アーロン・ジャッジ(ヤンキース)がメジャー9年目で通算300本塁打のマイルストーンにたどりついた。史上最速の955試合、3431打席で積み上げたホームランから、特に印象に残る5本を改めて振り返ってみよう。
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▼チームの未来も照らしたメジャー初打席特大弾
(第1号/2016年8月13日)
身長2mを超す超大型スラッガーの怪力伝説は、メジャー初昇格直後の一発から始まった。本拠地ヤンキー・スタジアムのレイズ戦で「8番・ライト」として先発出場すると、2回の初打席で2ストライクと追い込まれながら緩いチェンジアップを捉え、軽々とセンター2階席へ運んだ。
規格外のパワーを即披露したホームランは、デレク・ジーターが14年限りで引退し、アレックス・ロドリゲスが現役最後の試合を終えたばかりのヤンキースにとって大きな希望の光になった。その前の打席では、同じくデビューを果たしたばかりのタイラー・オースティン(現DeNA)も本塁打を放っていて、2打者連続メジャー初打席初本塁打という史上初の記録で球史に名を刻んだ。
▼ルーキー史上初のシーズン50本塁打達成
(第54号/2017年9月25日)
メジャー2年目を迎えたジャッジは開幕から驚異的なペースでアーチを量産する。4月だけで10本、前半戦終了までに30本。球宴ホームラン・ダービーでも47本を放って優勝した。8月はペースが落ちたが、9月に入って再び猛チャージを開始。1987年にマーク・マグワイアが達成した49本塁打のルーキーシーズン記録更新も秒読み段階に入った。
48本塁打で迎えた9月25日のロイヤルズ戦、ジャッジは本拠地ヤンキー・スタジアムで右へ左へ快打を飛ばし、2日連続の1試合2ホーマーであっさりマグワイアの記録を追い抜いた。マグワイアいわく「どれだけ数字を伸ばすか分からない。真面目な話、73本(バリー・ボンズの年間本塁打記録)だってあり得るよ」。最終的に52本まで記録を伸ばし、本塁打王を獲得。史上3人目の新人王&MVP同時受賞こそならなかったが、歴代でも指折りのルーキーイヤーを過ごした。▼名作映画の夢舞台でも自慢のパワーで2発
(第144号/2021年8月12日)
野球映画の傑作『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となったアイオワ州ダイアーズビルで行われた初の公式戦でも、ジャッジは千両役者ぶりを見せつけた。まずは1点を追う3回にランス・リン(ホワイトソックス)から逆転3ランを放つと、3点ビハインドの9回には球界屈指の守護神リアム・ヘンドリクスに追撃の2ランを見舞い、いずれも外野フェンス向こうのとうもろこし畑を揺らしてみせた。
試合は8対9でヤンキースがサヨナラ負けを喫したが、“野球の華”ホームランでMLBが力を入れて開催した初の試みを盛り上げ、5打点は両チーム最多。プロモーションビデオでは映画の有名シーンを演じ、「子供の頃に映画や漫画のヒーローを観ていたが、人生でこんな経験ができるとは思っていなかった」と喜んでいた。
▼思わぬ感動ストーリーを作った一撃
(第167号/2022年5月3日)
一本のアーチが、思わぬ形で感動の輪を広げた。敵地ロジャース・センターでジャッジが放ったホームランボールを拾い上げたのはブルージェイズファンの男性。一瞬喜んだが、後方にヤンキースのキャップをかぶった少年が目に入るや、ためらうことなくボールをプレゼントした。
泣きじゃくりながら喜ぶ少年とハグを交わす両者の姿は、瞬く間にSNSで拡散された。その話を試合後に聞いたジャッジは「それこそが野球の特別なところだ。どんなジャージーを着ていても関係ない」と語り、翌日の試合前には2人をダグアウトへ招待した。
ホームランボールをもらった少年は9歳でベネズエラ出身。家族ともども大のヤンキースファンで、毎年貯金をしながらトロントでのヤンキース戦は全試合観戦するという筋金入り。最初にボールをつかんだ男性は少年にこう囁いたという。「いつの日か君も僕と同じ立場になって、子供を喜ばせてあげてくれ」▼ア・リーグ新記録樹立のシーズン62号
(第220号:2022年10月4日)
22年は17年を上回るペースでホームランを量産。夏を迎える頃には、1961年にロジャー・マリス(ヤンキース)が打ち立てたシーズン61本塁打のアメリカン・リーグ記録更新を期待する声が上がった。9月20日に60号を放ち、マリスの記録にあと1本と迫った時点では、残り15試合が残されていた。全米の注目も一段と高まったが、そこから7試合は音なし。
28日のブルージェイズ戦で61号が出たが、そこからまた5試合一発が出ない。気づけば残り試合も徐々に少なくなり、ジャッジ自身も毎試合7回を迎える頃には「残り1打席しかない、何とかしないと」という胸中だったという。
それでも、シーズン161試合目のレンジャーズ戦でようやく歓喜の瞬間が訪れる。ダブルヘッダー2試合目の第1打席、ヘスス・ティノコが投じた甘いスライダーを打ち砕くと、打球は低い弾道でレフトスタンドへ飛び込んだ。61年ぶりの新記録誕生に敵地グローブライフ・フィールドは大歓声に包まれたが、打った本人は淡々とした様子でダイヤモンドを一周。ホームベース周辺に集まった仲間から祝福されてようやく表情を崩したが、歴史的快挙にもいつもの紳士然とした姿がいかにもジャッジらしかった。
▼宿命のライバルを震撼させる強烈な一撃
(第293号:2024年7月26日)
乾いた打球音を残し、フェンウェイ・パークのセンター深くへ飛んだボールがスコアボードの真下に飛び込んだ。宿敵レッドソックスとの一戦、1点を追う7回に放った今季36号の逆転3ランの飛距離は470フィート(約143m)。レッドソックスファンのブーイングと、ヤンキースファンの歓声が交差する異様な雰囲気の中、ジャッジは涼しげな顔でベースを一周した。
敵将アレックス・コーラ監督いわく、2007年に強打者マニー・ラミレスが同じエリアまで飛ばしたとのことだが、それ以降では「あそこまで飛ばした選手は見たことがない」と脱帽。ちなみにジャッジは、昨年9月14日にもフェンウェイで逆転のグランドスラムを叩き込んでいる。「フェンウェイでのレッドソックス対ヤンキースに勝るものはない」と語るように、やはり宿命のライバル対決には並々ならぬ思いで臨んでいるようだ。▼歴代最速で新たなマイルストーンへ
(第300号:2024年8月14日)
インコースへ食い込むチャド・クール(ホワイトソックス)のシンカーを窮屈そうに叩いたスウィングは、決して美しくはなかったかもしれない。それでも、並の打者であればフライアウトに終わりそうな打球はギャランティード・レイト・フィールドのレフトフェンスを越え、相手ブルペンで弾んだ。
デビュー直後から球界を席巻し続けている規格外のパワーを、トレードマークの豪快弾とはまた違う形で見せつけた通算300号。955試合目での達成は、それまでのラルフ・カイナーの歴代最速記録を一気に132試合も更新してみせた。3431打数目での到達も、ベーブ・ルース(3831)を抜いてやはり歴代最速。アーロン・ブーン監督が「歴史上、ほんの一握りの選手しか達成していないことをやってのけている」と語ったように、この記録でジャッジが「史上有数のスラッガー」として歴史に名を残すことは揺るがなくなったと言っていいだろう。
文●藤原彬
著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。X(旧ツイッター)IDは@Struggler_AKIRA。
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