スペイン紙『スポルト』のリュイス・ミゲルサンス記者は、「新戦力の獲得は、メディアの注目度、補強のニーズ、市場のタイミングの3つのファクターによって左右される」と論じている。
バルセロナが今夏、ニコ・ウィリアムスの獲得が暗礁に乗り上げる中、ダニ・オルモの獲得に向けた交渉を加速させたのも、それで説明がつくという。EURO2024で活躍したことで、メディアの注目度が高まり、本人が古巣でもあるバルサへの復帰を強く望んだことで市場のタイミングも合致した。しかし、唯一補強のニーズという点では、首を傾げざるを得ない部分もある。
というのもバルサが今夏、ファーストプライオリティーを置いていたのは左サイドの強化だ。しかしその喫緊の課題をペンディングにしたまま、ダニ・オルモの獲得に踏み切った。たしかに、ダニ・オルモは攻撃的なポジションなら全てこなすユーティリティー性が持ち味だ。スペイン紙『ムンド・デポルティボ』によれば、これまでディナモ・ザグレブ、ライプツィヒ、スペイン代表の3チームで計43試合に左ウイングとしてスタメン出場しているという。
しかし彼はいわゆる“偽のウイング”で、実際はピッチ中央のエリアでプレーすることが多く、本質的にはトップ下、インサイドハーフの選手。ドリブルも得意だが、EURO2024で強烈なインパクトを放ったニコ・ウィリアムスのような純粋なウインガーではない。そしていまのバルサには、イルカイ・ギュンドアン、ペドリ、ガビ、そしてフェルミン・ロペスと、彼と似た役割をこなす選手は十分に揃っている。
それでもバルサは、ダニ・オルモの獲得にインセンティブ込みで6200万ユーロ(約100億円)もの大金を投じた。当然ながらこの決断に疑問の声を投げかけるファンやメディアは存在するが、肯定派も少なくないのは、その圧倒的な実力に理由がある。
アタッキングサードでボールを持って、チャンスを広げるプレーを真骨頂とするダニ・オルモは、複数のポジションをハイレベルにこなすだけでなく、密集を苦にすることなくギャップでパスを受けることができて、サイドへの展開、ラストパス、ミドルシュートとプレーの選択肢が多い。
また、3点→5点→3点→2点→4点と5シーズン在籍したライプツィヒ時代のブンデスリーガにおける得点の推移を見ても分かる通り、傑出した得点力を備えているわけではなく、圧倒的なスピードでサイドを切り裂くわけでもないが、アタッキングサードで周りの選手と連携してゴールに迫るプレーをさせれば欧州でもトップクラスで、EURO2024で実証したように大一番での勝負強さも兼ね備えている。
アナリストのアルベル・ブラジャ氏はスペインメディア『Relevo』で、「ダニ・オルモの加入は、先発イレブンの大幅な戦力の上積みには繋がらないが、スカッドの底上げには大きく寄与する。監督の選択肢を増やしてくれる選手だ」と述べている。
ギュンドアンよりダイナミズムに溢れ、運動量の落ちたロベルト・レバンドフスキをフィニッシュに専念させるパートナー役としても適任で、ペドリやガビよりもアタッカー色が強く、フェルミンより周囲を活かす能力に長けているダニ・オルモ。100億円の価値があるかどうかは、今週末に開幕するラ・リーガで明らかになる。もっとも、無事に選手登録が間に合えばの話ではあるが……(現地時間8月14日時点ではまだ登録できていない)。
文●下村正幸
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