日本中の幅広い世代、諸外国の人たちも含めた多くの人たちを魅了した男子バレー日本代表。残した功績は、次世代にもつながっていく。中央大で関田誠大と石川祐希、富田将馬を、東山高では髙橋藍を指導した松永理生氏(現・東山高監督)に、パリ五輪を受けての今後の展望、育成年代や国内のSVリーグに期待すること、求められることを語ってもらった。
石川はイタリア戦で「戻ってきた」が……
――大会前半、石川祐希選手の調子が上がらず、心配する声も多く挙がっていましたが松永さんはどのようにご覧になっていましたか?
松永理生(以下同) コンディションという話が多く出ていましたが、それは海外の選手も同じ。「それを理由にしてはいけない」と思っていましたし、多少悪かったとしても僕はそれほど心配していませんでした。大会中に僕が目にした記事の中には、石川が関田に「託してほしかった」とトスを要求しているとか、石川に気を遣っているという表現もありましたが、それもこれまでと変わらぬ石川の姿ですし、キャプテンシーを発揮しているだけだと思っていました。
――実際にイタリア戦は、第1セットから石川選手の攻撃が爆発する場面も多々ありました。
表現が正しいかはわかりませんが、「戻ってきた」と思わせる活躍ぶりでしたね。でも彼の中では、託されたボールを決められなかった悔しさのほうが上回っているでしょうし、イタリア戦の3セット目のマッチポイントでも関田は続けて石川に上げている。
やっぱり石川に決めさせたかったし、取らせないと、と思ったんでしょうね。それぐらい1、2セット目の石川は調子がよかった。でも3セット目に決めきれず、5セットまでもつれた結果、最後は西田有志選手にトスが上がって決めきれずに惜しくも負けてしまった。
でも、試合を終えてすぐ、僕は戦いを見ていたひとりとして、指導者のひとりとして彼らに「ワクワクさせてくれてありがとう」という謝辞をLINEで送ったんです。みんなすぐに返信をくれたのですが、石川からは「1点が取れなかった。さらに強くなります」と返ってきたので、この悔しさも力にして強くなってくれると信じています」
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髙橋藍は「背負うものが大きくなりすぎた」
――髙橋藍選手はどのようにご覧になっていましたか?
表情は硬かったですね。プレーもどこか硬さが出てしまっていて、普段ならばブロックに当ててもっと飛ばせるボールが飛んでいかなかったり、飛んだ場所にレシーブがいてつながれてしまったり、なかなか思い通りの展開に持っていけなかった。
ディフェンス面は、ドイツ戦の時にはかなり硬さがあって、「大丈夫かな」と心配する場面もありましたが、試合を重ねるごとによくなった。特にアメリカ戦、イタリア戦のディフェンスは藍の力が存分に発揮されていたと思います」
――髙橋選手の硬さの理由は何だったと思いますか?
僕はかねてから「関田が長男、石川が次男、藍が三男」と言ってきましたが、彼は“三男坊”的なキャラクターというか、本来自由でやるべき人間だと思うんです。でも、兄たちが本調子じゃないことを感じ取り、背負うものが大きくなりすぎてしまった。もちろんこれからの日本代表を考えたら、背負うことはすごく大事で必要なんですけど、今大会はそれがプラスではなくネガティブに出てしまったところもあったのかな、と。
足首のケガの影響もあったと思うのですが、たとえばフェイクセットができる場面でもいかずに、確実さを求めて丁寧なトスを上げるシーンも多かった。もちろんそれも正解なんですけど、楽しむことを体現してきた選手なので、そこでも楽しむ余裕を持てていたら違ったのかもしれない。どの国も素晴らしい技術が結集して、逆境でも開き直りながら楽しめるチームが勝つ。そういう紙一重の戦いがオリンピックなんだと教えられました。
藍には「東山の生徒たちもみんなが応援していました」とLINEで連絡したら、「さらに強くなれるように、みんなのヒーローになれるように頑張ります」と返信がきました。真剣さの中で楽しむ余裕を持てばもっとすごい選手になるでしょうし、これからの日本代表を背負っていってほしいですね」