん)」が有名です。
なぜ木星は巨大になったのか?
なぜ木星はこのように巨大な惑星に成長したのでしょうか?
この謎を解くためには、太陽系がどのように形成されてきたかを理解する必要があります。
太陽系形成のプロセスについて、多くの研究者が考えているシナリオは次のようなものです。
まず、ガス雲の特に濃い部分が重力で収縮して原始太陽となります。
そして、原始太陽から遠く離れた場所では、回転運動するガスが中心に向かわずにガス円盤を形成します。
このガス円盤には固体の成分(チリ)も含まれます。このチリが集まってできるのが「微惑星」と呼ばれる岩石の塊です。
木星軌道では、1000万年ほどで地球質量の2倍程の微惑星ができます。微惑星が衝突・合体して惑星の元となる原始惑星ができます。
木星の領域にはガスも豊富にあったので、木星の表面へガスが降着しました。
その後、太陽からの光(紫外線)やガス円盤を貫く磁場の働きによってガスが散らばります。また、木星の重力によって周りのガスが引き寄せられ、勢い余ってはじけ飛ぶこともあります。
要するに、周りに惑星をつくる材料(チリやガス)などがたくさんあったため、木星はここまで大きくなれたということです。また、木星の成長が速かったため、ガスがなくなる前に多くのガスを集めることができたというのも大きな要因です。
もし木星がもっと大きかったら?
太陽も木星も水素とヘリウムでできています。
ということは、木星がもっと多くのガスを集めて大きくなっていたら太陽のように自ら光を放つ恒星になっていたかもしれません。
星の誕生をシミュレーションした結果によると、太陽の8%以上の質量がないと継続的な核融合反応は起きないのです。つまり、太陽質量の8%のガスを集めないと恒星にはなれないということです。
木星の質量は太陽の約0.1%ですから、あと80倍重かったらもう一つの太陽が空に輝いていたかもしれません。
その場合、太陽系は2つの太陽が回る連星系になっていたでしょう。
2つの太陽が回る連星系の惑星の空 / Credit:pxfuel
2つの太陽が回る惑星が舞台のSF作品というと、スター・ウォーズに登場するタトゥーインが有名ですね。
木星がもっと巨大化していた場合、こんな光景が地球の空に広がっていたかもしれません。
(広告の後にも続きます)
木星の縞模様の正体は?
木星を天体望遠鏡で観察すると、その表面に何本も茶褐色の縞模様が平行に並んでいるのが見えます。このような縞模様はどのようにしてできるのでしょうか?
木星はガス惑星なので見えている模様は地表面ではありません。木星の大気の中には、アンモニアの氷や硫化水素アンモニウムでできた雲が浮かんでいます。
この雲によって、太陽の光を強く反射する部分と反射の弱い部分のコントラストができ、それが木星表面の縞模様として見えています。
なお、白っぽい部分は帯、茶色の部分は縞(しま)とよばれています。
木星の自転と大気の流れ
木星の雲の下にある大気循環セル / credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI
木星独特の縞模様は自転速度が速いことに起因しています。
木星の自転周期は10時間で、地球の約11倍という半径からすると非常に速い自転運動になります。
この自転に伴って東西方向に強い風が吹いています。
大気の流れは地域や緯度によって異なり、そのため木星の表面には複雑な風のパターンが見られます。赤道付近では秒速約100mの西風が吹き、中緯度に進むと西風の地帯と東風の地帯が交互に現れます。
なぜ、このように緯度によって風の向きが異なるのでしょうか?
