〈次期首相をめぐる“妖怪大戦争”〉根回しなしの岸田“自爆テロ”で後継レースに号砲。菅、麻生、二階、森…長老たちが推すのは誰だ?

岸田文雄首相の衝撃的な退任発表を受け、「ポスト岸田レース」が幕を開けた。そんななか、にわかに存在感を高めているのが、陰で権力を牛耳ってきた長老たちだ。岸田首相を支えてきた「主流派」のドン・麻生太郎氏。そして後継候補の石破茂氏、小泉進次郎氏との連携の可能性がささやかれる「非主流派」を統べる菅義偉氏。2人の「フィクサー」を軸にした熾烈な権力闘争が始まった。

「側近にも会見ギリギリまで伝えていなかった」

「最後まで岸田さんの自爆テロに翻弄された…」

永田町のベテラン秘書はこうため息をついた。お盆休みまっただ中の列島に衝撃が走ったのは8月14日。この日の午後に開かれた会見で、岸田首相自らが「私が身を引くことでけじめをつけ、総裁選に向かっていきたい」と政権の終焉を語ったのだ。

そんななかで注目されるのは、2人の大物の動向である。岸田首相の後見人として振る舞ってきた麻生太郎副総裁と、前政権を担い首相を辞した後も影響力を保持する菅義偉前首相の2人である。

「どうも今回の岸田首相の総裁選不出馬宣言、麻生さんの耳には入っていなかったようです」と囁くのは前出のベテラン秘書だ。

複数の関係者によると、岸田首相が総裁選に名乗りを上げて再選を果たす道筋は自民党執行部の間でも「既定路線」になっていたとされる。

「今年の総裁選を乗り切り、来年の衆院選まで首相を務めて後任にバトンタッチする、というのが自民党の執行部内で共有されていたシナリオだった。

この案は麻生さんも了承しており、森山裕総務会長ら党幹部もその案に沿って動いていた。岸田さんにも『来年まではしっかりと支えていく』と伝えていたはずです」

ところが、である。岸田首相は9月の総裁選の日程が公表されるよりも前に、自ら辞意を表明してしまった。

岸田首相は8月9日、中央アジア諸国を歴訪する外交日程を取りやめた。8日午後に発生した、日向灘を震源とする最大震度6弱の地震と、それに伴い、気象庁が南海トラフ地震臨時情報を発したことへの対応を優先したためだ。これが9月の総裁選を見越した動きであることは明らかだった。なのに既定路線とみられていた総裁選出馬がなくなったのはなぜか。

「岸田さんの辞意が周辺に伝わったのは本当に会見直前のことだったようです。側近にも会見ギリギリまで伝えていなかった。麻生さんや森山さんにも事前の相談などの根回しはなかったとみられていて、ほとんど事後報告のような形で伝わった。翻意を促されても説得に応じる気配はなかったといいます」(全国紙政治部記者)

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「長老たちの蠢きが岸田さんを徐々に追い詰めていった」 

岸田首相はこれまでも重要な政治決断を周囲に伝えずに断行してきた。裏金問題を受けて岸田派の解散を決めた際にも、その独断専行ぶりが麻生氏の怒りを買った。今回は自身の政治生命を懸けた、まさに「自爆」ともいえるサプライズを仕掛けたことになる。

背景には、その麻生氏をはじめとする長老たちの水面下での蠢きが岸田首相の捨て身の決断に至らせた側面もあるのだという。

「岸田首相には当初、麻生さんらのシナリオ通り来年まで首相をして後継に託す選択肢があったようです。しかし、情勢分析を重ねた結果、総裁選に出馬しても勝てない、という結論に至った。

かねてから菅さんが石破さんらを担ごうとする動きもありましたが、ここにきて森喜朗元首相、二階俊博元幹事長といった政界を退いた重鎮の動きが活発化してきたことも耳に入っていた。彼らが主導する『岸田降ろし』に抗する気力を失ったという面もあるのではないでしょうか」(前出の秘書)

麻生派を率いる麻生氏と、派閥の枠組みにとらわれない独自の政治勢力を築いている菅氏との間では、従来から次のキングメーカーの座を巡る暗闘が続いてきた。その構図に、一時は鳴りを潜めていた森氏、二階氏が加わり、自民党内の権力バランスはさらに複雑になっているという。

「森さんは裏金問題の黒幕として名前が出ていた昨年末から今年初めにかけては露出を控え、老人ホームに入るなど表舞台から消えていた。二階氏も裏金問題にまつわる東京地検特捜部の捜査が続いている時期に重病説が出回り、存在感が薄まっていた。

ところが、ここにきて2人が永田町の会合に出席するなど、にわかに動きが活発化してきた。麻生さんとしては1年かけて岸田さんの後継を探して影響力を保持しようという腹づもりだったのでしょうが、そんな麻生さんの思惑にも岸田さんは当然気づいているはず。こうした長老たちの蠢きが岸田さんを徐々に追い詰めていったのでしょう」(前同)