今ここで地震が起きて死んだら、俺最悪
──SNSで話題になって以降は主要な音楽配信チャートで1位になったり、さまざまなテレビ番組に出演したり、飛ぶ鳥を落とす勢いでした。瑛人さんを取り巻く環境も変わりましたか?
『香水』がバズって、でも当時僕の周りには誰も大人がいませんでした。テレビの出演依頼やカラオケの著作権のこととか、とにかくいっぱい連絡が来ました。
自分ではよく分からないので、ルンヒャンさんを頼ったら、森山直太朗さんを紹介してくれて。直太朗さんが自分の置かれた状況にすごく共感してくれたんです。直太朗さんの事務所(SETSUNA INTERNATIONAL)は、ビジョンがはっきりしていない自分のような人間でも受け入れてくれそうでした。ほかの事務所からもオファーをいただいていたんですが「ダンスを習わせます」「英語を勉強させます」とか、そんなの嫌で。直太朗さんの事務所に「ここで面倒見てくれませんか」とお願いしました。
事務所に所属しただけではなくて、バイトも辞めたし、引っ越しもしたし、テレビ業界の人にも会ったりしたし、いろいろなことが変わりました。
でもテレビに出演しているときも、自分が一人前のシンガーソングライターになったという感覚はなくて、どこか社会科見学をしているようでしたね。
「あっ、芸能人の誰々がいる」とか、全部初めてのことだったから楽しい経験として感じることができたけど、でももう一通り見させてもらえたから──。
──自分の居場所ではないと感じた?
お金が入ったから少しだけ調子にのったこともあったけど、やっぱり自分にはギラギラした芸能人のようなノリは合わない。何度かだけそういう場所に誘われて行ってみたことがあるんです。でもそのときに思ったのが「今ここで地震が起きて死んだら、俺最悪」って。やっぱり死ぬなら自分が心を許している友だちとか、普通に遊んでいるときに死にたい。そう思っちゃって、すぐ帰っちゃいました。
──ブレイクしていた当時は、先々のことについて考えていましたか?
あまり考えていなかったかもしれないですね。とりあえず普通に生きていこう、みたいな。将来どうしようとか、先のことを無理して考えてみたことはあるけれど、やっぱりその通りにはならないから。
今はもう自分の心が赴くままにいる感じですね。ここなら安心するとか、楽しそうとか、自分が違和感を感じずにいられるように。それだけでやっていきたいんです。
──『香水』がヒットして、今の立場を手放したくないという感覚はなかったですか?
全然ないです。今の方がいい感じですよ。たくさんメディアに出演したり、街で声をかけられたりもしなくなって、元の普通の生活に戻ってきたから。
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普通に生きて、感じたことを歌で返したい
──現在の活動について教えてください。
地元の横浜の先輩たちや昔からの音楽仲間たちと一緒に全国津々浦々でライブさせてもらっています。ライブをすることで感じることもあるから、それを活かして、またライブして。そうしているうちにちゃんと一人前の弾き語りができるようになりたいですね。
生きていく中でいろいろ感じて、歌にしていく。僕は器用にすぐできるタイプではないので、ゆっくり、ちゃんと地に足をつけてやっていければいいのかなと思っています。
──ライブの規模感は気にしないですか?
『香水』がヒットしていた当時は周囲に感化されてライブ会場の大きさとかを気にしたこともあったけれど、今は実力にあったところでやっていきたいなと思ってます。
今年から元々バイトしていたハンバーガー屋のオーナーと一緒に逗子海岸で海の家を始めました。
実は逗子海岸は10年間くらい音楽の演奏が禁止されていたんです。でも今年から、音量制限はあるものの、弾き語りならOKになって。今は海の家の片隅で無料の弾き語りライブをしています。
その活動が少しずつ大きくなっていって、逗子海岸でフェスをやれたらなんて。大きな会場でライブをするよりも、今はそういう方が燃えますね。
でも、10年ライブできていなかった場所で実現させるライブ。そのまだ見たことない景色の方に、今は興味があるし、わくわくしています。
今月も逗子で「ハクナ・マタタ」というニューイベントをやるんですけど、それが成長していってくれればいいですね。
海の家でギターを弾く瑛人さん
──今が瑛人さんにとって居心地が良いんですね。
良いですね。海の家でも怒られてばかりだし、横浜の先輩ミュージシャンからはいまだに「下手くそ」って言われてばかりだけど。人生の中で怒られるのには慣れているし、原点回帰の気持ちですかね(笑)。
──2024年8月7日にはタイ語で『น้ำหอม -香水- feat.SANIMYOK』がリリースされました。
2022年にタイでイベント出演して、同時にタイ語の『香水(Thai ver)』をリリースしたんです。ライブで初めてタイ語を披露したんですが、誰も「タイ語、良かったね」とか言ってこなかったので、これはおかしいと。
それで現地の人に「さっきの言葉、意味分かった?」と聞いたら「まったく、何も分からない」と言われて。「じゃあ、このリリースされた音源は?」と聞いたら「何これ、中国語?」と……、何語でもない音源をリリースしてしまったんですよね。
『น้ำหอม -香水- feat.SANIMYOK』のレコーディングの様子
そこからタイ語を一から勉強し直したんです。でもただ録り直すだけではつまらないから、タイ北部のチェンマイにSANIMYOKというかっこいいバンドがいたので連絡したら、再リリースの音源に協力してくれました。SANIMYOKのサウンドでパワーアップした『香水』をぜひ聴いてもらいたいです。僕のタイ語もなんとか様になってきたみたいなので(笑)。
(文:野垣映二 写真提供:セツナインターナショナル)
Information
瑛人 2024年8月7日
Digital Release『น้ำหอม feat.SANIMYOK』
『ハクナ マタタ』
[公演日時]2024年8月28日(水)
[会場]逗子海岸・海の家「BRIGHT ZUSHI by BLUE MOON」
[時間] OPEN 16:00 / START 16:30
『JERSEY EIGHT 2024』
[公演日時]2024年10月19日(土) , 20日(日)
[会場]逗子surfers (神奈川県逗子市新宿5丁目822-2)
[時間] 両日OPEN 16:00 / START 17:00
[チケットご予約]
電話予約 046-870-3307 surfers