実写化作品にあたって原作のイメージに合わない俳優が起用されると、ファンとしては不安になるものです。しかし俳優が肉体改造や、原作キャラの研究によって見事な演技をして、評価が逆転したことも少なくありません。



映画『キングダム 大将軍の帰還』IMAX版ビジュアル (C)原泰久/集英社  (C)2024 映画「キングダム」製作委員会

【画像】え…っ? 「菅田将暉がなぜここまで新八になるのか」こちらが演技力で逆転評価を受けた実写化俳優たちです(8枚)

見た目は違うのにキャラが宿ってる

 マンガの実写化の情報が解禁される際、キャスティングへの否定的な声が出ることは少なくありません。特に見た目が原作キャラクターのイメージとかけ離れていた場合、原作通りに再現できるのか不安になることも多いでしょう。しかし俳優の演技力や徹底した役作りによって、公開前からの評価が一転することもあります。

『キングダム』王騎将軍

 累計発行部数1億部を突破した原泰久先生の人気マンガ『キングダム』の実写版では、大沢たかおさんが作中最強クラスのカリスマ「王騎将軍」を演じました。王騎は、「昭王」の下で中華全土を震撼させた「秦」の「六大将軍」最後の生き残りです。原作の王騎は全体的に濃い目な顔の造りをしており、分厚い唇に巨大な身体、三つに分けられた顎髭が特徴的で、誰に対しても丁寧語なうえに、「ンオッフウ」「ココココ」という独特な笑い方をします。

 端正で爽やかな顔立ちの大沢さんが王騎将軍役と発表された際は、「イメージが違いすぎて不安しかない」と否定的な声が少なくありませんでした。しかし、大沢さんは役作りでトレーニングを積み、20kg増量という肉体改造をしただけでなく、王騎将軍の笑い方やねっとりした喋り方までも再現してみせます。2019年の1作目『キングダム』公開後は、「キャラの魅力を理解した演技で原作のままだった」「王騎将軍の独特なしゃべり方や笑い方が自然すぎて演技と思えない」と評価が逆転しました。

 2016年頃から約2年休業していた大沢さんは、この王騎役をオファーされて復帰を決めたそうです。2023年7月30日放送の『おしゃれクリップ』に出演した大沢さんは、プロデューサーから「失敗したらネットで一番酷評される役どころ」と言われて奮起し、肉体改造に挑んだことを語っていました。

 4作かけてどんどん増量していったものの、大沢さん演じる王騎は最新作『大将軍の帰還』までは本格的には戦わず、宿敵「ホウ煖(演:吉川晃司)」との戦闘でついにその実力を発揮します。シリーズを通して主人公「信(演:山崎賢人)」を見守るどっしりとした存在感、最終章でついに見せた感情むき出しの戦い、太い腕で巨大な矛を振り回す姿の説得力も絶賛されました。

『カラオケ行こ!』成田狂児

 和山やま先生の人気マンガ『カラオケ行こ!』に登場するヤクザ、祭林組若頭補佐の「成田狂児」は、強面寄りの美形というビジュアルで、ファンからは実写化するなら元「TOKIO」の長瀬智也さんが適任とも言われていました。しかし、実写映画では綾野剛さんが演じ、公開前は「ビジュアルが違いすぎる」といった不満の声も出ています。

 狂児はドスを効かせたり相手を委縮させたりするようなヤクザとは異なり、優しく諭す面倒見が良い一面を持った人物です。綾野さんは、話すときの間の取り方や吐息交じりの話し方も込みで、狂児らしさを表現していました。

 組のカラオケ大会に向けて歌がうまくならなくてはいけない狂児は、歌唱指導をしてもらうために合唱部部長「岡聡実(演:齋藤潤)」の元にやってきます。聡実を「カラオケ行こ」と誘う冒頭の場面では、狂児のかわいらしい一面が垣間見え、強面とのギャップも見事でした。

 また、実写版『カラオケ行こ!』では、マンガでは聴こえない「歌」の表現も重要なポイントです。狂児が好きな「X JAPAN」の「紅」を歌うシーンでは、綾野さんは裏声を使ったり、ヘドバンしたりと全力の歌唱を何度も披露し、「紅聞くだけで笑えるくらい面白かった」「わざとらしく音程外してるわけではなく、高くてなんか気持ち悪いというリアルな歌下手演技が見事すぎる」「ガチであり得るラインの音痴」と絶賛されました。

 はじめは否定的な声が多かったものの、公開後には「見た目が全然違うのに成田狂児の謎めいた感じが出ていた」「ヤクザの怖さと聡実君への優しさのバランスが良かった」と演技力が称賛されており、続編の『ファミレス行こ!』の実写化にも期待が集まっているようです。

『弱虫ペダル』小野田坂道

 渡辺航先生の人気マンガ『弱虫ペダル』は、「King & Prince」の永瀬廉さん主演で2020年に実写映画化されました。主人公「小野田坂道(演:永瀬廉)」は小柄で細身、丸い眼鏡が特徴的なアニメをこよなく愛する高校生です。

 永瀬さんはそれまで、TVドラマ『俺のスカート、どこ行った?』のクラスのリーダー格の高校生や、映画『うちの執事が言うことには』の名家の若き当主など、そのビジュアルを活かした「イケてる」役柄を多く演じていました。さらにアイドルとしてのイメージも相まってか、ネット上で「小野田じゃないだろ」「いくら何でもイケメン過ぎるって」とツッコミを入れられていました。

 しかし、永瀬さんは普段より少し高めの声で演じたり、ドギマギしながら話したりと、小野田の話し方を見事に再現しています。また、登校中のおなじみのシーンとして、小野田が好きな作中のオリジナルアニメ「ラブ☆ヒメ」のOP主題歌である「恋のヒメヒメぺったんこ」を、自転車を漕ぎながら熱唱し、きつい坂道を笑顔で登っていく場面も本人がしっかり再現していました。

 吹替、CGなしでキャストが実際に自転車レースの場面を演じたことも話題となった映画『弱虫ペダル』では、登校シーンほか永瀬さんの驚異的な身体能力にも驚かされます。特に好評だったのはレースで落車してしまい、最下位になったところを追い上げていく一連の場面です。

 小野田ははぐれてしまった自転車競技部のメンバーに追い付くため、ガムシャラに自転車を漕ぎます。自転車のスピード、鬼気迫る表情ともに再現され、「アイドルではなく完全に小野田坂道そのものだった」「どう見ても本当に必死に漕いでいる姿に泣いた」と、感動した人も多かったようです。