甲子園で勝つんだという気持ち。それは、どの出場校も同じくらい強く持っている。しかし、3年ぶりのベスト8進出を決めた京都国際にとってのその思いは一味違う。
大会11日めの第2試合で、西日本短大付打線を完封したエースの中崎琉生は言う。
「9回に相手の声援が大きくなって、これが甲子園かと思いながら投げていました。こういう場面を抑えられないと成長できないと思ったので、完封できて一つ成長できたかなと思います」
甲子園では勝利は約束されていない。だが、必ず約束されているのが「成長できる」ということだ。
「うちは個の力を大切にしていますので」
京都国際の小牧憲継監督は常にそう口にしてきた指揮官だ。もちろん、小牧も甲子園で勝つことを目標にしているが、それと同じくらい選手がこの舞台に立つことの意義も重視している。練習グラウンドが大きくないこともあるが、小牧は常に「個の成長」を強く意識している。室内で打ち込む選手を指導者が止めないと練習が終わらないという空気こそが、京都国際の最大の強みだ。
「新チームになってからずっと振り込んできた。オフの期間はスウィングではなくて、ボールを打つということを1000本くらいはやってきた子たちなので、それが成果となっているのかなと思います」
室内練習場での打撃練習では、緩い球を逆方向に強く打つのが京都国際の基礎練習だ。
福岡出身のキャプテン藤本陽毅は言う。
「ずっと強い打球を逆方向に打つという意識で練習をやってきました。チームのいいものが出ているのかなと思う。福岡から来ているので、今日は福岡相手なので負けたら帰れないと思っていた。打てたのは良かった」
この日、打線は16安打を放った。4得点しか挙げられなかったのは課題だが、ずっと攻め続けることができたことはチームにとって収穫だったはずだ。「こんなに打てたことも初めてですが、これだけ噛み合わなかったのも初めて。ただ、得点が入らないのは私の責任なんで、選手たちには気にしなくていいからと話しました。だから、『どんどん攻める姿勢を持っていこう』って話をしていました」
個を高めてきたからこその16安打。これまでの努力の賜物と言っていいだろう。一方で、今年の京都国際は3年前にベスト4に進出した当時と比べても、チーム力への比重が大きいという。3年前の好成績を受けて甲子園で勝つ意欲を持った選手が多く入学してきたことに加え、この春のセンバツ1回戦で青森山田に惜敗した経験も大きい。
その試合で、京都国際は個々の能力の違いをまざまざと感じた。この経験がチームを変えたという。
小牧は話す。
「青森山田さんと試合をして、完全に個の能力で力負けしたので、どうやって夏にやり返すのか。どうやって勝つかを考えた時にチーム力しかないということで、これまで以上にチームが勝つための練習を増やしていきました。選手たちが『勝つための練習がしたい』と言ってきました。メンバーから外れた3年生と今も一緒に練習してるんですけど、その子たちを何とか国体に連れていきたい、一日でも長く野球をやりたい、みんなで野球をしようっていう思いが強い子たちなので、私も何が何でも勝たせてやりたいっていう気持ちになっていますね」
チーム力だけが先に立つチームでは、ここまで個の力は発揮できないだろう。16安打を放ちながらなかなか得点が奪えない中でエースが完封という姿も望めない。中崎が言うように「成長につながる」ことを目指して、個を高めながらチーム力も高めてきたからこそ、ベスト8までたどり着けたのだろう。
キャプテンの藤本は言う。
「前回のベスト4の時は智弁学園に負けているので、3年前の先輩の分もやり返したいですね」
フリーバッティングができない環境下でボールを打ち込んで打ち込んで個を高めてきた。近畿有数の育成型チームが頂点を射程距離に捉えつつ、3年前のリベンジに挑む。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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