バトルマンガにおいて、主人公たちはもちろん物語の中心で、その戦いはとても盛り上がります。しかし、敵同士のバトルであっても、時に主人公たちの戦いを上回るほど盛り上がることもありました。



『ベストバウト オブ はじめの一歩! 間柴了VS.沢村竜平 日本J・ライト級タイトルマッチ編』(講談社)

【画像】え…っ? やっぱ圧倒的人気? こちらが『はじめの一歩』で「ベストバウト」と言われる「主人公以外の戦い」です

まるで主人公? 敵陣営なのに感情移入してしまうアツい戦い

 さまざまなバトルが展開されるマンガでは、「敵VS敵」のバトルも存在します。そして、その戦いは、時に主人公たちのバトルよりも印象に残る、すべてを出し尽くすような戦いもありました。

※この記事は『僕のヒーローアカデミア』『はじめの一歩』『HUNTER×HUNTER』のネタバレを含みます。

死柄木弔VSリ・デストロ『僕のヒーローアカデミア』

 2024年8月5日発売の「週刊少年ジャンプ」(集英社)36・37合併号で、ついに完結したマンガ『僕のヒーローアカデミア』では、敵側である「敵(ヴィラン)連合」もまた、ヒーロー側と同じぐらいキャラが深掘りされ、多くの熱いバトルが描かれています。そして、「敵連合」を率いる「死柄木弔」のバトルのなかで特に重要なのが、同じようにヒーローと敵対する立場にある「異能解放軍」指導者の「リ・デストロ」との戦いでした。

「敵連合」と「異能解放軍」の戦いは、「敵連合」のメンバーが追い詰められるたびに次々と覚醒していく、まるでヒーロー側を見ている気になる戦いでした。そして死柄木も、リ・デストロのストレスをパワーに変える異能「ストレス」の前に、左手親指、人差し指、中指を砕かれ追い詰められますが、身体に付けていた手を壊されたことで、閉じ込めていた記憶が解放され覚醒したのです。

 そして触れたものを崩壊させる死柄木の個性「崩壊」は、覚醒後、触れたものに接触する全ての物体に崩壊を伝播させるようになりました。死柄木の辺り一面を崩壊させる圧倒的な力と、すべてから解放された姿を見て負けを認めたリ・デストロは、「異能解放軍」を「敵連合」に統合することを決意したのです。

 死柄木弔VSリ・デストロも凄まじいものでしたが、敵VS敵の戦いとは思えないほど、「敵連合」の強い仲間意識が描かれたこの戦いで、彼らを好きになった方も多いのではないでしょうか。

間柴了VS沢村竜平『はじめの一歩』

 人気ボクシングマンガ『はじめの一歩』では、30年以上の連載のなかで数々の名勝負が描かれてきました。主人公「幕之内一歩」の試合はもちろん、一歩と戦ったことのあるキャラたちの熱い試合も、多くの読者に愛されています。そのなかでも、日本ジュニアライト級のベルトをかけて戦った「間柴VS沢村」は、他の試合では見られない「狂気」によって、読者に鮮烈な印象を残したのです。

「沢村竜平VS間柴了」は、ともに勝つためには手段を選ばないふたりの対決で、試合前から緊張感が漂っていました。そして、間柴の唯一の家族である妹「久美」に、沢村が暴力を振るった過去もあったため、その緊張感は異様なものになっていったのです。

 試合序盤は、予想に反してクリーンな技術の応酬が続き、ラフプレーは見られませんでした。しかし、沢村がボクシングで禁止されているバックハンドブローを放ったことで、試合は両者が次々と反則技を繰り出す荒れた展開へと突入します。

 反則と高等技術が乱れ飛ぶ一進一退の攻防のなかで、間柴は頭突きを使って沢村の片目をつぶし、ダウン寸前まで追い詰めました。しかし、沢村が放った起死回生のカウンターを受けた間柴がダウンしたことで、両者が同時に倒れるダブルノックダウンが起こったのです。最後は、先に立ち上がった間柴がレフェリーの再開合図を待たずに沢村をリング外まで殴り倒して反則負けとなり、沢村の勝利で試合は決着します。

 同じタイプの人間だからこそ負けられないというふたりの激突は、試合というよりケンカに近いものでした。間柴が頭突きをした際にできた「こぶ」が鬼の角のように見える演出、勝利した沢村が試合後にバイク事故を起こして入院し引退した結末まで含めて、同作のなかで異彩を放つ激熱バトルです。

ヒソカ=モロウVSクロロ=ルシルフル『HUNTER×HUNTER』

 マンガ『HUNTER×HUNTER』で、もっとも盛り上がった敵VS敵のバトルといえば「ヒソカVSクロロ」ではないでしょうか。「ヨークシン編」(単行本8巻~13巻)で判明した、「幻影旅団」の団長「クロロ」との戦いを求めた「ヒソカ」の幻影旅団への偽装加入から始まったふたりの戦いへの期待は、単行本34巻でついに実を結びました。

「天空闘技場」で激突したふたりは、自身の念能力とそれを使った頭脳戦を極限まで突き詰めており、能力バトルの最高峰ともいえる戦いを繰り広げます。しかし、クロロの念能力「盗賊の極意(スキルハンター)」は、条件を満たせば他人の念能力を扱えるという性質に加え、ヒソカ戦では旅団員の協力でいくつもの念能力を併用していたため、戦いの内容をしっかり把握するためには何度も読み返す必要があるほど複雑でした。

 そして戦いは死闘の末にクロロが勝利し、ヒソカは死亡します。しかし、ヒソカは死後に発動する念能力で蘇生すると、その後は無差別に旅団メンバーを狙い始めたのです。ここで決着はしなかったものの、単行本20巻以上の間、期待され続けた戦いへの注目度は高く、この戦いの解説記事や動画がいくつも生まれるほど盛り上がりました。

 最新の「王位継承編」では幻影旅団が乗船している暗黒大陸へと向かう巨大船「ブラックホエール号」にヒソカも乗っており、再び戦うことがあるのか要注目です。