木星に着陸することは可能なのか?
TVアニメ「銀河鉄道999」では火星の次の停車駅はタイタン(土星の衛星)になっています。なぜ木星には銀河鉄道が停車しないのでしょうか?
それは、木星はガス惑星のため着陸できるような固い地面がないからです。固い地盤がないため、駅や線路を建設することもできません。
それでは、木星がガスでできているならその中を通り抜けることはできるのでしょうか?
木星の中にダイブするとどうなる?
木星の内部モデル / credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI/John E. Connerney
木星には明確な地面がありません。このような明確な地面を持たないガス惑星について天文学の慣習では、圧力が1気圧になる面を「表面」と定義する場合があります。
木星の場合も、どこをこの惑星の表面と見なすかは難しい問題となっていますが、1気圧になるポイントや視覚的に惑星の構成成分が確認できる雲の上層部分を表面と捉えるのが普通です。
ではこの木星の表面よりも深く入り込んでいくとどうなるのでしょう?
木星のガスの中を降りていくと圧力が急速に増加します。
表面から100km進むと水素はその圧力のため気体から液体に状態が変化します。
液体水素の層をさらに2万km下降すると圧力は300万気圧となり、水素の状態が液体金属になります。
水素は通常の状態では、2つの水素原子が共有結合という方法で結合して水素分子を作っています。共通結合とは原子同士が最外殻の電子を共有することで形成される結合です。これは2つの原子の電子軌道が重なり合っている状態です。
水素の共有結合 / Credit:illustAC
しかし、300万気圧という超高圧下では分子や原子がたがいに圧迫され、距離が縮小します。すると分子間で電子の軌道が重なり、電子は簡単に隣の分子に移動しやすくなります。元の原子から離れて自由に動き回る電子によって結びついている結合は金属結合といい、金属結合で結びついた物質は導電性が高いなど金属としての性質を示します。
そのため、木星内部の超高圧下では水素が金属化すると考えられています。そして、木星の自転運動が発電機の働きをするため木星内部の金属水素に電流が流れ、これが木星の強力な磁場を作り出していると考えられています。
金属結合 / Credit:illustAC
さらに深く表面から6万kmも深い場所に到達すると岩石状の中心核があります。やっと固体にたどり着くので、じゃあここが表面でも良いんじゃないと思う人もいるかも知れませんが、これは地球で言うところのコアに当たる場所です。
そのためここを地表と考えるのは難しいでしょう。
ここでは圧力は3600万気圧、温度は約2万度です。地球の中心は360万気圧、温度は5000度で超高圧・超高温ですが、木星の中心部はそれに輪をかけて極限的な環境です。
そのため固体の地面を持たないガス惑星と言えど、簡単に深く潜り込んでいけるかというと決してそんなことはないのです。それは地球の地面を掘り進んでいくよりも困難な行為と言えるでしょう。
木星でもオーロラが見える?
