殺人事件の加害者は服役中の刑務所でマンガを読んでもいいのか? 「自分がマンガを読んでいる姿に疑問を持つ」という加害者からの手紙

セルフコントロールや対人スキル、社会性

水原はこうも書いてきた。

またマンガだけでなく以上のいくつかの理由により、学習や勉強、自己啓発や人格形成のための本など、自己投資の書籍類も買うのを控えていました。まったく買わないわけではないのですが、やはりある種の疑問を覚えていたのです。後ろめたさなども。

「買うのを控えていた」と過去形で書きましたが、実はこの点に関しては最近考えがいくらか変わりつつあります。

半年ほど前、オヤジ(工場担当の職員)と話しているときに「確かにお前は反省について深く考えている。けど他のことももっと深く考えなくちゃいけない(対人スキルや社会性など)。反省だけに特化していたら、たとえばふるいにかけたとき、それはきちんと残るかもしれないけど、向きと角度によっては、ストンと落ちるぞ。バランスの悪さと何かを急いている感がある」との指摘を受けました。

それについてずっと考えていました。

これまで自分の思考の前提には被害者の方がいました。先に挙げたマンガや本にしても、笑うことや喜び、幸福などにしても。そして更生についても反省の深さ、善の心が何よりも肝要と考えていました。

けれどもセルフコントロールや対人スキル、社会性などにも目を向けなければならないのかもしれません。何でもかんでも被害者の方を前提に思考するのは健全ではないのではないかと考えるようになったのです。

写真/shutterstock

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贖罪 殺人は償えるのか

藤井 誠二

2024年7月17日1,210円(税込)新書判/312ページISBN: 978-4-08-721325-6少年犯罪を取材してきたノンフィクションライターの著者のもとへ、ある日、見知らぬ人物から手紙が届いた。それは何の罪もない人の命を奪った、長期受刑者からの手紙だった。加害者は己の罪と向き合い、問いを投げかける。
「償い」「謝罪」「反省」「更生」「贖罪」――。加害者には国家から受ける罰とは別に、それ以上に大切で行わなければならないことがあるのではないか。著者の応答からは、現在の裁判・法制度の問題点も浮かび上がる。
さまざまな矛盾と答えのない問いの狭間で、本書は「贖罪」をめぐって二人が考え続けた記録である。◆目次◆
はじめに 加害者からの手紙
第一章 獣
第二章 祈り
第三章 夢
第四章 償い
第五章 贖罪
おわりに 受刑者に被害者や被害者遺族の声を交わらせるということ