酸素が豊富な大気
地球は窒素が約78%、酸素が約21%というきわめて珍しい成分の大気をもっています。
地球の大気組成 / credit:創造情報研究所
他の地球型惑星、例えば金星や火星の大気はほとんど二酸化炭素で構成されています。金星では約96%、火星では約95%が二酸化炭素です。また、水星には大気がほとんどありません。
では他の惑星と比べて地球の二酸化炭素濃度が非常に低いのはなぜでしょうか?
形成初期の地球は、原始惑星系円盤ガスに覆われていました。それは誕生したての太陽を取り囲むガスで、主に水素とヘリウムから成っていました。当時の地球の大気を一次大気といいます。
誕生したばかりの地球にさらに微惑星が繰り返しぶつかり、そこに含まれていた水蒸気や二酸化炭素や窒素などが放出され、地球の大気に加わりました。窒素についてはアンモニアの形で含まれていたとも考えられています。この時期の地球の大気は水蒸気や二酸化炭素が主成分であり、この段階の大気を二次大気と呼びます。
この頃の地球は他の惑星同様に、非常に二酸化炭素濃度が高かったと考えられるのです。
しかし二次大気に含まれていた水蒸気は地球が冷えると液体の海になりました。そして、大量の二酸化炭素は海に溶け込んだのち、炭酸カルシウムなどの炭酸塩鉱物として、海底に堆積しました。そのため地球の大気中からは二酸化炭素が一気に減ったのです。一方、金星には海ができなかったので、初期から現在まで大気中に大量の二酸化炭素が残ったのです。
地球では、大気中から水蒸気と二酸化炭素が大幅に取り除かれ、後に残ったのが窒素でした。窒素だけに目をつけると、その量は初期の地球からほとんど変化してないと推測されます。
酸素については、どうでしょうか?
地球の二次大気には酸素は少しも含まれていませんでした。これは、酸素は活性が強く、岩石などの酸化に使用され鉱物中に取り込まれてしまったからです。しかし、今では酸素は大気組成の約21%を占めています。現在の地球大気中の高い酸素濃度は、生命活動の結果です。この生命活動とは光合成のことです。
光合成とはよく知られているように、光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水からデンプンなどの炭水化物をつくる反応です。多くの植物で行われる酸素発生型光合成では、水を分解して酸素を副産物として放出します。
光合成の簡単な図解 / credit:Daniel Mayer (mav) – original imageVector version by Yerpo和訳/Japanese translation by UkainoADX, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons
ところで、大気は惑星の一部と考えられますが、大気を持つ惑星はどこまでが惑星の中で、どこからを宇宙と考えるのでしょうか?
地球の大気の動きや気象現象に大きな影響を及ぼしています。地球の大気の動きに影響を与えているのは、表面の約70%を覆う海です。
地球の環境は、太陽から程よい距離であるために、水が気体(水蒸気)、液体(水)、個体(氷)の3つの状態を実現できる温度になっています。そのため、水が蒸発して水蒸気となり、大気中で雨や雪となって降り注ぎ、川になって海に流れるという循環が地球の気象現象の大きな特徴となっています。
このような気象現象が起こる領域は、地表から十数kmまでで、これを対流圏と呼びます。その上に薄い大気が層状に流れている成層圏、そして中間圏、熱圏と宇宙につながっています。一般的には、大気がほぼ真空に近くなる100kmより上を宇宙としています。
地球の大気の鉛直構造 / credit:気象庁ホームページ
10~50kmの上空では、酸素がもとになって太陽の紫外線を吸収するオゾン層があります。実はオゾン層ができたのは、今から約4億年前です。
オゾン層ができる前は太陽からの紫外線が直接地面に降り注いていたため、生物は陸上に上がることができませんでした。今、私たちが陸上で生活できているのはオゾン層があるおかげです。
オゾン層 credit:気象庁ホームページ
オゾン層がまだ形成される前の時代に繁殖していた藻類が盛んに光合成を行った結果、大量の酸素が放出され大気中の酸素濃度が上昇しました。そして、大気中の酸素(O2)に紫外線が当たるとオゾン(O3)に化学変化します。これによってオゾン層が形成されました。
地球の大気は、生命の存在に重要な酸素を多く含むだけではなく、生命を守る働きもしているのです。
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強力な地磁気バリア