まずは身近な地球の大気循環について調べてみましょう。地球では赤道で温められた空気が上昇し、北半球では北に向かって流れていきます。
ハドレー循環 / Credit:NOAA Climate.gov
しかし、この南から北に向かう空気の流れは地球の自転によるコリオリの力を受けるため、実際には北東へ向かって吹く風になります。コリオリの力とは回転している環境で運動する物体に働く見かけの力(慣性力)です。
コリオリの力 / credit:天文学辞典(日本天文学会)
そして、北に移動した上空の空気は冷やされて緯度30度付近で下降し、地表を再び赤道に向かって流れます。
また、北極では上空の空気が冷やされて下降し、地表を南に向かって流れます。南下した空気は温められて緯度65度付近で上昇気流となり再び北極へ戻っていきます。ここでもコリオリの力が働き、南に向かう風は北東の風(北東から南西へ吹く風)、北に向かう風は南西の風(南西から東北に向かう風)になります。
中緯度地域の上空には偏西風という西から東に向かう風が吹いています。緯度30度付近の下降気流は高気圧を形成し、緯度65度付近の上昇気流は低気圧を形成します。地表では気圧の高い方から低い方に向かって空気が流れます。したがって、地表での空気の流れは低緯度から高緯度へ北上する向きです。上空ではこれとは逆に南に向かう気流ができますが、この気流が大きく東に曲げられることによってできるのが偏西風です。
北半球を例に説明しましたが、南半球でも同様です。
木星の場合は、自転が非常に速いためコリオリの力も地球よりも格段に強く、そのために気流が大きく東西に曲げられて帯状の流れを作っていると考えられます。
これらの風のパターンによって、木星の表面には明瞭な縞模様が現れます。縞の部分は温度が高い傾向があります。一方、帯と呼ばれる白い部分は温度が低い地域です。
木星の雲の色
木星の表面には明瞭な縞模様がありますが、これは木星の大気に浮かぶ雲が縞模様として見えています。
木星の雲は地球のように白だけでなく、茶色や赤褐色の雲があります。なぜこのようにさまざまな色に見えるのでしょうか?木星の雲の色の違いは、雲をつくっている物質と温度に関係しています。
木星の「縞」と呼ばれる褐色の部分は固体の微粒子による色だと考えられています。
木星の大気はほとんどが水素とヘリウムですが、わずかにアンモニア、硫化水素、メタンなどのガスが混じっています。アンモニアと硫化水素の化学反応によって硫化水素アンモニウムができます。これと深部から上がってきたリンや硫黄を含む化合物との光化学反応によってできた固体微粒子が着色物質となっているのではないかといわれています。
縞の間の「帯」と呼ばれる白色の部分はアンモニアの氷でできた雲です。
ここは上昇気流がおこっているところです。上昇気流により上層に押し上げられた大気は膨張して温度が下がります。そのため、木星の大気に含まれるアンモニアが凍結して、アンモニアの氷でできた雲ができます。この雲が太陽の光を反射して白く見えるのです。一方、縞の部分では温度が高いためアンモニアは蒸発して他の物質の色が見えています。
木星の巨大な赤い目 大赤斑
大赤斑 / Credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS
木星表面で最も目立つ渦巻模様は「大赤斑」です。
※「だいせきはん」と読みます。かな漢字変換で時折「大赤飯」と変換されることがありますが、大盛のお赤飯ではありません。
大赤斑の大きさは東西26000km、南北14000kmで地球がすっぽりと入ってしまう大きさです。
大赤斑の正体は巨大な嵐
大赤斑の正体は巨大な嵐の渦です。
地球上で巨大な渦巻きと言えば台風を思い浮かべると思いますが、大赤斑は台風のような低気圧ではなく、高気圧性の渦です。
さらに、台風の暴風域が秒速25m以上なのに対して、大赤斑の風速は秒速150m以上と桁違いです。
また、台風は南から北に移動して最後は温帯低気圧に変わり渦巻ではなくなりますが、大赤斑は東西にのみ移動して渦巻の構造を保ち続けています。
大赤斑と白斑
大赤斑がなぜこのような赤色をしているかは未だに完全な解明はされていません。
赤い色の原因となる物質としては、縞の部分と同様にリン化合物や硫黄化合物などが挙げられています。しかし、最近の実験室での研究では、木星大気中のアンモニアと宇宙空間から降ってくるアセチレンから光化学反応によって生成される物質が原因ではないかといわれています。
木星の表面には、白斑とよばれる白い円形の斑点もあります。白斑も大赤斑と同様に高気圧性の嵐でえす。白斑を調べることで、大赤斑の成り立ちを解明する手掛かりが得られるしれません。なぜなら、実際に白斑が合体して赤斑になるという現象が確認されているからです。
白斑 / Credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Gerald Eichstadt/Sean Doran
1940年代に大赤斑のすぐ南に3つの小さな白い渦が現れました。1998年から2000年にかけて3つの白斑が合体して直径が大赤斑の半分程度の1つの白斑になりました。そして2005年から2006年にかけてだんだん大赤斑に似た色調に変化していきました。これは、下層大気から吹き上がった物質(アンモニアや水蒸気)の影響によるものと考えられています。
2008年には、その近くにさらに新たな赤斑が現れました。下の画像はその時にハッブル望遠鏡によって撮影されたのものです。画像中心のやや右にあるのが大赤斑、大赤斑と同じ緯度にあるのが新たに表れた赤斑です。3つの白斑が合体してできた赤斑はその下にあります。
Jupiter’s Three Red Spots / Credit:NASA, ESA, M. Wong, I. de Pater (UC Berkeley), et al.