一回りくらい大きくなっただろうか。
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青森山田のショートストップ吉川勇大の身体つきを見て目を奪われた。
「6、7キロくらいですかね。大きくなりました。ホームランは出ていないですけど、自分の中では飛距離が変わってきたなと感じています」
3打数ノーヒットと快音はなかったが、中軸としてチームを引っ張る吉川には自覚が見えた。
第1試合で登場した青森山田は、持ち前の強力打線が爆発。11安打9得点を挙げて長野日大を圧倒し、3回戦進出を決めた。
今大会の優勝候補を見ていく中で、注目となるのは低反発バットへの対応だ。
従来のバットと違って打球が失速する低反発バットは各校を悩ませてきた。過去と同じようなスタイルで続けるのか、それとも、戦い方を変えるのか。各校の試行錯誤が続いた。地区大会の序盤などでで強豪校が敗退したりしたのも、そうしたバットの影響は少なからずあるだろう。
そうだとすると、長打を基軸とせずに戦うチームの方が勝ちやすい。短打を連ねてバントや盗塁、エンドランを駆使していく。昨日、順当に勝ち進んだ明徳義塾や関東第一、広陵はそもそもスラッガーを重視せず戦うチームで、新基準のバットが生きる野球を実践してきた代表例と言える。 とはいえ、バットが変わったからといって安易に野球を変えるというのも、育成年代のチームではやるべきではないという考え方もある。
「彼らのやる気に直結しますからね。子供たちはやはり打ちたいですからね。そこを目指さないと野球の技術の向上にはつながらないんじゃないかなと思います」
青森山田の兜森崇朗監督はそう語る。バットが変わっても、野球を変えてこなかったことへの矜持を感じる言葉でもあった。兜森監督はさらにこう続ける。
「トレーニングをしっかりやることが大事ですよね。バットが変わって小技や足を使う、短打を狙っていく。うちもそれをやっていないわけでもないんですけど、そっちに走ってしまったら野球の向上にはつながりませんから。大は小を兼ねるということで、しっかり振れるということがチームの土台になければいけないと思っていますね」
チームを引っ張る3番の對馬陸翔と5番の吉川はこれまで木製バットを使用して戦ってきている。この春のセンバツに出場した時も話題になった2人だが一貫してバットを変えずにいることも、このチームの矜持なのかもしれない。「ホームランを打っているのバッターはみんな金属で打っている選手ばかりなので、僕もそうしようかなと思ったりしましたけど、僕はやはりかっこ良さが勝ちました。練習でも金属は使わないようにしています」
長く木製バットを使用してきたことで、多くの使い方も覚えてきたという吉川はこう続けた。
「木製を使う上で意識しているのは手首をこねないということですね。ボールの軌道に素直に出すことを意識しています。スウィングでは『お尻で振る』というか、身体の中心の軸で振るということを意識していきます。お尻を締めるように意識をしてバットを振っています」
実はこの日、吉川、對馬、そして4番の原田純希の主軸3人は無安打だった。むしろ、今大会2本目の本塁打を放った佐藤洸史郎ら2年生が目立っていた。
ただ、主軸が止まっても、12安打を集めて勝てるということは、それほどチームが取り組んでいるバッティングのレベルが高いということの証左でもあるだろう。
兜森監督は語る。
「(3~5番が無安打)向こうのバッテリーも警戒して丁寧に攻めていた結果だと思う。そういうのは今後も出てくると思います。その代わり、周りの選手が活躍したことが今日の収穫でした。2年生が心配でしたけど、(ホームランを打った)佐藤らは2年生ですから良かったですね。對馬、吉川の2人にとって(木製バットは)練習の材料ですからね、打てないと『何で木製バットを使っているんだ』という風になりますからね。そういうプレッシャーと戦いながら、だいぶいいバッティングになってきています」
センバツではベスト8まで進出した青森山田。当然、今大会でも優勝候補の一角に挙げられている。
4番の原田は言う。
「投手を中心にしっかり守って、バッティングで圧倒していけたらと思います」
時代の流れに抗うかのように、低反発バットでも打撃のチームを目指してきた青森山田が好発進した。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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