「マクロス」シリーズで人気No.1の歌姫「シェリル・ノーム」は「銀河の妖精」と呼ばれ、その美貌も歌声もファンを魅了し続けています。しかし、TVシリーズ、劇場版、マンガ版、どれをとっても、シェリルには不幸過ぎる境遇が待ち受けていました。



シェリル・ノームのヴィジュアル集第2弾『マクロスF VISUAL COLLECTION シェリル・ノーム FINAL』(角川書店)

【画像】え、ヒップがやばすぎません? こちらが過激にもほどがあるシェリルのライブ衣装です(5枚)

超人気「銀河の妖精」は悲惨な目に遭い続ける?

 1982年から放送された『超時空要塞マクロス』に始まる「マクロス」シリーズは、劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が2024年で公開40周年を迎え、今なお高い人気を誇ります。新作アニメはサンライズの制作で企画がスタートしており、今後の展開も注目されています。

「マクロス」の歌姫といえば、初代の「リン・ミンメイ(CV:飯島真理)」が当時のファンに強烈なインパクトを残しましたが、現在、シリーズで最も人気があるのは『マクロスF』(2008年放送)の「シェリル・ノーム(CV:遠藤綾)」ではないでしょうか。2019年にNHK BSプレミアムで放送された『全マクロス大投票』において、「キャラクター部門」で作品別ランキング、総合ランキング、いずれも1位を獲得したのがシェリルです。

 作中では「銀河の妖精」と呼ばれ、「銀河にいてシェリルの歌を聴かない日はない」といわれるほどのトップスターは、現実世界においても一目置かれる存在です。シェリルの歌を担当するMay’nさんの圧倒的な歌唱力も人気の理由のひとつで、『マクロス40周年記念超時空コラボアルバム「デカルチャー!! ミクスチャー!!!!!」』(2022年発売)では『マクロスΔ』の楽曲を「ランカ・リー」役の声優・中島愛さんと歌い、ファンから大絶賛されました。

「マクロス」界を代表する歌姫でありながら、本編におけるシェリルの境遇はけして華やかな面ばかりではなく、悲惨な運命に翻弄(ほんろう)され続けてきた不遇なキャラクターといえます。

※これ以降、『マクロスF』のネタバレとなる記述があります。ご了承の上、お読み下さい。

 TVシリーズ冒頭では、ライブで堂々たるパフォーマンスを見せるも、宇宙外生命体「バジュラ」の襲来で中断を余儀なくされてしまいます。ライブ中に母親の形見であるイヤリングをなくしてしまったことをきっかけに、主人公「早乙女アルト」と接近し、やがて恋心を抱くようになります。しかし、恋と歌、両方のライバルとなるランカの存在、そして「V型感染症」による体調の悪化から、歌手としての人気は凋落してしまいます。

 シェリルは、過酷な幼少期を送っています。彼女が生まれた船団「マクロス・ギャラクシー」では、人体をサイボーグ化する「インプラント」が推進されていました。シェリルの両親はインプラント反対活動家であったため、殺害されてしまいます。孤児となったシェリルは、スラムをさまよい、残飯を食らう日々を送っていました。「グレイス・オコナー」に保護され、トップアーティストの道を進みますが、唯一の家族と思っていたグレイスは、シェリルを実験体として利用していたのです。グレイスは「あなたは死ぬ」とシェリルを捨て、ランカのマネージャーとなります。

 またも孤独の身となり、雨のなかさまようシェリルに傘を差してくれたのは、アルト……ではなく、彼の兄弟子である「早乙女矢三郎」でした。早乙女家に駆けつけたアルトは、シェリルの最期のときまでそばにいることを約束します。しかし、アルトの心が自分にないと、シェリルは察していました。

 銀河を掌握しようとするグレイスとの最終決戦で、残りの命を燃やして歌ったシェリルでしたが、ランカの力によってV型ウイルスを脳から腹に移動させることで死を回避します。しかし、シェリル、アルト、ランカの三角関係の結末はというと、「アルトがはっきりしないまま」最終回を終えました。「お前が……お前たちが俺の翼だ!」というアルトのセリフは、ファンの間では「モヤッとする」と賛否別れる結末となりました。



アニメ版とは大幅に違う展開を見せる少女マンガ版『シェリル~キス・イン・ザ・ギャラクシー~』第1巻(マンガ:小山鹿梨子/原案協力:河森正治/講談社)

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映画、少女マンガ版でも報われない?

「マクロス」シリーズ作品は、「マクロスの世界で起こった史実を元に作られたフィクション」という位置づけのため、TVシリーズや劇場版で展開が異なります。

 劇場版でのシェリルはというと、『劇場版マクロスF ~イツワリノウタヒメ~』、『劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~』において、物語の舞台となる「フロンティア船団」を訪れた、ギャラクシー船団のスパイという設定に変更されています。また、V型感染症は、脳ではなく声帯にウイルスがいるという設定となり、声帯を切り取り一生歌えなくなるか、死ぬか、もしくはランカの内臓を移植するかの選択を迫られることになります。

 シェリルへの過酷な運命は続き、スパイ容疑で逮捕されて「アルカトラズ刑務所」に収監、死刑判決を受けます。アルトやランカらによって刑務所から救出されるものの、追手からランカをかばい、宇宙空間に投げ出されて生死不明となります。

 劇場版でのグレイスはいわゆるラスボスではなく、最期はシェリルに歌うチャンスを与えて事切れます。衰弱しつつも、命がけで歌ったシェリルにアルトは想いを伝え、TV版ではあいまいなままだった三角関係に決着がつきます。しかし、そのアルトは「バジュラクイーン」とともに姿を消し、行方不明に。シェリルは深い眠りにつき、物語は終わります。

 また、アニメの主人公はアルトですが、シェリルを主人公にした少女マンガ版があります。『シェリル~キス・イン・ザ・ギャラクシー~』(マンガ:小山鹿梨子/原案協力:河森正治)では、アニメ版とかなり設定を変えてシェリルの幼少期からが描かれます。しかしこちらでもやはり熾烈な仕打ちの連続がシェリルを待ち受けます。衣装が切り裂かれるいじめに遭う、ホテルの部屋のスイーツに爆薬が仕掛けられるなどまだ甘いといえる程度で、ライブ中に狙撃され、この世界でも命の危機に陥ります。グレイスの犠牲で一命を取り留めるものの、グレイスは裏切り者として消され、シェリルは家族同然の存在を失っていまいます。

 銀河中を魅了するライブパフォーマンスを披露し、プライベートでも高いプロ意識で周囲を圧倒する存在のシェリルも、素は17歳(公称)相応に傷つき、弱い面も持っています。作中でのシェリルの境遇は悲惨なものでしたが、「あたしは絶望のなかで歌ってみせる」というセリフが象徴するように、どんな暗闇にいたとしても彼女の輝きを鈍らせることはできないのでしょう。

『劇場短編マクロスF ~時の迷宮~』でシェリルのその後が描かれますが、目覚めることのないまま、アルトが戻るのを待ち続けています。いつか、シェリルが目覚め、アルトと再会する日は来るのでしょうか。