無印良品を展開する良品計画の業績が好調だ。第3四半期の決算を発表した7月12日に通期業績予想の上方修正を行った。売上高に当たる営業収益を6400億円から6600億円へと3.1%引き上げている。無印良品は2023年に一部商品の価格を平均25%アップという強気の値上げを行ったが、客離れは限定的だった。この根強いブランドの強さの人気は一体どこにあるのか。
値上げ後は既存店でも増収をキープ
良品計画の2024年8月期第3四半期(2023年9月1日~2024年5月31日)の営業収益は、前期比13.7%増の4956億円、営業利益は同87.3%増の424億円だった。営業利益率は8.6%。前年同期間の5.2%から3.4ポイントも改善した。
かねて中期経営計画「3ヶ年ローリング計画」にて、2025年8月期の営業利益率を8.1%と設定していた。今期は前倒しでこれを達成しそうな勢いだ。
良品計画は調達原価をもとにある程度の値下げを加味した価格を設定し、店頭売価を決めるという特徴があるが、現在は値下げの抑制にも努めている。そのため、国内事業に限定すると、営業利益率は3.8%から10.5%まで大きく伸ばしているのだ。また、営業収益の4割ほどは海外事業によるもので、円安メリットも働きやすい。
しかし、国内事業の著しい収益改善を見ると、値上げや値下げ抑制効果が極めて効果的だったことがわかる。
良品計画は2023年1月13日に大型家具、プラスチック収納、布製品、食品の価格改定を実施。同年2月3日に生活雑貨も値上げに踏み切った。ポリプロピレンの収納ケースは1790円から2290円、脚付マットレスは2万7900円から3万2900円に引き上げられている。
無印良品の競合の一つが家具・インテリア業界大手のニトリだ。ニトリは海外で製品を生産して国内に輸入している典型的な円高メリットの会社。足元では急速に円高が進行したとはいえ、140円台後半という円安基調であることに変わりはない。
しかし、ニトリは基本的には値上げをしていない。競合が手頃な価格を武器にする中で良品計画は値上げを行ったわけだが、客離れは限定的だった。
2023年の国内既存店・オンラインストアの客数は前年の92.6%。価格改定効果で売上高は101.1%だった。既存店とはオープンから一定期間が経過した店舗を指す。新規オープンの一時的な集客効果が働かないため、恒常的な集客力を見ることができる。既存店が増収となっていることからも、集客にはさほど影響していないことがわかる。
2024年1月から7月までの既存店客数は100.8%。売上高は105.8%だった。良品計画は2024年9月にも菓子など41品目の値上げを実施する。収益性のさらなる改善に期待ができる。
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行きすぎた消費社会に警鐘を鳴らした無印良品
無印良品はなぜこれほどまでに強いブランド力を維持できているのだろうか。その理由は大きく3つあると考えられる。
1つ目は良品計画が誕生した背景と、持続可能な社会という現代の概念が合致したこと。2つ目はターゲット層が値上げ耐性に強いこと。3つ目は商品開発力に強みを持った会社であることだ。
良品計画は西友のプライベートブランドを開発する会社として1980年にスタートしている。当時、西友を擁するセゾングループのトップといえば、実業家の堤清二氏だ。堤氏はバブル期の消費動向をとらえ、西武百貨店や西友を業界トップレベルにまで引き上げた立役者だった。実業家として華々しく活躍する一方、小説を発表するなど文学にも造詣が深く、教養があった人物としても知られている。
バブル期はDCブランドブーム真っ只中。数々の高級ファッションブランドのアイテムが飛ぶように売れていた。そんななか、シンプルかつ機能性の高い商品を取りそろえる無印良品は、ブランドの名を冠すれば高額でも売れるという時代のアンチテーゼとして誕生したのだ。
堤氏は一時、日本共産党に入党していたことでも知られている。
行きすぎた消費社会に反旗を翻しつつ、それを資本主義というシステムの中で表現したことは、何とも堤氏らしいやり方だ。
そして2000年代に入り、大量消費・大量廃棄型の経済が疑問視されるようになった。多くの人がそれを認識するようになったのは、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための17の国際目標」だろう。いわゆるSDGsである。
良品計画の売上高が2000億円を突破し、急成長し始めたのが2014年2月期からだ。消費者がサステナブル社会を意識するようになったタイミングとちょうど重なっている。
良品計画は中国やヨーロッパなどの海外でも高い支持を得ている。国際的な消費者意識の変化の中で、急速に力をつけたのだ。
また、サステナブル・ブランド ジャパン アカデミックチームが消費者を対象にした調査で、サステナブルなブランドとして1位を獲得している。得点は僅差でトヨタ自動車を上回った。持続可能な社会における代表的なブランドとなったのである。