どうして土星にだけ立派な環があるのか?

木星・天王星・海王星も環をもっていますが、太陽の光をあまり反射しない暗い岩の塊や小さなチリでできているので非常に淡くあまり目立ちません。

一方、土星の環は光をよく反射する氷でできているため、明るくはっきりと見えます。特に最も明るく見えるA環やB環は、チリなどで汚れていないきれいな氷が多いことが知られています。

土星と他の巨大惑星で環の組成が異なる理由は現在のところ解明されていませんが、興味深い仮説があります。惑星の密度の違いが環の成分の違いに関係しているというのです。

この説では、約40億年前の太陽系の後期重爆撃期に巨大惑星の環が形成されたとしています。

環の材料となったのは、カイパーベルト(太陽系の惑星たちより外側の軌道にある小天体が集まった領域)にある冥王星サイズの巨大な天体だったと考えら得ています。これが土星や天王星、海王星に接近した際、潮汐力によって破壊され、その一部がこれらの惑星に捕獲され、それが現在の環になったのです。

この際、惑星の密度の違いが環の組成を決定したと推測されています。

天王星や海王星は土星と比べて密度が大きいため、惑星の非常に近くを天体が通過する近接遭遇が可能です。この場合は天体には大きな潮汐力が作用します。

一方、土星の場合は密度が小さく質量に対して惑星半径が大きいため、そのようなごく近傍を通過しようとすると土星本体に衝突してしまうのです。

惑星近傍を通過するカイパーベルト天体は内側に岩石核、外側に氷マントルという二層構造をもっていたと想定できます。この場合、天王星や海王星の場合では、岩石核まで破壊・捕獲され、岩石成分も含むリングが形成されます。

これに対して土星の場合は通過する天体の氷マントルのみが破壊されるため、氷が主成分のリングができるのです。

木星についても、土星と比べて密度が大きいためこの説が適用できますが、ガリレオ衛星の影響も考えられます。

木星には大きな4つの衛星(ガリレオ衛星)がありますが、これらの重力によって環の材料となる氷の軌道が変化し、環の形成が妨げられた可能性があります。一方、土星の衛星は木星ほど大きくないため、環の形成に与える影響は小さかったと考えられます。

また土星の環が明るくくっきりと見える理由については、土星の環が比較的最近できたものだという説があります。

土星の環は土星本体の年齢よりもずっと若いというものです。NASAの研究チームは、土星探査機カッシーニが収集した土星の環の観測画像から、土星の環が形成された時期を1億~2億年前と推測しました。これは地球上では恐竜たちが反映していた時代です。


Credit: NASA/JPL/Space Science Institute

土星自体が誕生したのは、他の惑星と同じく今から約46億年前ですが、カッシーニの観測によると環がそこまで古いことはありえないというのです。

環がつくられた時には氷同士の衝突によって新しい表面が現れますが、時間が経つにつれて氷がチリに覆われてだんだん暗くなっていきます。そのため環が土星自体と同じぐらい古いなら今ほどの明るさを保っていることはないだろうと考えられるのです。

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土星の環がなくなる?

土星のシンボルともいえる環ですが、周期的に見えなくなるという現象があります。

土星は約30年周期で太陽の周りを公転しています。土星の公転軌道面に対して環が少し傾いているため、地球と土星の位置関係によって環の見え方が変化します。

その結果、おおよそ15年周期で環を真横から見る時期が訪れ、環がほとんど見えなくなります。これは「環の消失現象」と呼ばれています。環が実際に消えるのではなく、位置関係によって見えなくなるのです。

ちなみに次に環の消失現象が起きるのは2025年です。

土星の環が見えなくなるのは残念ですが、このことから土星の環の秘密がうかがえます。真横からだと見えないということは、その幅に比べて厚みが非常に薄いということです。

土星の環の幅は、望遠鏡ではっきりと見えるA環だけで15万kmぐらいあり、かすかなものを含めると40万kmを超えます。それに対して、厚さはたった数百mしかありません。

土星本体を直径20cmのバレーボールに見立てると、環の幅は60cmを超えます。それに対して、厚さは5000分の1mmしかないことになります。このように超極薄なので、真横から見た時に環が見えなくなるのです。

では土星の環はなぜそんなに薄いのでしょうか? その理由は次のように説明できます。

下の図は土星の環に垂直な方向から見た環のモデルです。土星に近い場所に粒子aがあり、遠い場所に粒子bがありいずれも土星の周りをまわっています。


土星の環の力学1 / Credit:創造情報研究所

粒子aは土星に近いためより強い重力が働きますが、土星の周りを速いスピードで回転しているため、回転による遠心力と重力が釣り合っています。粒子bに働く重力は弱いため、aよりも遅い回転速度の場合に遠心力と重力が釣り合います。

粒子aの場合も粒子bの場合も軌道は安定しています。このように粒子の運動エネルギーに応じて安定な軌道が存在するため、土星からの距離のバラツキが大きくなります。これが土星の環の幅が広い理由です。

さて、もし土星の環にもっと厚みがあったとしたらどうなるでしょうか。次の図はその場合の土星の環を横から見たものです。


土星の環の力学2 / Credit:創造情報研究所

北側に環A、赤道付近に環B、南側に環Cがそれぞれあったとします。

AはBとCの重力によって赤道側に引き寄せられます。Cも同様にAとBの重力によって赤道側に引き寄せられます。一方、Bに対してAから働く重力とCから働く重力は釣り合っているのでBは動きません。結果としてA~Cの幅が極限まで小さくなります。

ところで見かけ上の問題とは別に、あと1億年ぐらいで土星の環が本当に消えてしまうという説があります。

なぜ、土星の環が消えていくのでしょうか?

それは土星の重力が原因です。環を構成する氷の粒子が、土星の重力によって徐々に土星本体に落下しているからです。

土星の環は氷の粒からできていますが、その氷の粒が環に留まっていられるのは、土星本体からの重力と環の回転による遠心力とが釣り合っているからです。しかし、太陽の紫外線などで氷の粒が帯電すると、力のつり合いが崩れて、氷は土星の磁力線に沿って南北の中緯度地域に落下していきます。

2011年にハワイのケック望遠鏡が行った観測により、土星の環を構成する粒子が土星に降り注ぐペースが明らかになりました。

その研究によると、土星の環は1億年以内に消滅すると予測されています。土星の環の形成自体が数億年前という説と合わせて考えると、土星のような見事な環の寿命は、そもそもそれほど長くないのかもしれません。

このため将来的には土星の環も天王星や海王星のように暗く希薄な環になり、地球から見えなくなるかもしれません。

土星のシンボルでもある環は、遠い未来まで変わらず存在しているように思えますが、意外と近い将来消えてしまう運命にあるようです。