パリ五輪男子サッカーは、スペイン代表の優勝で幕を閉じた。改めて印象付けたのが、今夏のスペインサッカーの無双ぶりだ。32年ぶりに五輪の金メダルを獲得した同国は、A代表が戦うEURO(6/14~7/14)と19歳以下の選手たちで争われるU-19欧州選手権(7/15~28日)でも頂点に立ったのだ。
スペイン紙『AS』のアリツ・ガビロンド氏は、「パリで、フランスで、フランス人の前で、何百万人、何千万人のファンの目の前で、スペインがサッカー大国であることを証明した。EURO、パリ五輪、U-19欧州選手権と、眼前に広がっていた大会すべてでチャンピオンになった。時間がこの偉業の価値を決定づけることになるだろう」と、いくら賞賛してもし切れない様子だ。
しかし、パリ五輪での金メダル獲得までの道のりは、苦戦の連続だった。そんな中、チームを引っ張ったのは、当初、EUROとの掛け持ちによる疲労を懸念されたふたりの実力者、フェルミン・ロペスとアレックス・バエナだ。前者が6得点を挙げて別格の実力を発揮すれば、後者は低い位置から攻撃のタクトを振るう見事な司令塔ぶりを披露した。
守備陣に目を向けると、決勝のフランス戦(5-3)でミスから先制点を献上した後、好守を連発するだけでなく、一気に敵陣にボールを送るロングスローで、ダメ押しの5点目をお膳立てしたGKのアルナウ・テナス、大会を通じて尻上がりに調子を上げ、バルセロナの同僚のエリク・ガルシアと息の合ったコンビネーションを見せたパウ・クバルシが牽引役となった。
さらに決勝の延長戦で2得点を決めて、激しい打ち合いにケリをつけたセルヒオ・カメージョと、そのカメージョの1点目を絶品の左足パスで演出したアドリアン・ベルナベと、交代選手も軒並み活躍。これはサンティ・デニア監督の采配が冴え渡った証でもある。
スペインが前回金メダルを獲得した1992年のバルセロナ大会決勝のポーランド戦で今回のカメージョと同じように2得点を叩き込み、勝利(3-2)の立役者となったキコ・ナルバエス氏は、「EUROにおけるルイス・デ・ラ・フエンテがそうだったように、サンティ(・デニア監督)は偉大な人間であることと、偉大なミステル(監督)であることを両立させることが可能であることを示した。これまでアンダー世代で成し遂げてきたことと同じだ。今日、彼はその勲章としてこの世に存在する最も美しい金属のシャワーを浴びた。そう、金メダルだ」と、現役時代にアトレティコ・マドリーで一緒にプレーした元チームメイトへ賛辞を送った。
一方、スペイン紙『スポルト』は、金メダル戦士の中で、ラ・マシア(バルサ下部組織の総称)出身選手の占める割合の高さに着目する。フェルミンを筆頭に、エリク・ガルシア、クバルシ、アベル・ルイス、アルナウ・テナス、フアン・ミランダ、セルヒオ・ゴメス、ディエゴ・ロペス、ベルナベとその数は実に9人に上り、しかもその大半が主力選手だ。
現地で試合を観戦し、若者たちの金メダル獲得を見守ったA代表のルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、「今年これだけのことを成し遂げたスペインサッカーを正当に評価し、コンプレックスを取り除かなければならない。今、我々は素晴らしい時期を過ごしているが、未来にはさらに素晴らしい景色が広がっている。これからも向上し続けるためには、毎日少しずつ努力の量を増やしていかなければならない」と語った。
スペインは伝統的に団体球技が強いとされてきたが、パリでは男子サッカーがその力を誇示した。2024年夏は、スペインサッカー界にとっても忘れられない夏となっている。
文●下村正幸
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