天王星 / Credit:NASA/JPL-Caltech
天王星は肉眼でかろうじて見える明るさの惑星です。そのせいで、望遠鏡が発明されるまでは惑星として認識されておらず、1781年にウィリアム・ハーシェルによって初めて惑星として確認されました。
そんな天王星は太陽系の惑星の中でもかなり変わり者です。天王星の自転軸の傾斜角は98°、他の惑星でも多少自転軸が傾いているものがありますが、ほぼ横倒しの状態で自転する惑星は天王星だけです。
それでは、太陽系随一の奇妙な惑星の謎に迫ってみましょう。
目次
望遠鏡で発見された最初の惑星横倒しの惑星ダイヤモンドの雨が降る天王星にも環があった天王星の衛星
望遠鏡で発見された最初の惑星
天王星は望遠鏡を使って初めて発見された惑星です。
地球以外の惑星のうち、水星、金星、火星、木星、土星は昔から知られていました。これらの惑星は夜空に明るく光っていて、肉眼でもよく見えます。
天王星の明るさは約6等級なので、かろうじて肉眼で見える程度の明るさしかありません。このような暗い天王星は、どのようにして発見されたのでしょう?
天王星は、1781年にイギリスのアマチュア天文家ウィリアム・ハーシェルによって発見されました。
ハーシェルは、銀河系の構造を解明するために、自作の反射望遠鏡で「掃天観測」に挑戦していました。掃天観測とは、全天にわたって星の分布を詳細に観測することです。
そのときに、普通の恒星と違う動きをする天体を見つけました。この星は他の恒星に対してほんの少しずつ動いていました。
ハーシェルは当初はこの星を彗星だと思っていたようです。おそらくぼんやりとした淡い像に見えたのでしょう。
その後の計算で、ハーシェルの発見した新天体はほぼ円に近い軌道を約84年の周期でめぐる惑星であることが分かりました。
当時の知識では、土星が最も遠い惑星だと考えられていたので、土星の外側をまわる惑星の発見は人々を大いに驚かせました。
天王星の大きさは太陽系の惑星の中で3番目で、直径は地球の4倍です。しかし、太陽から28億7500万Km(太陽‐地球間の約19倍)も離れたところにあるので、地上の望遠鏡ではそれほど大きく見えないのです。
太陽系の惑星の大きさ比較 / Credit:NASA/Lunar And Planetary Institute
天王星は木星や土星と同じように水素とヘリウムを多く含むガス惑星のため、木星型惑星に分類されています。一方で、内部に岩石を含む氷の大きな中心核があることから、海王星とともに巨大氷惑星に分類されます。
天王星を望遠鏡で見ると、淡い青緑色に見えます。これは、天王星の大気に含まれているメタンが赤い色を吸収するためです。
天王星の大気は主に水素とヘリウムで構成されていますが、数%のメタン(CH4)も含まれています。 このメタンには、可視光の中でも特に赤色の光を強く吸収するという性質があります。
メタンが赤色光を吸収することにより、残った青緑色の光が反射されるので、天王星は淡い青緑色に見えるのです。
同様に、海王星の表面も大気中のメタンが赤色光を吸収することで青色に見えます。一方、木星や土星もメタンを含んでいますが、大気の主成分が水素とヘリウムであり、メタンの割合が少なくアンモニアなど他の化合物の割合が多いため褐色や黄色に見えます。
興味深いことに、天王星の色は公転周期(約84年)に伴って徐々に変化することがわかっています。天王星が夏至や冬至の時期には緑色が強まり、春分や秋分の時期には青色が強まる傾向があるのです。
この色の変化は、天王星の自転軸が公転面に対してほぼ横倒しになっていることと関係があります。自転軸の傾きにより、極地方と赤道付近では受ける太陽光の量が大きく異なり、それが大気の対流や雲の状態に影響を与えていると考えられています。
このように、天王星の淡い青緑色は大気中のメタンによるものですが、その色合いは天王星の公転周期に伴って微妙に変化するのです。
(広告の後にも続きます)
横倒しの惑星
天王星の一番の特徴は横倒しで自転していることです。
天王星の自転軸は公転面から約98度傾いており、ほぼ横倒しの状態になっています。そのため、まるで横向きにごろごろと転がっているように見えます。
天王星 / Credit: NASA/JPL/STScI
横向きの状態で太陽の周りを約84年かけて公転しているため、昼と夜が42年ごとに繰り返されます。天王星の北極と南極では夏と冬がそれぞれ40年以上続くのです。
どうして天王星の自転軸は横倒しになったのでしょうか?
