「NATURE&NURTUREが噛み合ってこそ、選手育成は機能する」反町GMが乗り出した清水アカデミー改革の全貌(前編)

 1998年に17歳で日本代表デビューした市川大祐を筆頭に、数々の逸材を輩出してきた清水エスパルスのアカデミー。2012年には石毛秀樹が18歳でナビスコカップのニューヒーロー賞を受賞し、その後の世代である北川航也、宮本航汰らが今季の主力としてチームをけん引している。

 しかしながら、今季のアカデミーに目を向けてみると、ユースはプリンスリーグ東海で5位と苦戦。ジュニアユースは東海U-15リーグで首位を走っているものの、より成長速度を引き上げていく必要があるのは確かだ。

 今年5月に清水に赴いた反町康治GM兼サッカー事業本部長も、2か月がかりで現状をつぶさに見て、アカデミー全体の目線合わせが必要だと痛感。7月10日に清水のユース・ジュニアユース・U-10~12、三島のジュニアユース・U-10~12の指導者約40人と強化部スタッフ約10人を集め、「サッカー事業本部研修会」を実施するに至った。

 反町GMが最初に申し合わせたのは、アカデミーが注力すべきこと。①トップリーグ(大会)でのタイトル争い、②トップチームで活躍できる人材育成、②将来、社会に貢献できる人材育成が3本柱だということをまずは再確認した。

「そのうえで、特にセンターバックやサイドバックの育成に力を入れたいと伝えました。これまで清水からは市川、犬飼智也、立田悠悟のような人材が出てますが、ABC契約の撤廃が現実になりつつあるなか、センターバックやサイドバックは外部からの獲得がより難しくなると見られます。だからこそ、このポジションを重視すべきなんです。

 そのうえで、『うまくて、速くて、走れて、しっかりプレーできる選手』を作らないといけない。うまい選手はたくさんいますけど、全てを備えている選手でなければ、高いレベルには辿り着けない。特に『しっかりプレーする』という文言は責任を持ってプレーするという意味合いがある。指導者の意識をもう一段階引き上げることが重要なんです」と、反町GMは語気を強めた。
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「タレントを輩出させるうえで、クラブ側や指導者は2つの視点をしっかり持つことが大事なんです。1つはNATURE(生来の才能)の把握、もう1つはNURTURE(育成)です。NATUREを考えた場合、それを見極めるポイントとして6Pを上げています。①パーソナリティ(性格)、②プロポーション(身体の均整)、③ポテンシャル(潜在能力)、④フィジカルアビリティ(身体能力)、⑤ポゼッション(ボールの保持能力)、⑥ペネトレーション(突破力)の6つです。

 また指導者はNURTUREを通じて、プレーヤー側に次の6Pを獲得させることが必要です。①プライド(自信)、②パッション(情熱)、③フィジカルスキル、④パフォーマンス(表現力)、⑤ポジティビティ(積極性)、⑥ポシビリティ(可能性)の6つを挙げました。

 子どもたちには生来の才能(NATURE)がありますが、それだけでキャリアの全てが決まるわけではない。それぞれに不足している能力、必要な能力を大事に育てていく(NURTURE)ことも重要なんです。

『NATURE&NURTURE』がうまく噛み合ってこそ、選手育成は機能する。そのポイントが言語化されていて、ハッキリしていれば、教える側も教わる側も迷いなく前へ進んでいける。そのために2つの『6P』を示させてもらいました」と反町GMは言う。
 
 こういった意識の高さは、今年3月まで日本サッカー協会(JFA)で技術委員長を務めていた経験から来る部分も大だろう。JFA時代も反町GMはワールドカップや五輪などの世界大会、アジア予選などがあるたびにパワーポイントで報告書を作成。可視化できるように努めてきた。

 日本代表が98年フランスW杯に初出場してから26年が経過しているが、これまでの代表の足跡や収穫・課題が事細かく書面に残されているかというと、そうとも言い切れない部分がある。筆者の経験だと、年代別代表の過去の招集メンバーリストを探そうとすると、当時のニュースリリースを1枚ずつ見なければならない状況で、データ化されていなかったことに驚かされたことがあった。

 ゆえに、反町GMのように「可視化」「共有化」を重要視する人材は貴重。もちろん清水というクラブにとってもプラスになっていくはずだ。

 上記の『選手を見極める6P』に話を戻すと、反町GMが携わった長友佑都、吉田麻也、遠藤航といった選手たちは、6項目中4・5以上はクリアしていたようだ。
 
「北京五輪代表で指導した佑都を例に挙げると、ボール保持能力以外は全て満たしていました。麻也も性格、均整、身体能力、潜在能力、ボール保持能力は全てあった。なかったのはスピードと突破力くらいですね。

 航は湘南ベルマーレで監督していた時に17歳でトップデビューさせた選手ですけど、背筋がピンと伸びていて均整が取れていたし、性格もブレない強さを備えていた。身体能力の部分でそれほど速さがなく、突破力も足りなかったけど、常にビビることなくボールを受けられる堂々としたところもあって、潜在能力の高さを強く感じました。

 そうやって育成年代から成長し、A代表になり、海外で活躍した選手たちはもともとのNATUREの部分が高いだけでなく、NURTUREの部分でも成長度が高かった。我々のアカデミーでもそういったタレントを数多く輩出していくことが大事なんです」

 反町GMの話を直々に聞いた伊達倫央育成本部長は「ソリさんの話は現場に即しているので非常に説得力がありますし、大切なことを再認識させてくれる。『6P』を改めて明確に示してくれたことで、アカデミーのコーチもやることが明確になったと思います」と話していた。

 まずは大前提を頭に入れること。そこが清水の育成改革の第一歩と言っていい(後編に続く)。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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