木星と地球のオーロラ / credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI/John E. Connerney
地球では北極や南極の近くでオーロラを見ることができます。カナダや北欧のオーロラ観賞ツアーは非常に人気がありますね。
驚くべきことに、木星でもオーロラ現象が観測されています。
地球からは木星の昼間の面しか見ることができないため、木星のオーロラを地上から観察することはできませんが、パイオニア、ボイジャー、ジュノなどの探査機によって木星のオーロラが確認されています。画像はジュノ探査機によって撮影された木星の紫外線オーロラを地球の紫外線オーロラと比較したものです。紫外線は目に見えませんが上の画像では紫外線の強さを色の違いで表しています。
オーロラは、大気と磁場のある惑星で発生します。太陽から放射される荷電粒子(電気を帯びた粒子)が惑星の大気と衝突することで発生するオーロラ現象は、木星でも同様のメカニズムで起こります。
木星の磁場は「磁気双極子モーメント」という量で表すと地球の2万倍の強さがあります。また、木星は大きな磁気圏を持ちます。その大きさは地球磁気圏の100倍以上です。
この強力な磁場は中心部の金属水素を流れる電流により発生していると考えられています。
この強力な磁場のため、木星のオーロラの明るさは地球の100倍、広さも地球の数倍あると言われています。
地球でよく見えるのは緑色のオーロラのですが、木星ではピンク色のオーロラが見えると考えられています。オーロラの色は発光する原子の種類によって異なり、地球では酸素が発光するため緑色に見え、木星では水素の発光でピンク色に見えます。
太陽から放射された荷電粒子が水素原子に衝突すると、衝突のエネルギーによって水素原子の中の電子はより外側の軌道に移動します。そして再び内側の軌道に戻る時にその軌道のエネルギーの落差に応じた波長の光を放射します。
水素原子から放射される光で目に見えるのは赤、青、紫の波長の色です。宇宙空間の水素ガスが発する光は、これらの異なる波長がまじりあった色になります。多くの場合、エネルギーの低い赤色の光量が多いのでピンク色に見えます。例えばオリオン大星雲は水素ガスが発光している星雲で赤みがかった色をしています。木星のオーロラも同じような色合いに見えると考えられます。
将来の木星のオーロラ観賞ツアーでは、水素原子の発光によるピンク色の壮大なオーロラを見ることができるでしょう。
木星のリング
リングを持つ惑星と言えば土星が有名ですが、木星にもリングがあります。「木星型惑星」と言われる木星、土星、天王星、海王星はすべて周囲にリングを持っています。
望遠鏡で見ても木星にはリングは見えません。これは、木星のリングがとても薄いからです。土星のリングは大きな氷や岩石でできているのに対し、木星のリングは小さな塵からつくられているので暗くて地球上の望遠鏡ではほとんど観測できないのです。
実際に、木星のリングはボイジャー1号により発見されるまで、観測されることはありませんでした。ボイジャー1号の観測により木星のリングを構成している塵の成分はケイ酸塩鉱物や炭素質化合物であることが分かりました。
リングの材料となるチリは付近を公転する小さな衛星から供給されています。
小惑星や隕石(いんせき)が木星の衛星に衝突したときに巻き上げられた塵の粒子が木星のリングの起源と考えられています。一方土星のリングは小惑星や彗星程度の大きさの天体が土星に接近した際にその重力で引き裂かれてできたものとされています。
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木星の衛星
木星はその強大な重力のため、非常に多くの衛星を従えています。さしずめ、多くの子分を従えた大親分といったところでしょうか?
2023年2月の時点で確認されていた木星の数は92個でしたが、2024年1月現在、国立天文台のWebサイトによると、木星の衛星の総数は95個に増えています。また、今後も増える可能性があります。
数ある衛星の中でも、1610年にガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの4つの衛星は、「ガリレオ衛星」としてよく知られています。
イオ
木星の衛星-イオ / credit:NASA/JPL/University of Arizona
ガリレオ衛星の中で最も木星に近い衛星です。直径は地球の月と同じ大きさで、全体的に黄色に見えます。
この黄色い外観の理由は、イオが硫黄と二酸化硫黄の霜で覆われているからです。
イオは太陽系で最も火山活動が激しい天体の一つで、多くの火山が存在します。イオの火山の噴煙は高さ500mに達し、その活発な様子が観察されています。
これらの火山活動は、木星の強力な重力によって引き起こされています。