地球の磁場も生命を守る盾の役割を果たしています。地球には強い磁場があるために、生物にとって有害な太陽風が地表まで届きません。太陽風は高温のプラズマ(原子核と電子が分離したもの)です。これは生物にとっては危険な存在ですが、地球の磁場が防いでくれています。
地球磁気圏の構造模式図 / credit:気象庁地磁気観測所ホームページ
磁場というのは、磁石の力が働く空間のことです。
磁石の不思議な力は昔から人類に利用されてきました。例えば、磁石のN極がほぼ北を向くことは古くから知られていて、古代中国では羅針盤などに利用されてきました。方位磁石が方角を示すのは、地球自体が巨大な磁石になっているためで、地球による磁気を地磁気と呼びます。
これは渡りをする生物(季節によって長距離を移動し住む場所を変える生物)が方角を知る際にも利用されていると言われています。
なぜ、地球に強い磁場が存在するのかは長い間よくわかっていませんでした。地球の中心部は5000℃を超える超高温です。強磁性鉱物でも数百℃以上の高温では磁性を失うことを考えると、地球内部の鉱物が永久磁石になっているとは考えられません。
しかし、磁石には永久磁石の他に電磁石というものがあります。電流が流れることによって磁力が発生する磁石が電磁石です。
そのため地磁気は、地球内部にある鉱物の磁石が原因ではなく、地球内部で発生している電流が原因と考えられています。地球の外核は高温の液体であり、主に鉄で構成されているので電気をよく通します。これが地球の自転に伴って対流し、鉄の運動によって生じた電流が地磁気を形成します。このように地球内部の流体運動が磁場を生み出しているという仮説をダイナモ理論といいます。
ダイナモ理論 / credit:Andrew Z. Colvin, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons
ところで、他の惑星には磁場があるのでしょうか? 現在までの観測や惑星探査の結果から、金星と火星以外の惑星には磁場があることが分かっています。
ダイナモ理論によると、惑星が磁場を持つためには、内部に液体の金属核が存在し、かつ一定速度以上で自転している必要があります。
例えば、金星は自転周期が約243日と遅すぎるため、強い磁場を生成する条件を満たしていないと考えられます。火星は地球とほぼ同じ自転速度を持っていますが、核が小さいため、その磁場は地球と比べるときわめて微弱です。
金星の自転周期は約243日と遅すぎるたため、火星は自転周期は地球とほぼ同じですが核が小さいため、ほとんど磁場が存在しないと推測できます。水星は惑星自体が小さく自転周期が59日と比較的遅いため、地球の100分の1の磁場しか持っていません。
実は、昔は火星にも磁場があったという証拠が見つかっています。
火星の表面に残された残留磁場から約40億年前までは火星にも地球と同じような磁場があったと考えられているのです。火星の磁場を生み出した仕組みは、今の地球と同じ火星の内部の対流です。しかし、その後火星の磁場は消失しました。
火星の磁場が消えた原因は、火星の核が冷えて対流が止まったためと考えられています。磁場が消失したため、火星は太陽風から大気を保護する力を失い、地表付近まで吹き込んだ太陽風によって大気がはぎとられたと考えられます。
初期の火星には海が存在した可能性もありますが、大気が失われることによって気圧が下がり、海の水が蒸発しやすくなります。水蒸気は上空で酸素と水素に分解されて軽い水素は太陽風に吹き飛ばされます。このようなプロセスによって最終的には大気も海も失われたのでしょう。
かけがえのない地球
今まで見てきたように、奇跡的とも言えるさまざま条件が重なって地球に生命が誕生し、私たち人間をはじめ多くの生物が暮らしています。
人間を含め生命にとって欠かせない大気や水をもつ地球環境は、人間社会が巨大化するにつれて大きく変化しています。
将来、地球以外にも生命が住めるような惑星が見つかるかもしれませんが、今のところ生命が住める星は地球だけです。このかけがえのない地球を、大切にしていきたいものです。
参考文献
惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496
新天文学事典
https://www.amazon.co.jp/dp/4062578069
元論文
How Many Species Are There on Earth and in the Ocean?
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.1001127
ライター
浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。