これは最初から横倒しになっていたわけではなさそうです。惑星として形成された当初、天王星は他の惑星と同様に自転軸が公転面にほぼ垂直な状態だったと推測されています。
横倒しになった原因は、天王星の形成初期に大きな星が衝突したためという説が有力です。衝突した天体は、その時の衝撃で破壊されてその一部が天王星の衛星や環になったと考えられています。
2011年に発表された最新のシミュレーションによると、従来考えられていたように天体の衝突は1回ではなく、同じクラスの天体による衝突が2回あったと推察されています。
天王星は多くの衛星を従えており、それらの衛星は天王星の赤道面にそって公転しています。もし、天王星の自転軸が突然傾いたとすると、衛星たちはその影響をうけることはなく北極から南極へと同じように動き続けます。その場合、衛星は赤道面にはいないはずです。
しかし、天王星の自転軸の傾きを引き起こした原因が1回の巨大な衝突ではなかったとしたらどうでしょうか?2回のやや小さな衝撃によって引き起こされた、より緩やかなプロセスだったとすると、衛星の配置が現在の形に近くなります。
ちなみに、地球の自転軸も23.4度傾いています。この傾きは、火星サイズの天体が地球に衝突した結果と考えられており、その衝突によって月が形成されたという説が有力です。
面白いことに、天王星の磁場の軸(磁軸)は自転軸に対して60°傾いており、惑星の中心を通っていません。このことは天王星に接近したボイジャー2号の観測によって明らかになりました。むしろ、磁軸の方が公転軌道に対して垂直に近かったのです。
下の図は天王星の磁場を示しています。黄色の矢印は太陽の方向です。水色の矢印は天王星の磁気軸、濃い青の矢印は天王星の自転軸を示しています。
Credit:NASA/Scientific Visualization Studio/Tom Bridgman
天王星の磁場は、惑星内部の電気伝導性流体の対流運動によって生み出されていると考えられています。 しかし、その詳細なメカニズムは不明な点が多く、なぜ磁軸が自転軸から大きくずれているのかは未解明です。
太陽の磁場は、その活動周期と同じ約11年周期で逆転する現象が知られています。
木星型惑星の磁場の発生メカニズムも太陽とよく似ているので、木星型惑星の磁場は太陽と同じように逆転する可能性があるという説もあります。この考え方によれば、天王星の磁場は今まさにその逆転が起きつつあるのかもしれません。
天王星は水を含む、メタンやアンモニアなどが凍りついた「巨大氷惑星」です。
ただ表面は凍っていても、その内部は極めて高温高圧な環境にあり、水が金属状態になっていると推測されています。
水が金属になるというのはどういうことでしょうか?
金属と言われてまず頭に浮かぶのは、鉄や銅、アルミニウムなどの物質です。ではこれら金属に共通する性質とはなんでしょうか?
おそらく多くの人は、電気をよく通すとか、表面がピカピカとよく光を反射するなどの性質を思い浮かべると思います。
実は、これら電気を通しやすい性質と光を反射する性質はどちらも原子の結合方法に関係があり、この性質持った結合状態の物質を金属と呼んでいるのです。
金属結合の例 Credit:JackFromReedsburg, CC0, via Wikimedia Commons
つまり水が金属状態というのは、水が圧縮されてこの金属と同じ性質(電気を通し、光を反射する性質)を示す原子の結合状態になっているという意味なのです。
ちなみに、純粋な水は常温常圧では電気を通しません。(水が電気をよく通すというイメージがあるのは水が含む不純物の影響です)
また、光に対しては透明です。しかし岡山大学と大阪大学の研究グループは、超高圧下で水が光を強く反射する状態になることを確認しました。これは金属特有の性質があることが示されました。
このように天王星内部では高圧によって「水が金属状態」になっているため、そこを流れる電流が、天王星が強い磁場を生む原因だと考えられているのです。