イオは木星に近いため、木星の重力によって引き伸ばされて変形します。これを「潮汐(ちょうせき)変形」といいます。そのメカニズムは月による地球の潮の満ち引きと同じです。
イオの軌道は楕円(だえん)形であるため、木星に近いときと遠いときで潮汐変形の度合いが変化します。これにより、イオの内部に熱が発生し、摩擦による火山活動を引き起こしています。
イオの噴火によって放出される溶岩がプラズマ(電荷を帯びた粒子)となり、木星の北極や南極にまで到達します。
このプラズマが木星の大気と相互作用し、木星のオーロラを形成する要素となっています。
エウロパ
木星の衛星ーエウロパ / credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS
エウロパは、直径が地球の月よりも僅かに小さく、その表面はマスクメロンのような模様で覆われています。
このマスクメロンの模様は氷の割れ目であり、その下には、液体の水が存在するのではないかと考えられています。
エウロパが海を抱えているという仮説から、生命の存在が期待されています。
この海底には火山が存在する可能性があり、イオと同様の理由からエウロパにも海底火山が期待されています。この火山活動が海水を温め、栄養素を供給することで、生命が住む環境を整えているかもしれません。
エウロパの神秘的な地形と水の存在は、宇宙探査において生命の可能性を追求する上で重要な手がかりとなっています。
ガニメデ
木星の衛星ーガニメデ / credit:NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI/INAF/JIRAM
ガリレオ衛星の中で最大のガニメデは、太陽系の中でも最も大きな衛星としてその存在感を示しています。その直径は水星よりも大きく、太陽系の中で最大の大きさを誇ります。ちなみに水星の直径は地球の直径の5分の2程度、月の直径の1.4倍です。ガニメデは太陽系最大の衛星なので、当然月よりも大きいです。
興味深いことに、ガニメデは非常に薄い酸素の大気を持っています。
太陽からの紫外線や荷電粒子がガニメデの表面の氷に衝突すると、水分子が酸素と水素に分解されます。しかし、水素は非常に軽いため、ガニメデの引力を振り切って宇宙空間へ逃れてしまいます。この現象がガニメデの薄い大気を形成しています。
ガニメデの表面は、平たんな領域とクレーターが集中している領域にはっきりと分かれています。
クレーターが多い部分は暗く見え、平たんな部分は明るく見えます。これは地球の月に見られる「海」と「陸」にとても似ています。
カリスト
木星の衛星ーカリスト / credit:NASA/JPL/DLR
ガリレオ衛星の中で最も外側を公転するカリストは、太陽系の衛星の中で3番目に大きい天体で、その大きさは水星とほぼ同等で、直径は月の直径の1.4倍です。
カリストの表面には多くのクレーターが散在しており、特に巨大なクレーターや直線上に連なるクレーターの痕跡が見られます。これらのクレーターは、過去に何度もカリストに巨大な隕石が衝突した証拠とされています。
カリストの表面の特徴は、その歴史を物語るものであり、過去の激しい隕石の衝突が表面を形成したことがうかがえます。さらに、エウロパと同様に、カリストの氷の下には海が広がっていると考えられています。
まとめ
木星は夜空でもひときわ目立って輝く惑星で、望遠鏡で見るとトレードマークともいえる見事な縞模様や4つのガリレオ衛星を従えている様子を楽しむことができます。
太陽系最大の惑星である木星は、太陽系の惑星の代表的存在です。例えば、ガスの割合が多く、質量が大きい木星、土星、天王星、海王星は総称して木星型惑星として分類されています。この分類は太陽系外の惑星にも応用され、主星の近くを公転する巨大惑星は木星の名前を冠したホットジュピターと呼ばれています。
ガリレオの時代から注目を集め、観測や研究が続けられている木星ですが、その成り立ちや特有の縞模様、大赤斑の色の原因などにはまだ解明されていない謎が多く残っています。これらの未解決の謎が、今後の研究によって解明され、新たな発見がもたらされることが期待されています。
これからも木星に対する研究が進む中で、我々にとって新たな知識と驚きがもたらされることでしょう。
参考文献
国立科学博物館 宇宙の質問箱
https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/jupiter/jupiter00.html
惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496
木星・土星ガイドブック
https://www.amazon.co.jp/dp/4769916450
シリーズ現代の天文学[第2版] 太陽系と惑星
https://www.amazon.co.jp/dp/B09FSPG3BY
ライター
浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。